無法きわまりないアメリカのイラク攻撃
国際法を19世紀に逆戻りさせかねない暴挙 |
| 田中則夫 |
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21世紀の冒頭に、時代錯誤もはなはだしい、超大国による国際法のあからさまな蹂躙が起こっています。
国際法は、国際社会における法の支配を確立する上で不可欠な法律です。1945年の国連憲章は、史上初めて、武力による威嚇と武力の行使を明確に禁止しました。何世紀にもわたる人類の悲願であった、戦争の違法化を実現したのです。この武力行使禁止規則の例外は二つだけです。一つは、国連の安保理による軍事的措置の場合(国連憲章四二条)と、もう一つは、自衛権による場合(同五一条)です。
前者の軍事的措置は、まだ一度も発動されたことはありません。国連憲章は、軍事的措置を行うために、加盟国から兵力の提供を受けて国連軍を作り、安保理の下に設けられる軍事参謀委員会が国連軍を指揮・命令すると定めていますが、加盟国から兵力の提供受けるための特別協定が締結されたことはありませんし、実際、安保理が軍事的措置をとる決定を行ったこともありません。しばしば、1991年の湾岸戦争が軍事的措置の事例であるかのようにいわれることがありますが、国連自身、そうした説明はしていません。湾岸戦争は、安保理決議六七八で多国籍軍に武力行使の権限を認め、始まりました。この決議六七八について、当時、国連は、特定の国や部隊に対して安保理が武力行使を授権した、数少ない(朝鮮戦争などのような)事例の一つだと説明しています。
後者の自衛権は、国家に例外的に武力を行使することを認めるものですが、その行使には厳格な要件が付けられています。第一の要件は、武力攻撃が実際に発生した場合に限られるということです(緊急性の要件)。攻撃の恐れがあるとの理由で自衛権に訴える先制自衛は認められていません。その理由は明確です。先制自衛が認められれば、武力行使禁止規則は、完全に形骸化してしまうからです。第二の要件は、自衛権を行使することができるのは、国連の安保理が適切な措置を執るまでの間に限られます。いつまでも、自衛権による武力行使が認められるのではありません。第三の要件は、自衛権は違法な攻撃を排除するために必要な限りで行使できるというもので、過剰な反撃は許されません(均衡性の要件)。
今回、イラクはアメリカに対して武力行使をしたわけではありませんし、安保理がイラクに対する軍事的措置の発動を決定したわけでもありません。したがって、アメリカやイギリスが、独自の判断にもとづきイラクに軍事攻撃を加えることなど、国際法上許されないことです。アメリカは、2001年の9・11テロ事件を契機として、テロリストを支援するような国家に対しては、自衛権にもとづき攻撃できるという主張を強めています。しかし、これは先制自衛の主張の一種にほかならず、認められるものではありません。アメリカは、今回のイラク攻撃に先立ち、イラク政府がテロリスト集団と結びついており、テロリスト集団に大量破壊兵器がわたる恐れがあるので、自衛権にもとづき攻撃するほかはないと強調していました。しかし、これも恐るべき乱暴な主張です。イラク政府とテロリスト集団の結びつきが証明されたわけではありません。イラク政府が大量破壊兵器を横流ししている事実も、何ら確認されていません。
もとより、特定の国の政府がテロリスト集団と結びついたり、そうした集団に武器を供給するといったことは、それ自体非難の対象とされるべきことであり、また、状況のいかんによっては、国際法上の責任問題を発生させることにもなります。しかし、いかに非民主的な政府をもつ国があるとしても、また、テロリスト集団との関係が疑われる国があるとしても、そのこと自体が、そうした国への武力行使を正当化する根拠になるものではありません。そんなことが正当化されるのであれば、軍事大国が独自の判断で、気に入らない国をいつでも攻撃できることになってしまいます。今は、戦争が合法とされ、侵略も植民地支配も思いのままであった19世紀とは違うのです。アメリカは、イラク攻撃を開始してからは、フセイン政権の転覆が戦争目的の一つであると公言して、はばからなくなりました。こうした露骨な内政干渉とでもいうべき言明を聞くと、時代が19世紀にタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。
アメリカは、今回、イラクに対する武力攻撃のお墨付きを国連から得ることに失敗しました。昨年11月に採択された安保理決議一四四一は、大量破壊兵器の廃棄に関する義務を履行する最後の機会を与え、国連による査察体制を強化することを定めたものです。イラクが義務を履行しない場合には、安保理に報告され、安保理で協議することとされていました。この決議は、アメリカなどが独自の判断で、イラクを攻撃してもよいなどと決めたものではありません。ですから、アメリカは、苦しまぎれに、湾岸戦争のきっかけとなった安保理決議六七八や、大量破壊兵器の廃棄に関する査察の受け入れを条件として、湾岸戦争の停戦を決めた決議六八七など、過去の安保理決議を持ちだし、イラクが大量破壊兵器の廃棄に関する義務を履行していないから、これらの決議によって攻撃が正当化されるとも主張しました。
しかし、これも無茶な主張です。決議六七八は、イラクのクウェート侵攻を止めさせるために採択されたもので、現在の事態に適用できるものではありません。決議六八七についていうと、この決議によって、イラクが大量破壊兵器を廃棄する義務を負っていることは確かですが、しかし、その義務の不履行があったかどうか、また、仮に不履行があるとされる場合に、どういった措置をイラクに対してとるかなどは、安保理が決めることとされています。アメリカなどが独自に違反を認定し、イラクに対して勝手な行動をとることなどは、安保理決議によっては認められていないのです。
この記事がニュ−スに掲載されたとき、イラクにおける事態がどういった展開を見せているか、予断を許しません。いずれにせよ、アメリカの無法を即刻止めさせることが絶対に必要です。戦争反対の世論をもっともっと大きくし、アメリカなどによる武力行使の違法性を指摘しつづけること、また、アメリカの無法を批判できない日本政府の過ちを正す努力をおしまないことが重要です。
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