| 大量破壊兵器問題での米拡散対抗戦略とは |
| 新原昭治(国際問題研究者・核問題調査専門委員) |
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アメリカのイラク戦争は、国連憲章の先制攻撃禁止の大原則を正面からじゅうりんして強行されました。それは、20世紀に人類が生み出した戦争禁止の国際的ルールを犯すものとして、国際社会の史上空前の一大抗議をまきおこし、国連安保理でも支持を得られませんでした。それにもかかわらず、道理のないこの戦争が強行されたのはなぜでしょうか。
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| イラクを拡散対抗戦略の初実験場に |
それは、軍事力のむきだしの行使によって世界への覇権的支配を拡大するというブッシュ政権の戦略にあります。なかでも、クリントン前政権から受け継ぎ、いまのアメリカの戦略のカナメにした大量破壊兵器問題での「拡散対抗」という軍事戦略を、いよいよ実行しはじめたことにあります。イラク戦争は、「拡散対抗」軍事戦略を実地に移した最初の戦争となりました。
「拡散対抗」という戦略は、はじめから軍事色を帯びていました。クリントン政権は発足早々の1993年末、大量破壊兵器の世界的拡散を防止する外交上・条約上の対策を、側面から軍事的に助けるものと称して、この戦略を打ち出しました。しかし、実際にはアメリカ一国の意思と戦略的都合のままに、特定の国の大量破壊兵器の開発・保有またはその「疑惑」にアメリカが軍事攻撃を加えることを可能にするものでした。94年6月を頂点に、北朝鮮の核施設と疑われたものへのアメリカの軍事攻撃が計画され、危機的状況がつくられました。「拡散対抗」戦略を実行しようとしたくわだてでした。韓国政府の強い反対やカーター元大統領の訪朝により、未遂に終わりました。その後、九八年にはアメリカが「化学兵器工場」と称してスーダンを軍事攻撃しましたが、それは普通の薬品製造工場であったことが後で判明しています。
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| 一方的先制攻撃の戦略 |
これらの例からも分かるように、「拡散対抗」という軍事戦略は、国連やそれに代わる権威のある国際機関の判断ではなく、アメリカ一国の勝手な判断と思惑で、アメリカに非友好的な特定国に対し、拡散の疑惑だけでも軍事攻撃の口実にするという、まったく一方的な先制攻撃の戦略です。
ブッシュ政権は「拡散対抗」を軍事戦略の中軸に押し上げました。とくに9・11以後はフセイン政権打倒の作戦計画と一体のものに仕上げました。ブッシュ政権における「拡散対抗」戦略の新しさは、大量破壊兵器の拡散を防ぐ外交的条約的手段とはほとんど関係なしに、非友好国の「拡散」疑惑を口実とした先制攻撃で、その国の大量破壊兵器ないしは政権それ自体を、米軍の軍事攻撃で一掃する立場に移行したこと、しかもこれを「国家安全保障戦略」の第一の柱にすえたことにあります。イラク攻撃のためアメリカがひそかに核使用計画さえ練った事実に、その道理のなさが集中的に示されています。
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| 大量破壊兵器問題の真の解決に無縁 |
筆者は2月末、ワシントンで開かれた「拡散対抗」戦略などの研究会議(国防情報センターと社会的責任のための医師の会共催)に出席しました。会議では、ブッシュ政権のもとで「拡散対抗」戦略にもとづき「予防戦争」が合理化されているときびしく警告されました。米誌『フォーリン・アフェアズ』3・4月号のカーネギー国際平和基金副所長パーコビッチの論文は、ホワイトハウスの「拡散対抗」担当の大統領特別補佐官が、大量破壊兵器の疑惑のある「ならず者国家」への一方的軍事攻撃だけでなく、いわゆる「善良な連中」を核不拡散条約の束縛から解いてやるべきだとさえ考えていると指摘しています。「拡散対抗」戦略は、アメリカなど一部の国による核兵器の独占を当然の前提にしながら、アメリカの非友好国の大量破壊兵器保有・開発とその疑惑を、その国の政権もろとも「征伐」しようというものです。世界における大量破壊兵器問題の真の解決とはまったく無縁です。
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| 核独占を軍事的手段で死守する道 |
それは、大量破壊兵器の地球上からの一掃、とりわけ核兵器の全面禁止のすみやかな実現を求める国際世論と世界の流れに敵対して、アメリカの核兵器独占を軍事的手段を使ってでも死守するという意味さえ持つ、危険きわまりない戦略にほかなりません。1月にロンドンでひらかれたこの問題の研究会議で、ロートブラット博士は、「核兵器は敵国またはテロリストの手中にあるものだけが悪いとの発想に立つ『拡散対抗』戦略は、世界を破滅させる恐れがある」と警告し、いまこそ核兵器全面廃絶を緊急の中心課題にすえ直さなければならないと強く訴えました。イラクを“実験場”にしたアメリカの「拡散対抗」戦略は、一国の内政への軍事干渉にとどまらず、世界の核兵器をはじめ大量破壊兵器問題の将来にとっても、深刻な危険を投げかけているのです。
米英軍占領によるイラク植民地化をやめさせ、イラクの復興はアメリカ中心でなく国連主体におこなわせること、また、アメリカの先制攻撃戦争への参戦法案そのものである有事法案制定を阻止することとあわせて、「拡散対抗」戦略の糾明を含め、イラクへの戦争を強行したブッシュ政権の犯罪的行為を徹底的に追及していかなければなりません。
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