[核兵器禁止条約第1回締約国会議に被爆者の声を届けて―
締約国会議を歓迎し、条約の規範力生かして核廃絶へ前進を 笠井亮さん(日本共産党衆院議員・会常任世話人)に聞く]
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| (2022.7.15) |
昨年1月に発効した核兵器禁止条約の第1回締約国会議が、6月21日〜23日、オーストリアの首都ウィーンで開かれ、オブザーバーをふくむ83ヵ国が参加して「ウィーン宣言」「行動計画」を採択し、希望のメッセージを世界に発しました。日本政府は不参加でした。
同会議に日本共産党代表団長として参加した衆議院議員の笠井亮さん(当会常任世話人)に、会議の印象、成果、意義、日本政府問題等について聞きました。 |
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■悲観主義はなく確信に満ちて明るく議論
――まず、会議全体から受けた印象についてお話しください。
「核兵器禁止条約第1回締約国会議」(6月21〜23日)、これに先立つ「核兵器の人道的影響に関する第4回国際会議」(同20日、オーストリア政府主催)、「核兵器禁止フォーラム」(同18〜19日、ICAN主催)に、日本共産党代表団として要請書を携えて出席し、アレクサンダー・クメント議長(オーストリア外務省核軍縮担当局長)をはじめ、5年前のニューヨーク国連本部での禁止条約づくり会議でともに力を尽くしたエレン・ホワイト議長、中満泉国連事務次長、トーマス・ハイノッチ元オーストリア軍縮局長、各国外交団、ベアトリス・フィンICAN事務局長らと、「禁止条約をつくってよかった」「ようやくここまできましたね」と喜びあい、日本原水協、日本被団協代表とも共同しながら、心通う交流ができました。
今回の締約国会議は、ロシアがウクライナ侵略を続けて核兵器使用の威嚇をくり返し、他の核保有国も核戦力の維持・強化を図るもとでの会議でしたが、会議全体が、けっして悲観主義でなく、危機を打開して前進しようという確信に満ちた明るい雰囲気の中で議論されたことが、とても印象的でした。
■条約の規範力が強まっていると実感
――核兵器禁止条約についてはどんな議論になったのでしょうか。
会議の冒頭、クメント議長が、「昨日、カボベルデ、グレナダ、東ティモール3ヵ国が批准して締約国が65ヵ国になった」と報告すると万雷の拍手が沸き起こりました。会議直後の6月29日にはマラウイが批准するなど、禁止条約が発効して、その規範力が強まっていることへの大きな確信がこもごも語られました。「核兵器が我々を根絶する前に、核兵器を廃絶しよう」とのグテレス国連事務総長のビデオメッセージの訴えも参加者に大きな共感を呼びました。
会議では、「禁止条約は核軍備撤廃・不拡散体制の一部となった」(キリバス)、「国際的な核軍備撤廃規範を強化する」(モンゴル)などの発言が相次ぎ、条約発効により核廃絶をめざす世界的な枠組みや法規範の一部となっている意義が明確にされたと思います。
会議の議論の大きな特徴は、核兵器の非人道性、被爆者や核実験被害者の訴えが議論の土台に据えられたことです。「人道的影響に関する第4回国際会議」と翌日の第1回締約国会議で、広島・長崎の被爆者や被爆3世、核実験被害者が証言したのですが、こうした被爆者の訴えが核禁止条約を生み、前進させる大きな原動力となっていることを改めて鮮明に示しました。
これを受けて、条約にある「被害者援助と環境回復」(6条)、そのための「国際的協力」(7条)など条約履行のための実際的な議論も開始されました。タイは、「核武装国や『核の傘』のもとにある国には、人道中心主義がこの条約の本質であることを強調し、建設的な共同関係を訴えたい」と述べました。オブザーバー参加のスイスも、被害者支援は「条約への加盟、未加盟にかかわらず取り組まなければならない問題だ」と強調しました。
もう一つ、締約国会議で注目されたのは、オブザーバー参加した34ヵ国のなかに、NATOなど米国と軍事同盟を結んでいる5ヵ国(ドイツ、ノルウェー、ベルギー、オランダ、オーストラリア)がいたことです。
ドイツは、「核抑止を含めNATO加盟国としての立場と一致しない」条約には参加できないと表明しつつ、核兵器廃絶に向けて「心を開き、誠実に対話することが必要不可欠だ。そのためにドイツはここにいる」と語りました。これらの「立場の違いはあるが、建設的な対話を続けていきたい」という真摯な発言に、会場は満場の拍手で歓迎し、「これぞ本当の『橋渡し』」の声も上がりました。
■「核抑止力は成り立たない」と厳しく批判
――ロシアのプーチン大統領による「核使用の威嚇」をめぐる議論は。
締約国会議では、ロシアのウクライナ侵略について「国連憲章違反であり、受け入れられない」(オーストリア外相)などと、多くの参加者が述べるとともに、「核抑止の理論は平和を守らない」(南アフリカ)など、「核抑止力」論への厳しい批判が展開されました。
禁止条約を批准したばかりの東ティモールの外相は、「核保有国による最近の核の脅しが地域の緊張を高めている。このことは、私たちがいかにもろい安全保障環境の中で暮らしているかを示した」と発言しました。そして、「核使用の威嚇は他の国が抑止を理由に核兵器を持つことを正当化することになる」と批判して、禁止条約の署名、批准を呼びかけました。
オーストリア外相は、「核兵器が安全を保障するという論理は基本的に誤っている。抑止とは核兵器を実際に使う準備があるということだ」「新たな道を示しているのが禁止条約であり、その力を信頼している」と述べ、核兵器廃棄の道筋や被害者援助など条約の具体化を進めようと訴えていました。
私は国会議員会議で、「核抑止力」論は「無力」を「does not work」(成り立たない)と発言したのですが、議場でも「does not work」が何度もくり返されていましたし、核兵器の脅威を根絶するには、全面廃絶以外にないことが次々と表明されました。
核禁止条約は、核兵器の使用もその威嚇も禁じています。ロシアを名指しで批判することに異論があったキューバや南アフリカも含め、「宣言」が「明示的であろうと暗示的であろうと、またいかなる状況下であろうと、あらゆる核の威嚇を明確に非難する」(4項)、「核兵器が実際に使用されるという脅威、すなわち無数の生命、社会、国家を破壊し、地球規模の破滅的な結果をもたらす危険性にもとづいている核抑止論の誤りを、これまで以上に浮き彫りにしている」(5項)と断じたことは重要な意味をもったと思います。
■画期的な「ウィーン宣言」と「行動計画」採択
会議の3日間の討議を経て「ウィーン宣言」と「ウィーン行動計画」が採択されると、議場は各国外交官や市民社会の参加者が総立ちになって拍手を送り、会議の画期的成功を祝い合いました。実に感動的でした。
採択された「宣言」が、「私たちは楽観主義と決意をもって前進する」(16項)とし、クメント議長も会議後の記者会見で、「核軍縮に関する多国間交渉の文書としては、おそらく史上最も強力なものだ」と語ったことが、会議の特徴を端的に示していると思います。
「宣言」とともに採択された「行動計画」では、6つの目標の下、50の具体的な行動計画が示されました。条約の内容を具体化していく道筋が見える、きわめて実践的な内容だと思います。
その主なポイントを紹介すると、
(1)条約の締約国を増やす
▽締約国ごとに60日以内に担当者を設置する。
▽核保有国とも対話を進め条約の目的や意義を共有し、条約への誤解や批判の解消をめざす。
(2)核兵器の廃絶をめざす
▽権限を持つ国際機関の指定について議論を進める。
▽核保有国が管理する核兵器の廃棄の在り方について議論する。
(3)被害者支援と環境改善、国際協力を進める
▽被爆者と核実験の被害者のいる締約国は救済に向けた法整備を進める。
(4)科学的な研究を継続する体制をつくる
▽核兵器のリスクや人道的な影響などを分析する専門家グループを作る。
(5)核軍縮のほかの枠組みとの補完性を強化する
▽NPT=核不拡散条約との協力を進める「調整役」を任命する。
▽核の検証の分野などでIAEA=国際原子力機関などとの協力を強化する。
(6)そのほか条約を達成するために不可欠な項目
▽国連や学会などとの連携や協力を進める。
クメント議長は、閉会にあたり、「各国が協力して成果をあげ、条約に懐疑的な国も議論に参加したことが重要だ。今後は条約を軽視することがむずかしくなろう」と会議の意義を強調し、「多国間主義がぎくしゃくし、核兵器が誤った方向に進むなか、私たちは正しい方向をはっきりと示した。行動し続けてどんな前進が可能か世界に示そう」と訴えました。
「ウィーン宣言」は最後(16項)に、「私たちの前に立ちはだかる課題や障害に幻想を抱いてはいない。しかし、私たちは楽観主義と決意をもって前進する。核兵器がもたらす破滅的なリスクに直面し、人類の生存のために、そうしないわけにいかない」「「私たちは、最後の国が条約に参加し、最後の核弾頭が解体・破壊され、地球上から核兵器が完全に廃絶されるまで、休むことはないだろう」と結んでいます。
まさに、広島・長崎の被爆者の痛苦の体験を踏まえた渾身の訴えが届き、世界共通の思い、決意として受け止められたと思うと、感無量です。
■欠席した日本政府に失望、批判が
――日本政府は結局、被爆者・国民の要請に背を向けて欠席しました。
岸田首相は、ウィーンの会議に参加せず、直後にマドリードで開かれたNATO首脳会議に日本の歴代首相として初めて出席し、大軍拡の宣言まで行いましたが、行く場所が間違っていますね。
私が会場で挨拶を交わした西アフリカの外交官は、「えっ、信じられない」「驚きだ」「とっくに批准していると思っていたのに、なぜ?」と驚きを連発していました。私が「日本政府は、あくまで米国の『核の傘』=核抑止力にしがみつき、いざというときヒロシマ・ナガサキのような惨禍もためらわない立場だから。私たちはこの政治を変えるため尽力している」と応じると、「がんばって」と激励してくれました。
会場に、ドイツ、オーストラリア、ノルウェー、ベルギー、オランダ、オーストラリアの他、スウェーデン、フィンランド、スイスなどのオブザーバー席があるのに、唯一の戦争被爆国の日本政府の席がないのは、あまりに異様です。5年前に禁止条約を採択した国連会議場で、誰もいない日本代表の席に折鶴が置かれ、「wish you were here(あなたがここにいてほしい)」と書かれていたのを私も目撃しましたが、今回、その期待も裏切りました。岸田政権の姿勢がますます問われることになったと思います。「参加もしない日本政府に橋渡しの資格はない」「禁止条約6条、7条の核被害者援助を具体化しようとしているのに、被爆国政府が参加しないとは」などの失望の声が上がりました。
ハイノッチさんも日本の不参加について、「ドイツがオブザーバー参加したのは積極的で、これこそ『橋渡し役』だ。日本は人道的影響ではいっしょにやっているし、禁止条約6条7条で被害者援助があるのに、今回の不参加は残念だ」と述べています。
「ウィーン宣言」は、「一部の非核兵器国が核抑止力を擁護し、核兵器の継続的な保有を奨励し続けていることに懸念を抱いている」(6項)、「核武装国や『核の傘』の下にあるその同盟国のいずれも、核兵器への依存を減らすための真剣な措置をとっていないことを、残念に思い、深く憂慮している」(7項)と指摘しています。これらは、日本政府の立場への厳しい批判と見るべきです。条約参加を求める日本での運動がいよいよ重要になっていると痛感しました。
■格段に高まる市民社会への期待
――市民社会への期待が高まっていますね。
そうですね。市民社会の位置づけがこれまでと比べて格段に高まっていることを実感しました。今回の締約国会議には、禁止条約8条(締約国会議)の規定にもとづいて、私たち国会議員も非政府組織の代表も正式の構成員として招請されたのですが、これはNPT再検討会議や国連特別総会などにはなかった初めてのことです。会議場も政府代表と垣根なく同じフロアーで自由に行き来して交流できました。
会議主催者や国連、各国代表も、被爆者をはじめ市民社会の活動の重要性を強調しましたし、ICAN主催の行事やレセプションにも、クメント議長、中満国連事務次長、オーストリア外相、ニュージーランド軍縮相をはじめ各国大使などの参加が目立ちました。
8月のNPT再検討会議で軍縮委員長を務めるマレーシアのハスリン国連大使は、今日の危険な情勢下、締約国会議を踏まえてNPT再検討会議をどう展望するか、期待感をもち、市民社会の役割は重要だと述べ、「被爆者の訴えを広げ続けてほしい」と語りました。
第2回締約国会議議長国となるメキシコのキャンプザノ国連大使は、「被爆者が核兵器の恐ろしさや環境への影響、無差別殺戮兵器であることなどを世界の認識にする活動を担ってきた」と敬意を表明。「核兵器は安全ではなく、破壊をもたらすものであり、さらに若い世代に語ってほしい」と期待を述べました。
国会議員会議(20日)には、欧州など16カ国から36人の議員が参加し、「核兵器禁止条約国会議員声明」と「国会行動計画」を確認ました。私は、要請文の内容にそくして発言し、「禁止条約参加国を広げるため、各国議会に被爆者を招き、証言を聞き、議会人の役割を果たそう」と提案したのですが、これに対して、会議のコーディネーターは「重要な点にふれていただいた。被爆者招致の提案はとてもいい」と応じ、各国の国会議員ともうれしい響き合いがありました。イタリア議会人権委員長(女性議員)は「大賛成。ぜひ被爆者を招きたい。各国も招こう」と呼びかけ、ベルギー(男性議員)も「私も賛同する」と応じてくれました。
会議の特徴の一つは、核5大国が核兵器禁止条約に背を向けるもとで、小国も含めた国々が禁止条約の意義を深め、その履行のための提案を行うなど、生き生きとした議論が行われたことです。大国が主導する世界とはまったく異なる、すべての国が対等な立場で参加する新しい世界の姿ここにありと感じました
米英の核実験がくり返され、気候変動で水没の危機にある南太平洋の島国、キリバス代表は、「大国や小国、富める国と貧しい国など、世界の分断を終わらせ新しい団結を」と訴えて大きな拍手を受けました。
「宣言」の第15項は、こう謳っています。
「私たちは、すべての国に対し、核兵器禁止条約に遅滞なく加盟するよう求める。私たちは、このステップを踏む準備がまだできていない国々に対し、この条約に協力的に関与し、核兵器のない世界という私たちの共通の目標を支援するために、私たちと協力するよう訴える。私たちは、一部の核武装国が、非核保有国に対して条約への加盟を思いとどまらせるような行動をとっていることを遺憾に思う。私たちは、こうした諸国はそのエネルギーや資源を、核軍縮に向けた具体的な進展に向けるほうがよいと提案する。そうすれば、すべての人のための持続可能な平和、安全、発展に真に貢献することができる。私たちは、そのような進展を歓迎し、祝福する」。何と力強く自信に満ちた言葉でしょうか。
会議はまた、ジェンダー平等を訴える発言も注目されました。禁止条約の前文には、「女性および男性の双方による、平等で十分かつ効果的な参加が、持続可能な平和と安全の促進と達成のための不可欠な要素であることを認識し、女性の核軍縮への効果的な参加を支援し強化することを約束し」とあります。その第1回締約会議で、政府代表の発言にも目立ったのが女性であり、アイルランドなど男性の発言でもジェンダー平等が訴えられました。「ウィーン行動計画」では、「条約の実施に関する作業全般にジェンダーへの配慮」を貫くことが強調され、ガイドライン策定など具体的な活動も始まることになりました。
■NPT再検討会議の合意形成に役割
――「宣言」はNPT体制との関係についても明言していますね。
米国をはじめ核兵器大国は、これまで核兵器禁止条約はNPT(核不拡散条約)と矛盾する≠ネどとして禁止条約を攻撃してきました。しかし、相互の補完性は、禁止条約を採択した会議でも議論され、確認されてきましたが、今回の締約国会議でも、多くの国がNPTの重要性を強調し、禁止条約は核軍備撤廃交渉を義務づけたNPTを実行するものであり、矛盾するどころか補完しあうものだとこもごも強調しました。
こうした議論を反映して「宣言」は、第12項で「NPTを軍縮・不拡散体制の礎石と認識し、それを損なう恐れのある脅威や行動を遺憾とする」とNPTの重要性を明確に位置づけ、「全面的に義務を果たしているNPT締約国として、本条約とNPTの補完性を再確認」するとしています。そのうえで、「核兵器の包括的な法的禁止を発効させることにより、NPT第6条の実施を前進させたことを喜ばしく思う」と意義づけ、核兵器国にNPTの公約の完全実施を強く求め、「共通の目的を達成するため」「建設的に協力するとの約束を改めて表明」しているのです。
両条約間の摩擦を懸念していたドイツの代表が、「今回の締約国会議が意図したNPT支持の明確な宣言を高く評価する」と述べるなど、締約国会議はNPT再検討会議での前向きの合意形成に向けても、重要な意義を持つものとなりました。この流れを、8月のNPT再検討会議の前進に結びつけ成果をおさめるようにすることが大事だと痛感しました。
第2回締約国会議は、来年2023年11月27日から12月1日まで、ニューヨークの国連本部で、メキシコが議長国となって開催されます。
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