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トランプとオバマの失敗を受け、バイデン政権は北朝鮮危機で新たな道を策定
〈米紙「ワシントン・ポスト」電子版5月1日付〉

(2021.5.1)

  バイデン政権は、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発に終止符を打つために、トランプ大統領のグランドバーゲン的なリーダー対リーダー外交と、オバマ大統領の一定の距離を置くアプローチ〔arm's length approach〕の間でバランスを取りながら、新たな方向に進んでいると、計画に詳しい米政府関係者は語っている。
 完全な非核化につながる段階的な合意〔 a phasedagreement〕をめざすという決定は、先週、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官、サリバン国家安全保障補佐官、ミリー統合参謀本部議長からバイデン大統領に報告された。数ヵ月にわたる検討を経てなされたものだ。
 この方針は、ボルトン国家安全保障補佐官が考案した戦略を否定するものだ。ボルトン補佐官は、北朝鮮の兵器プログラムの完全な解体と引き換えにすべての制裁措置を解除する「go big or go home」合意を米国が求めることを主張していた。
 このアプローチは、2019 年にハノイで行われた首脳会談で、北朝鮮の金正恩氏に真っ向から否定された。この首脳会談は、米国政府が、平壌が核プログラム全体をテーブルの上に置かない限り、制裁を解除しないと明言したことで決裂した。
 政府高官は木曜日のインタビューで、「我々はグランドバーゲンやオール・オア・ナッシングのアプローチを求めているわけではない」と述べた。「我々が決めたのは、我々が考える、米国への脅威を排除することを目的とした、北との外交のための調整された実践的なアプローチだ」。
 バイデン政権は、日本や韓国を含む同盟国やパートナー国、さらには過去数ヵ月間に頻繁に協議してきた連邦議会議員にもレビューの結果を伝え始めているという。

 具体的にどのような提案がなされるのかはまだ不明であるが、米政府高官たちは、従来米政権が使用してきた「step by step」合意という用語は使用していない。
 ある政府高官は「我々のアプローチにそのようなラベルを貼ることはない」と語った。

 北朝鮮が新たな長距離大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験など、新たな挑発行為を検討しているのではないかという米国の懸念が高まる中、今回のレビューが終了した。
 米政府高官は、この新戦略を北朝鮮の高官に伝える予定だと述べたが、核挑発に関する北朝鮮の短期的な計算を変えることはできないだろうと認めた。
 「我々が考えていることが、北の挑発を防ぐことになるとは考えていない」と、この高官は語っている。「問題が解決するまで、我々は制裁圧力を維持しつづけるつもりだ」と述べた。
 この高官は、他の政府関係者同様、匿名を条件にインタビューに応じた。

 米国政府が直面している多くの課題の一つは、非核化プログラムが完全に解体されるまで、部分的な制裁緩和と部分的な非核化を交換するという、段階的なアプローチの機運を高められるかどうかだ。
 ある米政府高官は、この取り組みについて、「非核化を最終目標」としながら、「特定のステップに対して制裁緩和を提供するという、慎重で緩やかな外交的アプローチ」だと述べている。
 これは、北朝鮮が行動を改め、核による挑発をやめるまで、本格的な外交活動を行わないというオバマ政権のアプローチとは異なるものだ。
 「トランプ政権がすべてに対してすべて〔everything for everything〕だとしたら、オバマは何に対しても何もなかった〔nothing for nothing〕」と同高官は述べた。「これ〔バイデン政権〕は、この中間だ」。

 ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、金曜日に「ワシントン・ポスト」紙の報道について尋ねられた際、バイデン政権が政策の見直しを完了したことを認めた。
 「過去4回の政権の努力では達成できなかった事実を明確に理解したうえで、我々の目標は朝鮮半島の完全な非核化だ」と述べた。「我々の政策は、グランドバーゲンの達成に焦点を当てるものでも、戦略的忍耐に頼るものでもない」と述べた。
 バイデン政権は、2月中旬から複数のルートで北朝鮮に接触をはかった。北朝鮮の第一副外相は、この働きかけを「時間稼ぎのためのトリック」と断じた。3月には、ブリンケンが初めてアジア太平洋地域を訪問した際に短距離ミサイル2発を発射し、その数日後には弾道ミサイル2発を日本近海に撃ち込んだ。

経済制裁の解除は、金正恩にとって重要な課題だ。金正恩は昨年、コロナウイルスの蔓延、大規模な洪水、繊維製品、石炭、鉄鉱石など多くの輸出を禁止する米国と国連の制裁措置により、自国の経済が低迷していることを認めた。また、昨年には、対外貿易の90%以上を占めるといわれる中国との国境を閉鎖せざるをえなくなった。
 北朝鮮に対する経済的・政治的な影響力を持つ中国が、この外交でどのような役割を果たすのかが、1つの重要な問題だ。

 米国と北京の関係は、貿易、人権、安全保障などの分野で意見の相違が増えており、緊張状態が続いている。米政府高官によると、バイデン政権は、「我々の外交努力を支援するだけでなく、国連の制裁措置を実施するという共通の義務を果たすという観点からも、中国と協力して前進していきたい」としている。
 3月に行われたバイデン政権と中国側との初の会談では、いつものように辛らつな発言が飛び出し、中国側は「ウイグル人虐殺を行っている」という米国の非難に反発した。
 人権をめぐる意見の相違は、米国の北朝鮮に対するアプローチに緊張をもたらす可能性もある。
 バイデン政権は、北朝鮮の人権問題を担当する特使を任命すると見られている。この特使は、金正恩政権が大量の監視、拷問、政治犯収容所などを通じて国民を残酷に抑圧していることに焦点を当てることになると思われる。米政府高官は、この特使がもたらす影響についてのコメントは避けたが、このポジションの設置は「法律によって要求されている」と指摘している。

 アジアにおける米国のパートナーたちは、バイデン政権によるアジア地域への協議と配慮を高く評価している。オースティンとブリンケンは初の外遊を日本と韓国にし、バイデンは日本の菅義偉首相を初めての国賓訪問として迎えた。ホワイトハウスは1日、韓国の文在寅大統領が5月21日にワシントンを訪問することを発表した。
 しかし、彼らは、同盟国間の協力体制が強化されたとしても、北朝鮮問題が差し迫っていることを認識している。
 ある東アジアの政府関係者は、「緊密に連携したアプローチが必要だ」と述べた。「早期の関与が重要である。対北朝鮮関与の時間は限られている」。
 ソウルと東京は、米国が北朝鮮と2国間協議を行うことを望んでいることを明らかにしてきた。2国間協議は、ブッシュ政権下で進められた6ヵ国協議よりも効果的であると考えられている。この協議は、段階的なアプローチを採用したが、検証メカニズム、軽水炉の提供、北朝鮮のロケット実験、米国の制裁措置などに関する意見の相違により、最終的には頓挫した。2国間協議で段階的なアプローチが機能するかどうかは未知数である。

 バイデン政権は、前政権の取り組みをすべて否定しているわけではなく、トランプ大統領の元国務副長官であるビーガン氏など、北朝鮮との貴重な交渉経験を得た元政府関係者と接触をはかっている。
 バイデン高官たちに、金正恩が朝鮮半島の完全な非核化を約束し、双方が「平和体制」と朝鮮戦争の捕虜や行方不明の兵士の送還に向けて努力することを誓った、トランプの2018年の4項目の合意を破棄するつもりはない。
 「我々のアプローチは、シンガポールの合意やその他の過去の合意にもとづいて行われる」と、別の政府高官は述べた。

 最初の政府高官は、「これまでのアプローチに共通しているのは、問題と脅威に対処できなかったということだ」と述べ、バイデン政権には新たなアプローチが必要だとしている。
 「この問題がどれほど困難なものであるかについて、我々は幻想を抱いているわけではない」と同氏は述べた。
 「これは、米国の国家安全保障の観点から見て、様々な意味で、おそらく最も困難な問題の一つだが、私たちはこの問題に正面から取り組む」。