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なぜ、米国は核兵器禁止条約を支持すべきなのか
ウィリアム・ペリー(米元国防長官)
〈『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』
(2021.1.22)

  14年近く前、私はジョージ・シュルツ(元国務長官)、ヘンリー・キッシンジャー(元国務長官)、サム・ナン(元上院軍事委員長)とともに、核兵器から解き放たれた世界をめざそうと呼びかけを行った。民主・共和の超党派で連携する私たちは、冷戦時期の間アメリカ政府の最高指導部にいた。その時期に私たちが持っていた直接的な核兵器に関する情報からすると、私たちの呼びかけは、可能であるだけでなく必要なものであった。

 私たちは、この記念碑的な任務を道の山の計測にたとえたが、多くの人にとっては不可能なことに見えたかもしれない。またその山頂は、我々の目には見えないほど遠いところにあった。それでも、そこで立ち止まったり、山を滑り降りてしまうと、人類の文明の終焉に行ってしまいかねない。私たちは、より高みをめざして道筋を描いていかなければならない。

 声明で私たちは、その山を登っていけるような実践的な段取りの概要を作成した。しかし、私たちの提案の中心は、山頂を展望することであった。私たちは、展望とそこまでの到達の仕方の両方を持つ必要がある。75年にわたって米国は、国際の安全保障戦略に必要な構成要素として、大量殺りくという考え方を普通のものとして認めてきた。もし山頂に到達しようとするなら、私たちは核兵器は、ちょうどロナルド・レーガンが述べたように、「全面的に不合理で、全面的に非人道的で、殺りく以外に何もよいことがなく、地球上の生命と文明を絶滅させるかもしれない」そういうものなのである。

 私たちは署名論評で、核の危険に対処するための全世界的な合意を作り上げる必要を訴えた。最近、その目標に向けた画期的な段階を画することができた、2020年10月、国連の核兵器禁止条約がホンジュラスによって批准され、50ヵ国目となった。その結果、条約は1月22日に国際法として発効することになった。この条約は大きくは国際核兵器廃絶キャンペーン(ICAN)の活動の結果であった。ICANは2017年にその努力を認められてノーベル平和賞を受賞した。私は、その成果に敬意を表する。

 国際の安全保障分野においては、多くの人がこの成果を意味がないと中傷してきた。核兵器保有国が認めていないからだというのがその言い分だ。しかし、私の友人であるマックス・カンぺルマンは、この冷笑的な見方に反論した。マックスは、私たち4人が発表した論評記事に大きな契機を与えてくれた人で、「責務の力」について語り、榠アメリカ独立宣言に明記された諸原則は当時の現実には反していたこと、とりわけ奴隷制度と女性の選挙権剥奪がそれであったことに注目した。しかし、我々の民主主義は、より完全な合衆国連邦を形成するための努力を続けてきているのであって、これまでも「…である」から「…であるべきである」への行程であった。マックスはかつてこう述べた。「核兵器の廃絶は、宣言して、力強く追求すべき『義務』である」。

 米国が1968年に核不拡散条約に調印したとき、米国は、その第6条で、我々に「全面的かつ完全な軍備撤廃についての条約を…誠実に追求する」という義務を課すことに同意したのである。しかしながら、米国など核保有国は、我々のNPTに対する義務を支持してこなかった。核兵器禁止条約はそうした欠陥を是正している。核兵器禁止条約は、廃絶を、果てしない将来の目標ではなく、すべての国が達成するために積極的に努力すべきであるとの基準として位置づけているのである。

 核兵器禁止条約は、14年前に私たちが思い描いた未来に向けた重要な一歩である。それは、核兵器のない世界という壮大な展望を生み出すものであり、核兵器の影響について非人道的側面に目を向け、実際に存在する問題にとりくむという地球規模の合意を宣言するものである。この禁止条約は、核兵器についての私たちの地球規模の見方を、恐ろしい現実に沿ったものに近づけようとするものであり、人類のために核兵器全面廃絶が必要であることを正式に明記している。

 条約は、それだけでは核兵器をなくすのに十分ではないのであるが、山をさらに登っていくのに必要な中心的理想を明確に述べている。こうした気が遠くなるような問題に直面するときに、条約は、多くの人が感じる絶望感とたたかうための刺激を与えるものである。それはまた、不拡散の新たな手段として役立つことになり、現在の不拡散条約を強化するものである。条約は核軍備の近代化、拡大や、ほとんどの国が順守することに同意している国際法に従わないような行動に反対する人々への力強い支援となる。禁止条約は、すぐにも核兵器をなくすというものではないが、その方向への重要な一歩となる。

 米国は1968年に核不拡散条約に署名した。1986年の米ソのレイキャビック首脳会談で、レーガン大統領は核兵器廃絶を主張した。そして2009年に、オバマ大統領は、米国が「核兵器のない世界の平和と安全保障をめざす」と約束した。いま、2021年に、すべての署名国のために、核兵器を違法とする条約が発効した。アメリカは開拓者の国であることを誇りにしている。ぜひ、核兵器のない山の頂上に向けたこの新しい山道を切り開く最初の核兵器国になろうではないか。