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追い詰められる核保有国――国連総会第1委員会の論戦から
島田 峰隆(「しんぶん赤旗」ワシントン支局記者)
(2023.1.15)
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 2022年10月に国連本部で開かれた国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障問題)では、核兵器廃絶に背を向ける核保有国に対して、例年になく厳しい批判の声が上がりました。6月と8月にそれぞれ開かれた核兵器禁止条約の第1回締約国会議と核不拡散条約(NPT)再検討会議を経て、多くの国と市民社会が協力を強め、核兵器固執勢力をますます追い詰めている様子がうかがえる論戦でした。

 核抑止論へ批判相次ぐ

 ウクライナを侵略するロシアが核兵器使用に言及して世界を威嚇する一方、米国や中国など他の核保有国も核兵器の近代化や増強を進めています。国際的な緊張が高まる中、「核兵器の使用が受け入れがたいほどにありうる状態」(国連の中満泉軍縮担当上級代表)になっています。第1委員会の討議でも、国連総会のコロシ議長が「今まで通りのやり方ではますます危険になる」と述べるなど、切迫感があふれる発言が相次ぎました。
 各国の発言で特に目立ったのが、「核抑止力」論の矛盾と破綻を指摘し、そこからの抜本的な脱却を求める議論です。
 オーストリアは、ロシアの核威嚇などを念頭に「今日の重大な危機が示しているのは、核兵器が我々全体に与える危険、深刻な不安定さ、「核抑止力」論の脆弱さだ」と強調しました。「核抑止力」論とは結局、「核兵器を実際に使い、想像できないほどの規模で民間人を殺傷する準備があるということだ」と指摘しました。
 メキシコは「核兵器が世界の安全を保障するという虚構の前提は、まったく持続不可能であり、本質的に倫理に反し、知性への侮辱だ」と発言。9つの核保有国が193の国連加盟国すべての生死を決める権利を持っていていいのかと問題提起し、「人類の原理と諸国民の道義心は核兵器の存在を認めない。そうではないと主張する国はいずれも人類を裏切っている」と述べました。
 こうした批判に対し、米英仏中ロなどの核保有国は「核軍縮を進めるだけの情勢がまだ生まれていない」と主張しました。米英仏は自分たちの「核抑止力」はロシアの「核抑止力」とは異なるなどという言い訳に追われました。
 核保有国の言い分に対しては「具体的な軍縮措置こそがより安全な環境をつくるのであり、それを継続的に追求しなければならない」(カザフスタン)、「核軍縮は夢想的な話ではなく、必要な誓約と政治的意思があれば実現できる目標だ」(モルディブ)などの反論が相次ぎました。
 核保有国はこうした指摘に正面から答えることはできませんでした。

 禁止条約が論戦の力に

 非核保有国がこれほどまでに厳しい口調で核固執勢力を追及し、核保有国が劣勢に立たされた背景には、6月にオーストリアの首都ウィーンで開かれた核兵器禁止条約第1回締約国会議の成功があります。会議に参加した各国政府と市民社会は、核兵器廃絶の決意を再確認し、具体的な行動を鮮明に打ち出しました。
 締約国会議にはオブザーバー国を含めた約80ヵ国の政府代表のほか、被爆者、核実験被害者、非政府組織などが参加しました。ドイツなど3つの北大西洋条約機構(NATO)加盟国も、国民世論に押されてオブザーバー参加しました。
 会議が採択した「ウィーン宣言」は、核兵器がもたらす壊滅的な人道的影響を改めて強調。禁止条約によって核兵器は「明示的かつ包括的に禁止された」と指摘し、「核兵器の使用も威嚇も国連憲章を含む国際法違反」だと明記しました。また現在の世界情勢を念頭に、「核兵器は平和と安全を守るどころか、強制や威嚇、緊張の高まりにつながる政策の道具として使われている」とし、「核抑止力論の誤りをこれまで以上に浮き彫りにしている」と指摘しました。会議は条約具体化へ向けた「行動計画」も採択しました。
 ウィーン宣言と行動計画は、NPT再検討会議の議論の基調となりました。再検討会議では、多くの国が、禁止条約はNPTを補完すると指摘し、核軍備縮小の誠実な交渉を定めたNPT第6条の実践を要求しました。145ヵ国が核兵器の非人道性についての共同声明を発表し、核兵器の破滅的な結果を避ける唯一の保証は核兵器の廃絶だと訴えました。
 ロシアが反対したため、会議は最終文書案を採択できませんでした。しかし最終文書案には、素案の段階から禁止条約の発効と締約国会議の開催に言及する段落が盛り込まれ、削除や表現変更を求める核保有国の強い反発にもかかわらず、同段落は最後まで維持されました。このことは、核保有国がいくら妨害しても、核廃絶を求める圧倒的多数の国々や市民社会の要求を押しとどめることはできないことを示しています。
 禁止条約の参加国は12月16日時点で、署名91ヵ国、批准68ヵ国に達しています。
 第1委員会の議論でも「ウィーン宣言と行動計画は核兵器のない世界という共通の目標に向けた重要なステップになった」(ブルネイ)など、締約国会議の成功を歓迎し、未参加の国々に署名や批准を求める声が多く聞かれました。

 異常さ際立つ日本政府

 問題は日本政府の姿勢です。第1委員会は、核兵器禁止条約の第1回締約国会議の開催を「歓迎する」とした決議案を国連加盟国の約3分の2の賛成多数で採択しました。「核兵器禁止条約」と題する同決議の採択は5年連続ですが、日本政府は今年も核保有国と足並みをそろえて反対に回りました。
 第1委員会は日本政府が毎年提出している核兵器関連決議も採択しました。日本政府の決議は今回初めて核兵器禁止条約に言及しましたが、条約の採択を認識し、発効と締約国会議の開催を「留意する」とするだけで、条約への支持も参加も表明していません。また核保有国に対して「核兵器の全面廃絶を待つ間、核兵器がけっして二度と使われないようあらゆる努力を行うよう促す」と述べるにとどまり、具体的行動を迫ってはいません。
 日本政府の姿勢は、核兵器禁止条約を歓迎し、人類の知性や道義心にまで触れて核抑止力論を批判した国々や、具体的な期限や基準を定めた核廃絶を求めた国々などと比べて、あまりにも腰の引けた対応です。核兵器禁止条約を力に世界が核廃絶へと踏み出すなか、日本政府の異常さはいよいよ際立ってきています。
 米国の「核の傘」から抜け出し、禁止条約に参加する政府を実現することが必要です。それは世界で広がる核兵器廃絶のうねりをさらに発展させる大きな力になるでしょう。