【視点】
米中間選挙から見えたもの
岡田 則男(世話人・国際ジャーナリスト)
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| (2018.11.15) |
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11月6日の米国の中間選挙は、内外のメディアがかつてない規模でとりあげました。私が知る限りこれまでなかったことです。
人種差別、社会の分断を助長しつつ、労働者とりわけ弱者を切り捨て、大企業・大金持ち優遇の政策の政策、政権運営に対する国民の根強い抵抗が続き、トランプとの対決が鮮明になっていることが背景にあったと思います。そのなかで私が注目したのは、政権を批判する民衆の運動がワシントンの政治に現実に影響を与えつつあることです。
この中間選挙は、2020年の大統領選挙で再選を狙うトランプ大統領の信任を問う政治戦となりました。中間選挙では連邦議会議員、多くの州知事、州・地方議会などの選挙から、住民協議会、教育委員会などの選挙があります。また、最低賃金引き上げ(イリノイ、ネブラスカ、アラスカ、アーカンソー、サウスダコタ各州)、マリフアナの合法化(カリフォルニア州ほか)など実にさまざまな要求課題での住民投票が行われていますが、ここでは連邦議会選挙にしぼって述べておきます。
下院多数を奪還した民主
連邦議会の勢力図が大きく変わります。11月14日の時点でまだ最終的な議席数が確定していないのですが、これまで連邦議会の上下両院でトランプ与党の共和党が多数を占めていたのが、下院(全435議席改選)で民主党が多数を確保し、常任委員会の委員長ポストを独占することになりました。上院(100議席のうち35議席改選)では、共和党がかろうじて多数を守った形です。大勢が決まった11月7日、トランプ大統領はホワイトハウスで記者会見し、「完全勝利に近い」(上院では)「民主党に大差をつけた」「国民は私のことを、私の仕事ぶりを気に入ってくれた」と自画自賛しました。しかし、その後、接戦の州、選挙区で開票が進むと、下院での共和党の負けはさらに大きくなり、上院では大差ではなく僅差での「勝利」になっています。トランプをめぐる「ロシア疑惑」をはじめとするスキャンダルの追及が避けられなくなる見通しだと言われています。「アメリカはトランピズム(トランプ政治)を拒否した」――カリフォルニア大学教授で、クリントン政権で労働長官だったロバート・ライシュ氏はこうコメントしました。
いくつか注目すべき結果があります。一つは、若者の関心が上向きになったことです。中間選挙では若者の投票率が極端に低いのが常で、前回(14年)は21%でしたが今回は31%だったと民間団体が発表しています。
女性の進出がめだったのも特徴で、下院選挙では当選者のうち女性が90人になる見通しです。
さらに注目されるのは、民主党の側で、米国の資本主義体制擁護、大企業擁護の立場で、軍事外交でもときには共和党以上に戦争に積極的になる傾向がある全国指導部と異なる革新的政策を掲げて当選した新人下院議員が複数、現れたことです。
ニューヨーク州のアレクサンドリア・オカシオコルテスさんは、米国史上最年少の29歳の女性下院議員となります。6月の中間選挙の予備選挙で、民主党のベテラン、ジョー・クローリー下院議員に勝利して民主党候補となり注目を集めた人です。ミシガン州のラシダ・トレイブさんはパレスチナ系でムスリムの女性です。ミネソタ州のイルハン・オマールさんはソマリアから難民として米国にやってきたムスリムの女性です。
これらの当選者は2年前の大統領選挙で民主党の候補指名に挑戦したバーニー・サンダース上院議員を中心にした全米的な民衆運動をともにする人たちで、「近年でもっとも革新的な1年生議員」と言われています。サンダース氏は言います。「ただ女性だから、非白人だということだけではありません。国民すべてが医療を受けられる制度(Medicare for All)、最低賃金15ドルなどの要求を掲げた人たちで、公立大学の授業料無料化、トランプの大金持ちへの減税中止などを掲げて当選したのです」。
民衆のトランプ政治との対決
民主、共和という2大政党間の、ときには「不毛の対決」と言われた選挙から脱して、貧困や格差、教育の荒廃、銃社会の問題など、圧倒的な働く米国民の生活にかかわる要求や政策が問題にされた選挙でもありました。こうした運動は、すでにトランプ大統領が就任した瞬間から、全米各地で始まっていました。
たとえば、16年までの8年間のバラック・オバマ大統領のもとで、まがりなりにも一定の前進を見せた医療改革をトランプが否定したことへの国民の不安や怒り、そして運動がありました。最近では、銃による暴力事件で多くの犠牲を出したことに対して、トランプが全米ライフル協会を代弁して銃による「防衛」を擁護しているのに対し、高校生を中心に若い世代が銃規制の運動を起こしました。トランプが就任早々に、大統領令を乱発して「テロリストの入国から合衆国を守る」イスラム系の人々の入国禁止を強行したことも国民の大きな反発を招きました。そのほか、気候変動問題ではパリ協定から米国を離脱させるなど、オバマ前大統領が進めた、米国民の生活の向上に向けた一定の積極的な政策を片っ端からひっくり返したことへの批判が高まっています。
こうした革新的な流れが連邦議会で動きだすわけですが、核兵器を中心にした軍事力を背景にしたこれまでの米国覇権主義を正面から批判するところまで発展するかどうか、これから注目したいところです。
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