第2015年NPT再検討会議と核軍縮
黒澤満・大阪女学院大学教授
|
| 核問題調査専門委員会 (2015.07.23) |
|
非核の政府を求める会・核問題調査専門委員会の例会が7月23日、黒澤満・大阪女学院大学教授を講師に招いて開催されました。テーマは「2015年NPT再検討会議と核軍縮」です。
NPT再検討会議は5年ごとに4週間の日程で開催され、黒澤さんは1995年から5回続けて毎回4週間参加しています。
今回の講演は、T核軍縮の進展状況、U人道的イニシアチブ、V法的枠組み、W核軍縮の個別的措置、X今後の課題の5章立て。この内、U、V、X章を中心に要旨を紹介します。 |
| (文責・編集部) |
|
| ◇ |
|
 |
今回の再検討会議では、最終文書は採択されませんでした。その直接の原因は中東問題ですが、核軍縮を取り扱う第1委員会ではどの程度の合意があったのか。
第1委員会と補助機関1による第4草案までが1週間前ぐらいに出ていました。そして最後の週、議長草案が出るときに、核保有5大国(P5)、新アジェンダ連合(NAC)、非同盟運動(NAM)などの16ヵ国が非公開で議論して、最終的な第1委員会の草案ができた。だから第4案と第5案を比べると非常に大きな差があるわけです。
これはつまり、核兵器国も受け入れられる一応の合意ができていた証拠です。だから、第1委員会について、形式的には何も残せなかったけれども、実質的には合意があるというのが専門家の見方です。
核軍縮は過去5年間、ほとんど進まなかった。2010年会議の最終文書にあった22の行動計画のほとんどが実行されなかった。だから今回同じことを繰り返しているというのが基本的なパターンです。
その中で、今回の再検討会議の核軍縮に関する重要な新しい進展が2つありました。一つが「人道的イニシアチブ」、もう一つは「法的枠組み」です。
▽人道的イニシアチブ
まず、「人道的イニシアチブ」についてです。
今回「共同声明」が2つ出ました。一つはオーストリア提案の159ヵ国「共同声明」で、これが2012年のスイスからずっと続いている流れです。
この内容は、核兵器の壊滅的な結果を知ることが核軍縮に向けてのあらゆるアプローチの基礎とならなければならない。核兵器はいかなる状況においてもけっして二度と使用されないことが人類の生存そのものの利益だ。核兵器がけっして使用されないことを保障する唯一の方法は核兵器の廃絶である。こういう論理体系になっています。
同じような考え方が、2014年12月のウィーンでの国際会議の最後に、オーストリア外務大臣が打ち上げた「オーストリアの誓約(プレッジ)」で出ています。その後、名前が「人道の誓約」に変わりましたが、いま113ヵ国が賛成しています。そこでオーストリアは、「すべての人間の安全保証」や、「核兵器の禁止および廃絶のための法的ギャップを埋める」ことを打ち出し、「核兵器をスティグマタイズ(汚名を着せる)」して「禁止し廃絶する」という方向を出しています。
それに対立的に出してきたのがオーストラリアの「共同声明」です。これは、核兵器を廃絶することは核兵器国による実質的かつ建設的な取り組みによってのみ可能だとしています。そして、核廃絶の条件をつくり出すためには世界全体が人道的側面からだけではなく、安全保障の側面からも考えないとだめだ、我々は組織的・現実的に作業する必要があるとしています。
核兵器国は一般的には、人道的アプローチに消極的です。ただP5の態度にも違いがあります。米国と英国は第3回の国際会議に出席しました。米国はシンパシーを送っているし、英国もある程度やっていますが、ロシアとフランスは真っ向から反対です。彼らは核兵器を非常に重要視している。
4番目に、会議の最終草案はかなりいい方向に行っていると思います。今回、第1委員会のレビューで人道的影響については6つのパラグラフで言及しています。2010年の時は、フォワード・ルッキングのなかで2、3行出てきただけでしたから、人道的アプローチは今回、非常に高く評価されている。
フォワード・ルッキングの第一項には「会議は核兵器のあらゆる使用による壊滅的な人道的な結果に関する深刻な懸念が核軍縮の分野における努力の基礎となり続けるべき重要な要素であることを強調する」。 それから、「これらの結果を知ることが核兵器のない世界へと導くすべての国家の努力に緊急性を与えるべきである」。これが最初のパラグラフの内容です。
もう一つは、「会議はこの目標の実現までのあいだ、核兵器が二度とけっして使用されないことが人類の利益であり、すべての人々の安全保障の利益であることを確認する」。「いかなる場合にも」という文言は入らなかったけども、「核兵器が二度とけっして使用されないことが人類の利益である」ことが入っている。
「人道的アプローチ」はほぼ普遍的に受け入れられています。
▽法的枠組み
次に「法的枠組み」です。
核軍縮をどう進めるか、という議論は5つの考え方があると思います。
まず、包括的核兵器禁止条約(NWC)。これは96年のICJの勧告的意見が出て、NPT第6条は交渉を継続するだけではなくて、締結される義務があるとしている。そのあとマレーシア提案が出、国際NGOがモデル核兵器禁止条約をつくった、という流れです。NAMはいまもこれをやれと言っているし、今回も核兵器廃絶のための行動計画のためのエレメンツというのを出して、2030年ぐらいまでに4段階ぐらいで廃絶しようと。
第2の考え方は、「ニュークリア・ウェポンズ・バン・トリティ」(NWBT)、核兵器使用・保有禁止条約です。この基本的な目的は、核兵器国に任せておくと進まないから非核兵器国で始めようということです。とりあえず使用と保有の禁止を決めて、核軍縮とか検証はあとの段階で考える。これは、一つは対人地雷禁止条約、クラスター弾禁止条約に影響されています。これらは軍事大国が入っていない。もう一つは、これらは、以前の軍備管理の枠組みではなく人道的な立場からやった、だから核兵器も人道的な立場からやろうという考え方です。
3番目は「枠組み条約」。これは、NACの提案などをみると、「枠組み条約」をつくって、基本的な義務を決めて、具体的な権利義務はあとの議定書でやろうということです。具体例があって、気候変動枠組み条約は二酸化炭素を減らすことを決め、具体的には3年後に京都議定書をつくり、COP(カンファレンス・オブ・パーティ)を毎年やっている。特定通常兵器使用禁止制限条約の例もあります。
私の考えでは、2000年合意の13項目の一番の中心は、第6項の「核兵器国は核兵器を廃絶するという明確な約束をする」ということで、これは最終文書だから、政治的な約束です。これを法的な約束として枠組み条約をつくるのがいいのではないか。みんな究極の廃絶は考えているわけだから核兵器を廃絶する法的な約束をし、そして具体的にどうするかについて毎年会議を開いて議定書で決めていく。
4番目が「ブロック積み上げ方式」。これは日本、オーストラリア、カナダ、ドイツなど20ヵ国が去年の準備委員会で出したものです。ブロックを積み上げていくように軍縮は進めていくべきだと。
5番目が「ステップ・バイ・ステップ」。日本もステップ・バイ・ステップですが、これは核兵器国が言っていて、いっぺんにいくつもやらないということですが。いま、「ブロック積み上げ方式」とほとんど同じになってきています。
会議の最終文書は、第4草案までは核軍縮について非常に詳しかったわけです。とくにNACが入れたNWBT、NWCの名も入っていたけれども最後はかなり削除された。
核兵器国は今のところ法的な枠組みを嫌がっています。「まだステップ・バイ・ステップでいくべきだ」と。だけど「最後は核兵器禁止条約がいるだろうな」とも言っています。
▽今後の課題
最後に、今後の課題について4つ、問題をあげます。
第1の課題は、米ロ関係の修復・改善で、これをやらないと核軍縮はすすまないのではないか。米ロ関係はいま、ウクライナ問題などで非常に関係が悪くなっています。
今回の会議で、米ロの代表が新START条約についてうまくいっているからずっと続くだろうと話していましたが。イラン問題もいい方向にいっていますから、そういうことをベースに何かしていくべきではないか。米国は、欧州配備のミサイル防衛についても、イラン情勢の改善にともなって協議素べきです。
2番目の問題は、人道的アプローチをどう対処し、進めていくかです。要するにこれは、人道的アプローチと安全保障をどう調和させるかという問題です。うまく調和させるには、安全保障における核兵器の役割の低減が大事で、警戒態勢の低下、先制不使用、消極的安全保証の3つで核兵器の役割を下げていく。それに日本がコミットしていくべきです。
第3の課題は、核兵器のない世界の追求でいかなる方法がとられるか。ステップ・バイ・ステップなのかあるいは条約なのか。もちろん核兵器禁止条約ができるのが一番望ましいけれども、すぐにはむずかしい。NWBTについては、対人地雷とかクラスターと核兵器とは同じなのかを考える必要があります。
4番目は、「実際に軍縮を交渉し協議するフォーラム」です。もう20年ぐらい動いていない軍縮会議(CD)をどう動かすか。動かない要因は、一般的にはパキスタンがFMCTの交渉に反対しているからと言われていますが、ほんとにそうなのか。核兵器国が核軍縮をやりたくないからそれを隠れ蓑にしているのではないか。
日本政府は、核軍縮をほんとにやるというのなら、このへんを突いていくべきだと思います。
|