核軍事紛争の脅威は世界的に強まりつつある
――新しい核兵器時代の到来――
|
| 『エコノミスト』誌 |
| (2015.03.07) |
|
| ◇ |
今後、数週間以内に、イランは、長年の時間稼ぎと言い逃れのあとを受けて、ついに核計画の抑制に同意するかもしれない。制裁措置の緩和との引き換えで、イランは、原則として、押し付けがましい査察とともに、遠心分離装置を通過するウランの量的制限を受け入れる。2025年以降になると、イランは漸進的にその制限の緩和を許容される。イランはそうした活動を平和的なものであると主張するが、しかし世界はそれらが核兵器を生産するために構想されていると確信している。
3月3日、アメリカ連邦議会における遊説演説のなかで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はこうした取り引きの見通しを猛烈に非難した。この取り引きは一時的なものであり、イラン核計画をおおむね手つかずのまま残すがゆえに、「イラン核爆弾への道を地ならしする」だけであると彼は述べた。核兵器で武装したイランは、決意を固め敵意を燃やして、世界を核戦争の影の下へと送り込むであろう。
ネタニヤフ氏はこの取引について判断を誤っている。この取り引きは提案されているものの中で最良であり、まったくの取り引きなしに比べてはるかにましである。なぜなら、取り引きなしがもたらすものは膠着状態、騙し合い、そして、やがては彼の恐れる核爆弾そのものへの突進であろう。しかし、彼が核戦争について心配していること自体は正しいし、ただそれが正しいのはイランのせいばかりではない。ソ連崩壊後25年を経て、世界は新しい核時代に入りつつある。核戦略は元々の核兵器国5ヵ国(米、英、仏、中、露。彼ら相互の取り引きも不信感や対抗意識におかされている)と押し合っている、ならず者政権や地域敵対勢力のコックピットになっている。
ネタニヤフ氏の努力に負うところもあって、イランはいまや世界の注目を集めている。不幸なことに、核兵器に関するその他の重要な諸課題は自己満足や無視軽視にとりつかれ、混乱させられている。
*プラハからの後退
冷戦の終了にともなって、世界は核戦争による破滅が当面の問題でなくなったとする考えをしっかり握りしめようとした。オバマ大統領が2009年、プラハ演説の中で核兵器を世界から一掃するという目標を支持したとき、彼は反戦運動家でなく政治家として扱われた。今日、彼の大望は幻想に見える。なるほど世界は相互確証破壊が起こりそうにないとする考え方で自らを慰め続けているが、しかしどこかで誰かが核兵器を使用するリスクはいま急速に高まっている。
どの核兵器国も核兵器の性能向上のために派手に資金を使っている。ロシアの防衛予算は2007年以来、50%超も拡大したほか、その3分の1がまるまる核兵器に費やされており、それは例えばフランスの比較可能なシェアの2倍である。中国は、長く核の小国であったが、核兵器在庫を増やしつつあり、潜水艦や移動式ミサイルの隊列に大幅な投資をしている。パキスタンは、通常戦力における対インド劣勢を埋め合わせるべく、数十発もの戦場核兵器を追加しつつある。北朝鮮は現在10発ほどの核兵器在庫を持ち、毎年さらに弾頭を1個ずつ増やすことができると考えられているほか、アメリカ西海岸を攻撃できるミサイルに取り組んでいる。ホワイトハウスのノーベル平和賞受賞者ですらも、アメリカ核戦力近代化の10年計画に取り組むため、連邦議会に約3500億ドルの予算を要求している。
より多目的な兵器を持った新しい行為者たちは核ドクトリンを当て推量に転換させてしまった。冷戦中でさえも、あらゆるゲーム理論や知能にもかかわらず、ソ連とアメリカは相手が何を企んでいるかをしばしば読み違えた。インドとパキスタンは、経験の乏しさとさらに希少な接触の機会のもと、危機のさいに自らを導く指針として不信感と偏執病のほかには事実上、何物も持っていない。もしも中東において、イラン、ついでサウジアラビア、ついでおそらくエジプトが核兵器国としてイスラエルに合流するなどと核兵器が拡散するならば、各国はあれこれと迷う4次元的手詰まり状態を管理せねばならないであろう。
最悪の要素は不安定性である。冷戦期の大部分を通して、超大国2ヵ国はハルマゲドン回避を願いつつ、進んで現状を許容した。今日では、各国それぞれの足下で地盤が変動しつつある。
よろめいている自国を支え直すために核兵器を欲している国々もある。パキスタンは自国の兵器が安全だと主張するが、しかし外部の世界はそれらの兵器がイスラム・テロ分子の手中に落ちるかもしれない、あるいは同国軍隊の中の宗教的狂信者の手中にさえ落ちるかもしれないとする恐れを払拭できないでいる。歴史は遅かれ早かれ間違いなく北朝鮮のキム王朝を悩ませ始めるであろうが、その時、同国の核兵器に何が起きるかは誰にもわからない。それらの兵器が相続されるか売却されるか廃棄されるか、あるいは最終的な無益の意思表示として爆発されるか、などなど。
このほか、現状を凍結するためでなく変革するために核兵器を欲している国々がいる。ロシアは自国の脅迫戦略の攻撃用兵器として核の脅威を振り回し始めた。ロシアは軍事演習の際、規定通りにワルシャワやストックホルムなどの首都に対するまがいの核攻撃を行っている。プーチン氏の数々の演説はベールで覆われた核脅迫を含んでいる。クレムリン代弁者の一人、ドミトリー・キセレフ氏はロシアの核戦力がアメリカを「放射性廃墟」に変えることも出来ると嬉しげに宣言したことがある。
ただの冗談だと言われるかもしれない。しかし、クレムリン近辺で2月27日に発生した野党指導者ボリス・ネムツォフ氏の殺害は、プーチン氏のロシアが地政学的な荒野になりつつあることの最新の兆候であった。怒りに満ちて、ナショナリスティックで暴力的であるプーチン氏のロシアは、現状の支えである西側的規範の書き換えを欲している。まずグルジアで、ついでいまやウクライナにおいて、ロシアは、近隣諸国に対する自国の支配的な立ち位置を主張するために、そしてまた西側に対しては介入が無意味であることを確信させるために、極端な行動に走ることを示してきた。プーチン氏が核兵器に関してただハッタリをかけている(そう考えるべき理由はない)としても、彼の跡を継ぐナショナリスト指導者がいっそう危険になることはありえよう。
*真夜中にむけて
中国はより遠回しながらも無視しがたい脅威をもたらしている。なるほど中国=米国関係は到底冷戦には見えないものの、中国がアジアの大方の地域においてアメリカの優越性に挑戦することを運命付けられているように見える。中国の軍事支出は毎年10%ないしそれ以上、拡大している。中国の核軍備拡張は、もし万一アメリカが中国核軍備の打破を試みた場合、「第2撃」を行使して復讐する機会を自国に与えることを意図されている。ただし、両国は核のかかわる非常事態についてほとんど話し合っていない。しかし、たとえば台湾をめぐる危機が驚くほどエスカレートすることもありえよう。加えて、日本は、中国の通常戦力の状況を視野に入れて、もはやこれ以上アメリカの保護に依存し続けることが出来ないと感じるかもしれない。そうだとすると、日本と韓国が核爆弾を選択することもありえよう。結果は、北朝鮮を組み込んだもう一つの身動きのとれない地域的手詰まり状態の出現となるであろう。
ではどうするか? 最も緊急に必要とされるのは核外交の再生である。優先課題の一つは核不拡散条約を防衛することであって、それぞれの隣国が核兵器を開発中でないと諸国に再保証することによって核兵器の拡散を減速させる。イランが同条約にとどまった(対照的に北朝鮮は脱退した)ことは絶対に必要であった。危険なのは、イランの場合のように、条約調印国が濃縮と再処理をその関係国自身の核爆弾のための準備と見なし、近隣諸国に濃縮などへの道を開かせることである。このため、濃縮と再処理を思い止まらせる集団的努力が求められるのであり、とくにアメリカが自らへの同盟諸国の信頼を下支えすることが要請される。
こうしたことを実行してもらうために相手国を好きになる必要はない。軍備管理は米ソ関係の決定的に重要な一部となった。中国とアメリカの間の関係およびアメリカとプーチン氏のロシアとの間の関係も同様なことになりえよう。インドとパキスタンのような敵同士はただ話し合いをするだけで安定を育てることが出来る。敵対国をよく知るための最悪の時はもみ合いの最中である。
1960年、アメリカの核戦略家アルバート・ウォールステッター氏はこう書いた。「我々は、最も不愉快な可能性を回避することを欲するがゆえにこそ、そうした可能性について熟考しなければならない」。今日においてもそれは当てはまる。増大しつつある核の脅威に対決するうえで不可欠な第一歩はその顔を真正面から凝視することである。
◇
編注:このエコノミスト誌論説の原題、発表日時などは以下の通り。
“Nuclear weapons: The new nuclear age. A quarter of a century after the
end of the cold war, the world faces a growing threat of nuclear conflict”,The
Economist, March 7th 2015. |
|