第68回国連総会:
《核軍備撤廃に関する包括的条約》決議に3/4の支持集まる
世界が注視した核兵器使用の人道上の影響
藤田俊彦・常任世話人・前長崎総合科学大学教授
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| (2014.2.15) |
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第68回国連総会は第1委員会が審議・承認した決議など53件を2013年12月5日、すべて正式に採択した。その半数近くが核兵器関連で、いずれも何らかの方途により核兵器のない平和で安定した世界の実現を追求する決意を表明した。
核軍備の縮小撤廃、核兵器の使用禁止、非核兵器地帯の新設・強化、包括的核実験禁止条約の発効促進、核分裂性物質生産禁止条約の交渉開始、軍縮担当国連機関の活性化など、決議・決定は広範かつ多岐にわたった。
1.核軍備撤廃に関する決議5件
第1表第1グループの決議にみられるように、核軍備撤廃を主題とする総会決議は前年より1件増えて5件となった。9月26日開催の核軍備撤廃に関する総会ハイレベル会合の成果の実践を求める非同盟運動(NAM)諸国提案の決議が採択されたためである。
NAM提案の3核兵器廃絶決議
この総会ハイレベル会合は第67回国連総会でNAMを代表してインドネシアが開催の決議を提案し、承認された企画である。今回の「核軍備撤廃ハイレベル会合の後追い」決議もインドネシアがNAM国連加盟国を代表して提案した。
インドネシア決議は、NAM諸国提案の他の2決議と同様に、去る3月、オスロで開催された「核兵器の破滅的な人道上の影響に関する会議」、さらに10月、国連総会第1委員会で125ヵ国が発表した「核兵器の人道上の影響に関する共同声明」など、核兵器をめぐる人道上の国際的批判の高まりを反映した。また決議は2010年核不拡散条約(NPT)再検討会議など一連のNPT再検討会議の成果文書を踏まえていた。
決議は本文冒頭で「総会ハイレベル会合において核兵器の完全廃棄を達成するための緊急かつ効果的な諸措置に対して強い支持が表明された」と強調した(第1段落)。そのうえで決議は「核兵器の保有、開発、生産、取得、実験、貯蔵、移転、および使用もしくは使用の威嚇を禁止し並びに核兵器の破棄を規定する核兵器に関する包括的条約の早期締結」を求め、ジュネーブ軍縮会議における早急な交渉開始を要請した(第4段落)。
さらに決議は、国連事務総長に宛てた具体的要請として、「核兵器に関する包括的条約」について「加盟国の見解を集約」し、その報告を第69回総会に提出するよう求めた。決議は、この企画の進捗状況を検討するため、国連ハイレベル国際会議を5年後の2018年末までに開催すると決定した(第6段落)。
決議は一般市民の間にこの企画への国際的な支持を広げる必要を指摘し、9月26日を「国際核兵器廃絶デー」とすると宣言した(第7段落)。
決議は投票総数185票の74%超、137票の賛成を得て採択された。ただし、NPTの認める5核兵器国のうち米英仏ロが反対し、中国が棄権したほか、NPT外の核兵器国イスラエルも反対した。この決議の実行はけっして容易でないことが推測される。
ミャンマー決議「核軍備縮小撤廃」は、NAMの原則的立場を再確認したうえで、「核兵器の開発,実験、貯蔵、貸与、移転、使用および使用の威嚇の禁止並びにそれら兵器の破棄に関する核兵器条約」を「早急に締結することを決意」した。
核兵器国に対して、決議は「合意された時間的枠組みを備えた核兵器の漸進的かつ段階的な削減および可及的速やかなそれら核兵器の究極的かつ完全な廃棄」の計画を求めたほか、「核弾頭とその運搬システムの質的改良」をただちに停止することを促すとした。
マレーシア決議「国際司法裁判所の勧告的意見の後追い」は、「1996年7月8日に発表された核兵器による威嚇もしくは核兵器の使用の合法性に関する国際司法裁判所の勧告的意見」を想起し、「全面的な核軍備撤廃へと導く交渉を誠実に行ないかつ完結させる義務が存在するとの国際司法裁判所の全員一致の結論」を強調した。
決議はすべての国に対して、核兵器の禁止と破棄を規定する「核兵器条約」の早期締結をめざして多国間交渉を開始するよう促し、ジュネーブ軍縮会議が時間的枠組みをもった核兵器完全廃棄のための段階的計画に関する交渉を開始する必要性を指摘した。
新アジェンダ連合決議
新アジェンダ連合決議「核兵器なき世界にむけて、核軍備撤廃公約の実行を加速する」は核軍備撤廃5決議の中で最多の賛成171票(投票総数の93・4%)を集めた。
新アジェンダ連合は、2000年NPT再検討会議の際、自らのイニシアチブにより、最終文書の中の「核軍備撤廃へと導く核兵器国による自国核軍備の完全廃棄を達成するとの明確な約束」の項目を勝ち取った。2010年NPT再検討会議はこの「明確な約束」を再確認した。今回の決議は、核兵器国による「明確な約束」の実行の遅れをあらためて厳しく批判し、加速するよう要求して、核軍備撤廃の早期実現を訴えた。
新アジェンダ連合は昨年半ば、スウェーデンが国内事情の絡みで離脱し、アイルランド、エジプト、南アフリカ、ブラジル、メキシコ、ニュージーランドの6ヵ国となった。
日本決議
日本決議「核兵器完全廃棄にむけての共同行動」は冒頭で「すべての国が核兵器の完全廃棄に向けてさらなる実際的かつ効果的な措置をとる必要性を想起し」、これとの関連で国連「加盟国が共同行動をとる決意を確認」すると宣言した。
この決議は核兵器使用のもつ壊滅的な人道上の影響を前文のなかで二度言及したことが注目された。岸田文雄外相は総会ハイレベル会合での演説のなかで、自らが広島市出身であることに触れて、戦争における核兵器使用の惨禍を指摘した。
決議は、そのうえで、「すべての締約国がNPT第6条のもとで公約している核軍備撤廃へと導く核兵器国それぞれの核軍備の完全廃棄を達成するとの核兵器国による明確な約束を再確認する」と強調した(本文第3段落)。
しかし、岸田外相はハイレベル会合の演説の中で、「北朝鮮やイランの核問題や核テロの危険」など「多様化する核リスク」なるものに言及することを忘れず、これらのリスクに「有効に対処でき」、「十分に実践的な対応」をとっていくべきであると力説した。
それは、アメリカとの軍事同盟という枠組みの中で、核抑止戦略と「核の傘」への依存を前提として、アメリカの同意する漸進的な核軍縮と「究極的」核兵器廃絶の志向を含意した。
外務省によると、日本決議はこれまで最多の102の共同提案国を集めた。国連当局の配布した日本決議案の提案国名簿部分にアメリカが名を連ねていたことは重視されねばならない。また、日本決議は、NAM諸国提案の決議と異なり、核兵器の禁止・廃棄の規定を組み込んだ「核兵器条約」の締結には触れていない。
日本はこの決議と新アジェンダ決議に賛成する一方、NAM3決議にすべて棄権した。
2.第2グループ諸決議にみる核兵器なき世界の模索
「非核兵器国への核兵器不使用確約」決議はNAM諸国がブルネイを先頭に提案した決議で,公式名称は「非核兵器国に対する核兵器の使用または使用の威嚇を行なわないと確約する効果的な国際取り決めの締結」である。
NPT内核兵器国、米露英仏中の5ヵ国はこれまで非核兵器国との間で核拡散防止のためNPT遵守の条件をつけたうえで核兵器不使用を個別に約束してきたとされる。決議はそうした約束を統一的な国際取り決めとして強化・確立することを意図した。
この取り決め計画に反対はなかった。ただし、NPT内核兵器国は中国を除く4ヵ国が棄権し、そのほか軍事同盟加盟国の多くも棄権した。NPT外核兵器国ではイスラエルが棄権し、インド、パキスタン、および北朝鮮は賛成した。日本は賛成した。
インド提案「核兵器使用禁止条約」決議は非同盟・非核兵器国が多く支持してきた。中国を除くNPT核兵器国4ヵ国がそろって反対し、NPT外核兵器国イスラエルも反対した。反対・棄権の差はあるが「不使用確約決議」にも似た核兵器国の反応が注目される。
インドのほかパキスタンと北朝鮮が決議に賛成した。日本は再びこの決議に棄権した。
「包括的核実験禁止条約(CTBT)」決議はCTBTの早急な発効を促した。決議に反対したのは今回も北朝鮮1国で,棄権はインド,シリアなど3ヵ国であった。
NPT核兵器国は決議に賛成した。ただしアメリカはオバマ民主党政権の意向に反して支配層内部で野党共和党の反対が根強く、上院で批准法案が通る見通しは立たない。
中国はこのアメリカの動向を注視しつつ、CTBT批准の頃合いを見計らっており、インドは中国との核戦力バランスの行方を考慮してまたも棄権したと評されている。
エジプト決議「中東核拡散のリスク」は1995年NPT再検討会議の決議をはじめ2010年再検討会議行動計画を含めて、長年の懸案である中東核拡散防止の一環である。
決議は、イスラエルのNPT加入およびイスラエル核施設のIAEA包括的安全保障措置への組み込みの重要性を再確認した。しかし、核兵器保有の不透明性の維持に固執するイスラエルは、非核兵器国としてのNPT加入を拒み、今回もこの決議に反対した。
「核分裂性物質生産禁止条約」はカナダ提案により決議でなく決定の扱いとされた。決定はカットオフ関連の加盟国見解をまとめた事務総長報告を歓迎し、「核兵器その他の核爆発装置むけの分裂性物質の生産を禁止する」議題を第69回総会で取り上げることに合意したとだけ述べていた。政府専門家グループが条約案について協議を続けている。
3.非核地帯・非核空間への関心の広がり
核兵器なき世界の実現に向けて、非核兵器地帯の設立・拡大の地球規模の努力が徐々に成果をあげている。近年、その志向は宇宙空間にまで広がりつつある。それは第1表第3・第4グループの決議・決定に明らかである。
「中東非核兵器地帯の設立」決議もエジプトが提案した。大量破壊兵器なき中東の確立は,1995年NPT無期限延長の条件の一つであり、2000年・2010年のNPT再検討会議においても激論が交わされた。
その結果、2012年中に大量破壊兵器なき中東地域確立のための会議を開催するという具体的計画が決定され、推進役としてフィンランドが任命された。しかし、会議は各地の武力紛争などが障害となって、2013年に至ってもなお開催できずにいる。
決議は、核兵器その他の大量破壊兵器のない中東を、という拒みがたい目標にもっぱら政治的焦点を絞ったエジプトの外交術が生かされて、今回も無投票採択となった。
東南アジア、アフリカ、中南米などの非核兵器地帯の諸国および「一国非核の地位」にあるモンゴルが近年中に総会を開催する準備を進めていると伝えられた。非核地帯諸国が核兵器国と交わした議定書の内容をより厳しく原則的にすることが期待されている。
「インド洋平和地帯宣言」決議を主導したのはインドネシアとNAMである。インドとパキスタンがともに賛成した。反対は米英仏3ヵ国とイスラエルの4ヵ国のみで、ロシアと中国は賛成した。この決議は1999年以降、一年おきに採択されてきた。
「宇宙空間活動の信頼醸成措置」決議は「専門家集団の報告を伝える事務総長の覚書を歓迎」したうえで、報告にある「透明性および信頼醸成措置の提案」を「自発的な基盤にもとづき…検討しかつ実行することを慫慂する」とした。
「宇宙空間軍備競争防止」決議は「とりわけ主要な宇宙能力を保有する諸国に対して宇宙空間平和利用の目標に積極的に貢献しかつその目標に反する行為を控えることを要請する」としている。
国連軍縮機関の活性化はまたも総会で論争を呼んだ。ジュネーブ軍縮会議(議題設定すらままならず、すでに20年近くの間、ほぼ麻痺状態にある)、総会の補助機構としての軍縮委員会(これも同様な状況)などがあらためて批判の対象となった。
たしかに、総会第1委員会では、米ロそれぞれの1国的軍備削減や2国間交渉の成果としての新STARTの締結,さらにその後追い交渉への期待の表明などが、両国やその同盟国から相次いだ。この3年間に3回、NPT核兵器国5ヵ国の年次会合も開かれている。
しかし、オーストリア決議「多国間核軍備縮小撤廃交渉の推進」やNAM提案諸決議にみられるように、多くの加盟国は、1国措置や2国間,数ヵ国間の交渉などは多国間国際会議の交渉を代替しえないと断言し、核大国の一方的な実践・協議のあり方を批判した。
それに対して米英仏3ヵ国の国連代表は当面、カットオフ条約が彼らにとって核兵器関連の多国間交渉の唯一の具体的課題であると明からさまに述べていた。それすらも今回、カナダ提案により国連の「決議」でなく「決定」に止め置かれ、先延ばしされている。
4.2015年NPT再検討会議に向けて
2015年NPT再検討会議を前にして、今年4月末から2週間開催される第3回準備委員会を充実したものにすることが焦眉の課題である。
核兵器国は核軍備縮小撤廃に関する成果のほどをこの準備委員会に報告することが義務づけられている。世界全体で推定1万7000発超(うち米ロはそれぞれ7700発と8500発)にのぼる膨大な核兵器保有の現状とその縮小の遅れの諸相は歴然としている。
今回の国連総会では、多くの非核兵器国が人道上の観点を踏まえて核兵器国の義務履行の遅滞を厳しく批判し、核軍縮措置の加速や核軍備撤廃条約の早急な交渉開始を迫った。
アメリカ主導同盟網からは国連の枠外でNATOのノルウェーがオスロ会議を3月に主催し、その後追い会議がリオ条約を10年前、脱退したメキシコで2月に開催される。
国連内では、法的になおANZUS加盟のニュージーランドが125ヵ国の支持を得て「核兵器の人道上の影響に関する共同声明」を発表し、「核兵器の完全廃棄」を訴えた。
日本は、人道上の立場からのこうした国際的な意思表明に参加を拒んできたが、内外の批判を受けて、今回、ようやく重い腰を上げてニュージーランド共同声明に署名した。
広島・長崎で核戦争の惨害を体験した唯一の被爆国日本の政府が2015年NPT再検討会議に向けて、核兵器禁止・廃棄の包括的条約の締結に率先努力することが求められている。日本における非核の政府の確立はこれまで以上に差し迫った国際的な課題となった。
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