なぜ核兵器はこの世界から除去せねばならないか
核のニアミスは歴史のあちこちに散在している。イランに
核を持たせることは世界平和とイラン人民の双方を脅かす。
エリック・シュローサー (ガーディアン紙)
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| (2014.11.27) |
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イランとの核交渉がジャーナリズムを賑わしている。外交活動が多くの注目を集める一方、重要な一つの疑問が詳細な記事のなかでしばしば迷子になっている。それは、イランが何故に核を入手してはならないか、である。私見によれば、その答は至極簡単である。核兵器で武装したイランは世界平和ばかりかイラン人民にとっても重大な脅威となるからである。
長崎原爆投下から70年
核兵器による長崎の破壊からほぼ70年が過ぎた。それはこれまで民間目標に対して行なわれた最後の核兵器使用であった。冷戦は核交戦なしで終了したし、核テロの危険はいまのところ不確かな推測の域を出ない。1945年以降、核の大惨事が発生していないという事実は、それがこれまで起きていないのだから、これからも起きないであろうという信念、あるいはまた、それが起こりえないという信念すら助長するかも知れない。アメリカの著名な学者の一人、ケネス・ウオールツ氏は、より多くの国が核兵器を入手すればするほど、それはより良いことであるなどと、核兵器の拡散を良いことであると考えた。ウオールツ氏によると、「平和を愛するものは核兵器を愛するべきである。核兵器は、これまで発明された兵器の中で、自らの使用に決定的に反対する唯一つの兵器である。」
いま、学者のなかには、核兵器がそれらを保有する国ぐにの間における戦争を思い止まらせ、国際間の関係を安定化させ、そして世界の指導者をより注意深くさせるとする彼の主張に同意するものが多い。事実、そうした議論は核兵器国の近年の外交史を正確に叙述さえしている。しかし、それは未来については何事も明らかにしない。それは真実であるが、ただし、それは、ある日、それが真実でなくなるまでのことである。
それぞれの核兵器保有国はそれらの核兵器に内在するリスクと戦わねばならない。核兵器は、これまで発明された機械の中で最も危険な機械であり、技術的および行政的の双方の理由から極端に管理の難しい機械である。あらゆる人工物体と同様、核兵器は不完全である。それらを管理する人間も同様である。アメリカは最初にこの技術を考案し、それを完成させ、他のどの国よりもそれの経験を積んでいる。だが、そのアメリカすらも、これまで幾度となく、アメリカの核兵器によってアメリカの大都市をうっかり破壊される寸前にまで立ち至っている。他のおよそ半数の核兵器保有国における政治的不安定はこれまで潜在的な大惨事の源であり続けてきた。ほんの一瞬の意思決定が一度ならず世界を核戦争に近づけてしまい、そのあと辛うじてそれを回避していた。
核兵器めぐる数々の重大事故
ペンタゴンは、アメリカの核兵器について、わずか32件の重大事故が発生しただけであると長い間主張してきた。しかし、私が「情報の自由」法を通じて入手した文書は1950年から1968年までの間だけでアメリカ核兵器の関わる1千件超の事故を記載していた。これらの事故の多くは些細なものであった。だが、そのほかの事故については公認一覧表に記載された事故の幾つかよりも本格的な核爆発を引き起こしそうな事故であった。
アメリカの場合:一見して何の変哲もないことが災害を起こすこともありえたであろう。B?52爆撃機の内部のスクリューから外れた1個のごく小さな金属製ナットが新たな電気経路を作り出し、安全スイッチを迂回して水素爆弾4発を完全に作動可能にさせた。あるミサイル・サイロの故障した侵入警報装置を調べていた維持管理担当の技術者がドライバーで目指したヒューズとは違うヒューズをはずし、ショートを起こしてしまい、ミサイルから弾頭を吹き飛ばした。B?52爆撃機のコックピットの熱気の出る排気口近くにうっかりしまい込まれていたゴム製座席クッション4枚が火災を起こし、飛行中の乗員たちに緊急脱出を余儀なくさせ、アメリカのもっとも重要な最高秘密の軍事施設の一つで危うく水素爆弾を爆発させるところであった、などなど。
イラクの場合:アメリカ以外の諸国はこれらよりもはるかにより安全でない核兵器の設計図を作り出していた。サダム・フセインがもし万一核兵器を製造したとしたならば、それらの兵器はかれのどの敵よりも大きな脅威をバグッダッドに与えたかも知れない。ある国連の査察官はイラクの兵器設計図について語ったさいに、「それはライフルの弾丸1個が当たったら爆発したかもしれない。私なら、このデスクの端からそれが落ちるとしたら、そのあたりには居たくないね」と言っていた。
フランスの場合:5年前、イランは大群衆デモで苦しめられた。民主主義を求める「緑色運動」は激しく弾圧された。政治的な不安定と核兵器はあまり良い組み合わせではない。フランス防衛省の元官吏で拡散問題の専門家であるブルーノ・テルトレイ氏によれば、現在核兵器を保有する9カ国のうち4カ国は「核兵器の保全および/もしくはそれら兵器の使用の管理に影響する重大な政治危機を何らかの形で経験したことが知られている」。
テルトレイ氏とペンタゴン元高官ヘンリー・ソコルスキ氏の編集した最近のある著作は、1961年春、ドゴール大統領に対するクーデターを企てていたフランス将軍のT集団がアルジェリア砂漠での実験を予定していた核装置をどのように入手しようと試みたかを説明している。将軍の一人が実験担当の司令官にこう告げた。「その可愛い爆弾の爆発を控えてくれたまえ。私たちのために保管しておいて欲しい。それは今後、いつまでも役に立つ」。ドゴールはその装置を予定より早く爆発するよう命令し、クーデターは不成功に終った。
中国、ソ連、パキスタンの場合:文化大革命中の中国では、紅衛兵軍団のメンバーらがいくつもの人口稠密地帯の上空を予定コースに組み込んで核弾頭搭載ミサイルを発射した。それはきわめてリスクの高い、そして恐らく正式には認可されていない発射であった。1991年夏の数日間、ソ連の核軍備を管理するための3基の手動操作小型装置「チェゲット」は、権力奪取とゴルバチョフ大統領打倒を狙った将校らの手中にあった。そして、パキスタン、世界で最も急拡大している核軍備をもつこの国は1960年代以降、3度の軍事クーデターを経験し、1980年代末以来4人の総理大臣を追い出し、そして政府転覆を意図したイスラム反乱1回を体験した。
1962年キューバ危機の場合:最良の意図および核戦争回避の誠実な願望をもってしても、兵器システムの複雑さ、通信システムの信頼性欠如、および人間の過謬性は大惨事を引き起こしかねない。キューバ・ミサイル危機のなかで、アメリカのケネディ大統領とソ連の指導者フルシチョフ氏は衝突を回避するべく、自らのなしうるあらゆることを実行した。しかし、かれらの知識もしくは管理の及ばない一連の出来事--偶発的にソ連領内に迷い込んだアメリカのU-2型機、ケネディの承認しないアメリカの弾道ミサイル実験、在キューバのソ連司令官およびソ連潜水艦艦長への核兵器使用の権限の委譲--は双方の最高指導者が欲しない戦争をほとんど始めるところであった。1962年10月27日、キューバ沖合でアメリカ軍がソ連潜水艦1隻を浮上させるために訓練用水中爆雷を投下したとき、潜水艦の責任者の3人の士官のうち2人が核兵器発射で対応することに賛成票を投じた。かれらは潜水艦が攻撃されていると誤信した。副司令官ヴァシリ・アルヒポフ氏は核兵器使用を承認することを拒否し、そして核兵器使用承認の投票は全会一致でなければならなかった。アルヒポフ氏の核兵器使用の承認拒否は世界最初の核戦争を防止した。
イランの場合:イランの抱える技術分野、政治分野および指導部の諸課題を与件とすると、イランの核兵器追求は災難への招待状のようにみえる。そのうえ、イランは1970年に核不拡散条約を調印した。イランの核兵器取得は、同条約違反となり、他の諸国が同条約に違反することをあおり、イスラエルが今後、核施設を国際査察にかけようとするかも知れない気持ちを削ぐことになる。中東における核軍備競争は域内のすべての国を危険にさらすし、核爆発の影響は国境を無視して広がる。そして、イランの核兵器取得は同国を他の核兵器国の標的にする。
ウィーン会議の重要な意義
12月初旬、核兵器の人道上の影響と核兵器禁止の条約を討議するために、150カ国の高官がウイーンで会合する。20世紀には世界は幸運にも核のハルマゲドンを回避することが出来た。21世紀には、核兵器が民間人を殺害しもしくは怯えさせるためにのみ役立つとする新しい国際的コンセンサスが出現しつつある。世界中の核兵器の数は、いずれの日にかゼロにするとの目標の下で、削減されねばならない。新たな国が核兵器を保有する新たな核軍備競争および核兵器不拡散体制の崩壊はこれらの目標のアンチテーゼである。
そして、それこそが、他にも理由は多々あるものの、なぜイランが核兵器を入手してはならないかの理由である。
編注:この論評の筆者、原題と副題、掲載紙などは以下の通り:Eric Schlosser, “Why we must rid the world of nuclear weapons; History is littered with nuclear near-misses. Letting Iran have the bomb would threaten both world peace and the Iranian people”, The Guardian, 27 November 2014. なお小見出しは編集部。
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