HOME >> 核兵器をめぐる情報
 
 
米ミサイル防衛計画見直しの背景は何か   
英紙「ガーディアン」09.9.17付     


 アメリカのオバマ大統領は、去る9月17日、ブッシュ前政権以来追求してきた東欧地域ミサイル防衛(MD)計画について、根本的に見直す方針を発表した。
 英ガーディアン紙のボージャー記者は、同日付の論評の中で、オバマ大統領が議長を務める9月24日開催の核不拡散と核軍縮に関する国連安保理首脳級会合とこのMD計画見直しの関連を指摘した。
 ボージャー氏によると、ロシアのメドベージェフ大統領から安保理会合でMD計画批判が蒸し返される恐れがあった。アメリカ政府としては、周到に用意した安保理決議草案の円満な全会一致の採択を願って、この措置を採らざるをえなかった。
 ボージャー論評は、また、年末に失効する米露戦略兵器削減条約(START)の後継条約交渉にふれたほか、米国上院の包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准などにも言及し、オバマ政権の核軍備関連方針を取りまくきびしい状況を分析している。
 以下、論評の主要部分を抄訳で紹介する。

      * * *

 辛うじて命脈を保ってきた米ミサイル防衛計画に対するオバマ大統領の止めの一撃は、ニューヨークにおいて、しかも無菌状態に保たれた国連本部交渉会議室で下されたと言えるかもしれない。
 オバマは、9月24日の国連安保理事会首脳級会合で議長を務める予定で、すでに核兵器不拡散と核軍備縮小撤廃に関する決議の草案を各国に提示していた。しかし、この決議案草案の中心的な諸課題をめぐって、ロシアが異論をとなえ、そのため討論が延々と数週間にわたり続いていた。
 核兵器のない未来にむけて、世界はどのような軌道をとるべきかについて、オバマは大胆な集団的声明をまとめようと努力していた。たしかに、大多数の安保理決議はとどのつまりは水増しされて終わる。しかし、もしも今回の首脳級会合が失敗に終わるならば、それは、核兵器拡散の脅威に焦点を絞りこんだオバマの世界外交にとって、脅威とならざるをえない。
 オバマがさる4月、プラハ演説の中で素描した核兵器をめぐる外交課題はより緊密な米露協力関係なくしては失敗に終わる――、このことを今回の国連安保理決議草案はあらためて如実に示した。そして、両国関係の最も直接的かつ感情に訴える障壁は、いまやオバマによって反古にされた、ミサイル防護楯の主要要素をポーランドとチェコ共和国に配備するという計画そのものであった。
 ロシアにとって、それは、自国の関心事を意に介さないアメリカのやり口の象徴であり、最もイライラさせられる事例であった。ロシア政府はこの計画がイランの核弾頭搭載ミサイルの潜在的脅威に対する防衛措置であるとするアメリカの保証を信じなかった。ロシアにとって、それはアメリカの第1撃に対するロシアの抑止力を弱める試みであった。
 オバマの対外政策にまつわる大胆かつ非常に大きなリスクをともなう諸々の願望は、ミサイル防衛の一件がなくとも、容易に崩れ去る恐れがあった。しかし、このミサイル防衛への固執は、遠い将来の不確実な脅威に対する未実験の技術に基づいているものであって、しかもロシアが亊あるごとにアメリカの影響力行使をブロックすることを意味した。
 安保理首脳級会合の1週間後、常任理事国5ヵ国はドイツとともにイラン代表団との会談に臨むことになっていた。それはイラン核計画に関するきわめて重要な会合であった。イラン政府は出席を約束したものの、核計画そのものについては、それが平和的であり主権に属するとの観点から、交渉しないと言明していた。
 アメリカ、イギリス、フランスは、イランがウラン濃縮を止めないなら、石油・ガス制裁で脅す意図をもっていた。しかし、こうした脅しはロシアの支持がなければ実効性を減じる。ロシアのイラン黙認は、安保理においてけっして孤立しないことを行動原則とする中国を仲間に引き入れるであろう。
 もし何かがイランの強硬なシーア派政権を既定の方針から逸らすことができるとすれば、それは統一した安保理が各種の有意な制裁措置をとるという展望のみであった。
 2ヵ月後の12月5日には、発効後18年を経た戦略兵器削減条約(START)が失効する。米ロ双方の交渉担当官は、それぞれの配備している戦略弾頭をこれまでより低い1500基の上限にまで削減する代替条約に合意するため、鋭意話し合いを行っている。
 この交渉はミサイル防衛を除外するものと考えられていたが、両者のやり取りを追跡してきたある外交官によると、ロシア側は交渉中、この問題をたえず持ち出してきた。「それは大きな障害であった。合意は妨げられていた」。  『ロシアと世界情勢』誌のヒョードル・ルキャノフ編集長は、いま、米ロ交渉が今後テンポを早めるであろうと確信している。「われわれはSTART協議が12月の期限までに完了すると期待してよい。両国関係は必ず改善するであろう」とルキャノフは語った。
 旧条約の失効と新条約の発効の間隙は、もし生じたとしても、何らかの即興外交で埋め合わせることが出来よう。それよりはるかに重要な点は、暫定的に「STARTプラス」と呼ばれている新協定の発効の翌日に、一体、何が起こるかである。それが1つの過程の終りと見られるのか、それとも、さらなる兵器削減をめざす新ラウンドと軍備管理の新たな時代の始まりと見られるのか。
 ワシントンの軍備管理協会のダリル・キンボール理事長は次のように語った。 「[ミサイル防衛、原注]システムの先延ばしおよび他の選択肢の追求は、弾頭上限を1500基未満とするなど、両国間の戦略兵器削減をより大幅にする道を切り開くであろうし、さらに、おそらく、アメリカの対イラン圧力を高める努力に合流しようとするロシアの意欲を強めるであろう」。
 オバマは、もしこうした弾みを維持できたとすると、アメリカ連邦議会上院において、包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准するに足るだけの支持を努力次第で集めることができる。そうなれば、中国はほぼ確実に同様の条約批准措置をとるであろう。かくて、CTBTは発効し、核兵器実験を禁止するとともに、核兵器拡散の強力な法的障壁を設置することになる。
 こうした環境のもと、明年5月に再検討会議をひかえる核不拡散条約(NPT)は希望がもてるであろう。オバマがプラハ演説で語ったように、NPTは核兵器国と非核兵器国との間の「取り引き」である。オバマはつぎのように述べた。
 「核兵器を保有する国ぐには核軍備撤廃にむけて進むであろうし、核兵器を保有しない国ぐにはそれらの兵器を取得しないであろう。また、すべての国ぐには平和的な核エネルギーにアクセスできるであろう」。
 この40年間、NPTは核兵器の拡散を減速させてきた。もともと5ヵ国であった核兵器保有国は現在、9ヵ国であるが、世界はかつて予言されたような破滅的拡散の激流を目撃しないできた。しかし、この取り引きはいまや摩耗しつつある。
 核軍備撤廃への弾みの維持が失敗し、それにイラン核計画の進展が結びつき、さらに明年5月のNPT再検討会議の不成功が続くとなると、イスラエル=イラン間のありうべき衝突および中東全域にわたる核兵器の拡散の条件が造成されることになる。それは、まさに、悪夢のシナリオであり、オバマがプラハで指摘した希望に満ちた将来の裏返しである。
 米露両国間の揺るぎない関係こそがカギである。その多くはロシアの今後の反応いかんにかかっている。ロシアの北大西洋条約機構大使、ドミトリ・ロゴジン氏は気味悪い表現を使いながら、次のように希望の余地を語ってくれた。
 「いまの状況はこんなところであろうか。あなたのアパートに腐乱した死体がある。そこへ葬儀屋がやってきて、その死体を運び去った…。手間ひまのかかる厄介な問題が1つ、とにかく片付けられようとしている。われわれは、 これから、本来の仕事に取りかかることができる」。