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ラッセルとアインシュタイン、そしてレーガンの設定した目標への道をオバマは指し示さなければならない──核兵器のない世界の実現には核燃料サイクルの国際管理が必要である
ティモシー・アッシュ(英ガーディアン紙、2008年11月13日)

Obama must show the way to a goal set by Russell, Einstein - and Reagan Achieving a world free of atomic weapons will require full international control of the nuclear fuel cycle. Yes, we must
Timothy Garton Ash
The Guardian, Thursday November 13 2008

オバマ米次期大統領が2009年1月20日の就任当日、自らの夢を現実に転化する苦難の闘争に乗り出すにあたって採用すべき戦略目標の1つは、核兵器の脅威のない世界である。この夢の実現にあたって、オバマは,アメリカがもつ超党派の、非公式な、細目にわたる政策立案の秀れた集団に依拠することができる。オバマは、かれが大きく物事を考え、大きく行動する能力があると期待している、数億人の世界中の支持者から熱烈な反応を期待することができる。またオバマは、それと同様に,核兵器を保有するいくつもの諸国および核兵器保有を最上の願いとする、あるいはイランの場合のように核兵器取得に向けて積極的に努力している、他の諸国や暗黒勢力から、反対を押し隠す見せかけの微笑が送られることを確信してよいであろう。

この核兵器のない世界という夢は核兵器そのものと同じように古い。いま提唱されている案の基本的要素の多くは、いわゆる1946年アチソン=リリエンソール報告──核科学者ロバート・オッペンハイマーが一部を書いた報告であったが,その後まもなく世界を核破滅の淵へといざなうことになる冷戦のもとで埋没してしまった──の中に見ることができる。しかしこの夢は、1955年になると左派の側から、バートランド・ラッセルが書き、アルベルト・アインシュタインが署名した宣言のなかで再登場した。そして、この夢は、こんどは右派の側から、1986年レイキャビク首脳会談の際,ロナルド・レーガンからソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフへの自然発生的な申し出のなかで再びその姿をあらわし、ソ連政治局のオバマがそれに対して「われわれはそれをやれる。われわれはそれらを廃棄できる」("We can do that. We can eliminate them")」と応じたのであった。

核兵器のない世界という夢はこのように生き続けてきた。ただし、今日、われわれはかつての冷戦絶頂期よりもこの夢から遠ざかっていると論じることができよう。この問題についてのオバマ顧問の1人,イヴォ・ダールダーはフォーリン・アフェアズ誌に寄稿した最近の論文の中で、いま世界には2万5000基を超える核兵器があり、25万個の核爆弾を造るのに十分な約3000トンの核分裂性物質があると記している。アメリカとロシアは、いまもなお、30分の予告でたがいに相手の大都市を壊滅させることのできる戦略ミサイルを1日24時間、緊急発進態勢においている。1995年には,ロシアは、ノルウェーで発射された実験用ロケットについて、モスクワを標的とした潜水艦発射核ミサイルと誤認し,あと2分でアメリカに対する報復核攻撃を命令する状況にまで達していた。

しかし、これは、核兵器をめぐるわれわれの心配のなかで、ほとんど最も小さな部類に入るであろう。はるかにもっと現実的なのは、ならずもの国家やテロ集団が濃縮ウランやプルトニウムを数キロ入手して,原始的ではあるが壊滅的被害をもたらす核爆弾を製造する可能性である。さらに、いま、21世紀を迎えて、この古い物語には新たな展開がみられた。現代のもう1つの難題である地球温暖化に直面したわれわれはウランの減産でなく増産を必要としているのである。たとえば太陽光など無尽蔵なエネルギー資源が手頃な価格で大量利用可能になるまでの間,原子力利用の拡大は2酸化炭素排出の増加を減速できる方法の1つである。国際エネルギー機関は2050年までに1400基の発電用原子炉を建設するよう呼びかけている。しかし、そうした計画の細部には大きな問題が潜んでいる。民生用原子力発電に要する水準までウランを濃縮する施設を導入するということは、あとほんの一歩で兵器級ウランの生産に到達することを意味する。核科学者にとっての小さな一歩がテロリストや圧政者にとって大きな飛躍となりうるのである。

かくて、核兵器のない世界の夢が復活されねばならない1つの理由は、冷戦終焉とともに後退するかに思われたこの悪夢がまたも現実に近づいていることにある。今日,それはすべての悪夢を終らせる大きな悪夢ではなくて、多くの小さな悪夢かもしれないが、しかし「小さな」という表現はあまり適切でない.アメリカでは、この問題は、2007年1月4日付ウォールストリート・ジャーナル紙の社説反対面において、米国対外政策界の4人の長老──ジョージ・シュルツ、ウイリアム・ペリー、ヘンリー・キッシンジャー、およびサム・ナン。このうち2人は民主党員、2人は共和党員──が署名した「核兵器のない世界」と題する注目すべき論評となって、またもその姿を大きく現わした。この論評の構想はその後、スタンフォード大学フーバー研究所(私はいまそこで本稿を執筆している)および首都ワシントンの核脅威イニシアティブを拠点として、さらに詳細に展開されてきた。勇気づけられることに、これは、オバマ選挙要綱の対外政策部分における重要な政策の一つになっている。オバマ次期大統領は「核兵器を世界から一掃するという目標を米国核政策の中心的な要素の1つにする」と公約している。

問題は「いかにして」である。様ざまなモデルがすでに詳細に描き出されているが、そのいずれもが2つの大きなことを実行せねばならないという点で一致している。まず、核不拡散条約の加盟国であろうとなかろうと、すでに核兵器を保有している諸国にたいして、自国の核軍備を早急かつ徹底的に削減し、最終的には廃棄すると約束するよう説得せねばならない。ゼロが目標である。さらに、核燃料が悪しき主体の手中に落ちることのないようにするため、世界各地におけるすべての核燃料の生産、貯蔵,使用を何らかの方途で対象とする包括的かつ検証可能な,そして法的執行力のある国際体制が形成されなければならない。双方はそれぞれ難しい課題である。しかし、その双方とも実行されねばならない。

イギリスは、不確かな世界においては頼れる手段を手放さないという非常に大まかな根拠で自国核抑止力の近代化を正当化しているものの、すでに原則的にゼロの論理に署名・捺印している。しかし、フランス,中国,インドはどうなのか。ましてイスラエルやパキスタンはどうか。そして、勿論,ロシアはどうなのか。アメリカとロシアの両国をあわせると、世界の核兵器の95%を保有している。ロシア抜きでは、あまり先には進めない。最近、ロシアは広く西側について,狭くはアメリカについてあまり良く思っていない。不満の種としては、グルジアとウクライナのNATO加盟約束の問題があり、またポーランドとチェコ共和国における米国主導のミサイル防衛施設の設置の問題がある。これを新たな西側の陰謀でなく、人類全体のための共同プロジェクトとしてとらえるよう、ロシアを説得することは、欧州諸国とアメリカの高次元の政治的手腕を必要とするであろう。

歴史家にとって、ミサイル防衛の側面にはパラドクスがある。1986年レイキャビク首脳会談のさいのレーガン=ゴルバチョフ会話の解禁文書から明らかなように、核兵器全面廃棄をめぐる短時間花開いたコンセンサスを打ち壊したものは、レーガンの宇宙防衛構想(SDI)に対するソ連の徹底した反対、および、その構想をあくまで実行に移すという同様に徹底したレーガンの固い態度であった。22年をへたいま、このSDIの甥であるミサイル防衛は、早々に、レイキャビクの夢の再生にたいする外交上の障害物となるのかもしれない。

たしかに、万事が容易ではない。そのうえに、既存の核兵器国との交渉は第2の課題、すなわち世界全域におけるすべての核燃料の生産、貯蔵,使用を管理する効果的国際体制の創造の課題に比べれば、ケークウォークのように簡単であろう。オバマ移行チームの中の鼻っ柱の強いプラグマティストの連中がこの核問題についてあまりに野心的かつ困難であって,急を要しないとの理由をつけて、対外政策上の3ないし4の最優先課題のなかに入れないようにオバマを強く説得することは容易に想像できる。しかし、私はオバマがそうしたかれらの訴えを斥けること、そしてさらに、世界中のかれの支持者たちが立ち上がってオバマを支え、核兵器のない世界の実現を真に共通の努力とすることを希望してやまない。たしかに、これはパンドラの箱を閉ざす試みであり、これまで誰もそれを成し遂げた者はいない。しかし、何事にも始まりがあるのである。#