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【麻生内閣の「原子力空母は安全」論を斬る】
横須賀母港化は残虐な空爆の主役=空母の出撃拠点づくり

新原 昭治(国際問題研究者・非核の政府を求める会常任世話人)



■「致死能力を高めよ」
 原子力空母は、さまざまな危険をもたらします。その1つに航空母艦の軍事上の機能、役割から生じる本質的な危険性があります。
 軍艦に艦載機を積む空母は、20世紀の初頭に飛行機が発明されるやいなや、1910年代から使われ始めました。使い道は最初から2つありました。1つは、空母艦載機により敵の軍艦を攻撃する海戦の武器として、もう1つは、艦載機を使って敵の陸地を攻撃する使い方です。
 いまのアメリカの空母は、「ブラウン・ウォーター・ネイビー」と言われるように、沿岸近くの黄色く濁った海に空母を持って行き、内陸の奥深くまで目標を攻撃する使い方が中心になりました。とくに米海軍は、軍事技術の著しい進歩を利用して、いかにして「リーサリティ(致死能力)を高める」か──人殺しの能力を高めるかを、空母の中心目標にしています。

■「第2のゲルニカ」
 イラクへの戦争について見てみましょう。
 昨年初めからブッシュ政権は、米軍の一大増派作戦をおこないましたが、実は、地上部隊の増派の陰で、空からの戦争が非常に激しくやられています。アメリカの著名なジャーナリスト、シーモア・ハーシュは『ニューヨーカー』誌で、「イラクの空からの戦争が、同国での作戦で最も際だつ、それでいて余り報道されることのない戦争になっている」と指摘しました。
 アメリカの軍事専門家ウィリアム・リンドも昨年、イラクでの空からの戦争について、こう書きました。  
 「ワシントン・ポストの無料配布紙に目をやってびっくりした。1面記事に、米軍の空爆でイラクの鉄道駅が破壊されたとあるではないか。米軍は占領中の国の鉄道駅を爆撃しているのか。…次はイラクの発電所や精油所も爆撃するのか。イラク議会がアメリカの欲する法令を成立させないなら、そこに精密誘導弾を落とすとでも言うのか」。
 リンドも書いていましたが、これが生々しい現実なのです。イラクでの米軍の昨年の空爆は一昨年の6倍にも増えました。しかしアメリカの新聞はこれをほとんど取り上げていません。
 その空爆の1つの実例を紹介します。
 ことしの1月中旬、首都バグダッドの南十数キロの小さな農村アラブ・ジャブール地区に、米軍は数日間にわたって45キロトンもの爆弾を投下し、40戸の家屋も主要道路もメチャクチャに破壊し、多数の人々が破壊された建物の瓦礫の下に閉じこめられました。アメリカの進歩的な評論家トム・エンゲルハートがこれをきびしく追及しました。
 彼は、この空爆が、1937年スペインの町ゲルニカにナチス・ドイツの飛行機が落とした爆弾量に匹敵すると述べるとともに、「ゲルニカが猛爆されたときにはすぐに4人のジャーナリストがかけつけて、世界に警鐘をならした。今度の場合は、ジャブール地区にジャーナリストはかけつけなかった」と告発しました。
 こんな「空からの秘密戦争」が盛んにやられている、しかもその主力攻撃機の一つが、米空母艦載機であることに注目したいのです。

■攻撃の7割が空母から
 アフガニスタンはどうか。
 2001年10月の戦争開始から7年になりましたが、ここでの空からの戦争の圧倒的な部分は、空母艦載機がやったのです。米海軍作戦部長は、アフガニスタンで「全戦闘攻撃出撃回数の72%を米空母航空戦力が遂行した」と演説しています。アフガニスタンの戦況が厳しくなったいま、米空母からの空爆はさらに一段と強化されています。
 アフガニスタンには、NATO軍中心のISAF(国際治安支援部隊)が出ています。雑誌『世界』の昨年12月号に朝日新聞の岡野直さんが、「ISAF同行記」を寄せ、そのなかでこう言っています。
 「(ISAF参加の)カナダ軍の陸上部隊は敵を見つけた場合、イギリス、アメリカ、オランダ3ヵ国のいずれかに航空攻撃支援を要請する。3ヵ国は要請から6分以内に標的を爆撃する約束だ。戦車も歩兵も多くの場合、敵を探すのが役割で、攻撃機つまり空からの攻撃をする飛行機が柱になっている」。
 これがアフガン戦争の実態です。しかもそれが、主として空母の航空戦力によって担われているのです。アメリカが世界で行う戦争で、空母の役割がいかに絶大かが分かると思います。

■流血と恐怖と死の強制
 フリー・ジャーナリストの吉田敏浩さんが一昨年出版した『反空爆の思想』(NHKブックス)という本で、吉田さんは、ブッシュ大統領の「(空爆は)空爆される国の人々に自由をもたらす解放のために行われる」というアフガン空爆正当化論に対し、次のような本質的批判を加えています。
 「しかし、イラクで、アフガニスタンで、空爆や銃撃などによって殺され、傷つけられた人びとは自由を得たり、解放されたりしただろうか。事実は正反対である。生きる自由を一方的に奪われ、望みもしない死に追いやられた。爆弾で家を破壊され、子どもを殺された親たちは、『恐怖と無縁に生活』するどころか、恐怖の真っ只中に投げ込まれ、『子どもを育てられる自由』を奪われた」  「『空爆の思想』の本質は、空爆する側の諸々の利益のために、他者に流血と恐怖と死を強制し、人命を消耗品扱いして犠牲を強いることである。それによって自らの政治目的を達成しようとすることである。…空爆という国家テロと爆弾などによるテロは、流血と恐怖と死の強制といういわば地下茎によってつながっている」。

■空母の危険と隣り合わせ
 こうしてみると、アメリカが地球の裏側にあるユーラシア大陸の心臓部に攻め込むための決定的に重要な武器が空母であり、原子力空母ジョージ・ワシントンの横須賀母港化は、まさにその重大な一環であることを確認できます。原子力空母母港化の重大な危険は、そうした世界的規模での軍事的ねらいによって貫かれていることを、認識する必要があると思います。  そういう視点でみると、原子力空母の横須賀母港化は、横須賀市民、神奈川県民ばかりか関東地方、そして国民全体にとって、また世界の平和にとって、甚大な危険を抱え込むことにほかなりません。
 身近な実例を一つだけあげましょう。神奈川・厚木基地から東京北部を経由して埼玉、群馬県と広がる自衛隊軍事訓練空域、通称「ホテル・エアスペース」というのがありますが、そこが米海軍艦載機の自由な戦闘訓練空域になっています。最近とくに、群馬県前橋市を中心に米軍艦載機の訓練が激しく行われました。軍事目標を32階建ての県庁あたりに設定し、1月中旬には5日間に延べ133機が飛来しています。こうした訓練は昨年10月頃から激しくなっており、イラクのジャブール地区に対する「第二のゲルニカ」と言われるような残忍な爆撃が行われた時期と重なっています。
 私たちは、この残忍きわまる空爆、空からの戦争のために、横須賀を最大の海外出撃根拠地とすることを許してはなりません。米原子力空母を追い出し、母港化をやめさせるための世論を、日本全国に、大きく広げていかなければならないと思います。
 (本稿は、去る10月4日、神奈川・横須賀市内で開かれた日本平和委員会の学習会で行った講演の前半部分の要約です)