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「国際連合と核兵器なき世界における安全保障」
潘基文(国連事務総長)

 国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は10月24日、イースト・ウエスト研究所の主催で開かれたパネル・ディスカッション形式の集会で、「国際連合と核兵器なき世界における安全保障」と題する講演を行なった。
 国連総会開催中、しかも第1委員会で核兵器問題が主要テーマとして討論されているさなかであるだけに、この事務総長の演説は、核軍備撤廃を実現するため、いま何が求められているかに焦点をあてた熱っぽいものとなった。 「核軍備撤廃が進めば、世界は進む。それゆえにこそ、核軍備撤廃は国連においてかくも強い支持を受けている」──潘事務総長の演説最終部分でのこの言葉は聴く人びとに大きな感銘を与えたことであろう。
 集会には、アメリカ側から、「核兵器なき世界」4者共同論文であらためて世界的に注目を集めているキッシンジャー元国務長官およびカンペルマン元軍縮交渉担当官などが招かれて出席し、またロシアのキスリャク駐米大使も参加し、発言した。
 国連からは,潘事務総長のほか、国際原子力機関のエルバラダイ事務局長,軍縮問題担当のデュアルテ上級代表なども参加した。
 以下、潘事務総長の講演のうち、核兵器なき世界における安全保障に関する5項目の提案をほぼ全訳で紹介する。

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 ストックホルム国際平和研究所によると、世界の軍事支出は昨年、1兆3000億ドルを超えた。10年前,ブルッキングズ研究所は、将来の汚染除去費用をふくむアメリカ1国の核兵器のコスト全体を5兆8000億ドルと推定した。これは、間違いなく,ほかに多くの有益な用途があったはずの資金および技術の巨大な投資である。
 こうした費用および核兵器の本来的な危険性を考慮したうえで、最近、多くの見解が発表され、核軍備撤廃の大義に新たな生命が吹き込まれている。ハンス・ブリクス氏をはじめとする大量破壊兵器(WMD)委員会、新アジェンダ連合、そしてノルウェーの「7カ国イニシアティブ」が登場した。オーストラリアと日本は核軍備の不拡散と縮小撤廃に関する国際委員会をつい最近,立ち上げた。市民社会の諸集団および核兵器国もまた様ざまな提案を行ってきた。
 さらに,フーバー・プランがある。本日ここにその努力の担い手であった執筆者たちのうち、キッシンジャー博士とカンペルマン氏をお迎えしており、喜ばしいかぎりである。お2人の真摯なご努力とそれに注ぎこまれた遠大な学識にたいし、お礼を申し上げる。
 こうしたイニシアティブはより大きな支持に値する。世界が経済と環境の分野で危機に直面する中で、この地球の脆弱性および地球規模の諸課題にたいする地球規模の解決策の必要性がますます意識されつつある。この変わりつつある意識は、また、われわれにとって国際的な核軍備撤廃の課題を再活性化する助けともなりうる。
 私は、その精神にたって、ここで5項目の提案をしたい。
 第1項目:私はすべてのNPT加盟国、とりわけ核兵器国にたいして、核軍備撤廃へと導く効果的な措置にかんする交渉を行なうとの条約上の義務を履行するよう促す。これらのNPT諸国は、別個の、相互補強的な、いくつかの法律文書からなる枠組みにかんする合意にもとづき、この目標を追求することができよう。あるいは、かれらは、長らく国際連合において提案されてきたように,強力な検証システムに裏打ちされた核兵器条約を交渉により取りまとめることを検討することもできよう。コスタリカとマレーシアの要請にもとづき、私は、すべての国連加盟国にたいして、よい出発点となる核兵器条約草案を配布済みである。
 核兵器国は、世界で唯一の多国間軍縮機関としてのジュネーブ「軍縮会議」において、他の諸国とともにこの問題に積極的に取り組むべきであろう。世界は、また、米露両国がそれぞれの核軍備の大幅かつ検証可能な削減をめざす2国間交渉を再開するならば,それを歓迎するであろう。諸国政府は,また、検証措置の研究開発にむけてより多く投資すべきであろう。イギリスが打ち出した検証にかんする核兵器国会議を主宰するとの提案は正しい方向での具体的一歩である。
 第2項目:安全保障理事会常任理事国は、たとえば軍事参謀委員会において、核軍備縮小撤廃プロセスにおける安全保障上の諸問題にかんして討論を始めるべきであろう.これら常任理事国は、非核兵器国にたいして、なんらの曖昧さをのこさずに、かれらが核兵器の使用または使用の威嚇の対象とならないであろうと確約することもできよう。安全保障理事会は、また、核軍備撤廃にかんするサミットを開催することもできよう。NPT外の諸国は自らの核兵器能力を凍結させるとともに、かれら自身の核軍備撤廃約束をすることもできよう。
 第3項目:このイニシアティブは「法の支配」に関係する。核兵器実験と核分裂性物質生産の一国的一時停止(モラトリアム)はその限りでの効力のみを有する。われわれは、CTBTを発効させるための新たな努力,さらにジュネーブ「軍縮会議」が核分裂性物質条約にかんする交渉をただちに、なんらの前提条件なしに開始するための新たな努力を必要とする。私は中央アジアおよびアフリカの非核兵器地帯条約の発効を支持する。私は核兵器国がこれらの非核兵器地帯条約の議定書をすべて批准するよう慫慂する。さらに、私は,すべてのNPT加盟国にたいして、IAEAとの保障措置協定を締結すること,および追加議定書の下でより強化された保障措置を自発的に採用することを促す。われわれは、核燃料サイクルがエネルギーまたは不拡散にかかわる問題以上のものであること,その命運が核軍備撤廃の展望をも左右することを忘れてはならない。
 第4項目:4つ目の提案は説明責任および透明性である。核兵器国は、しばしば、以上に述べてきた諸目標を追求するため何をなしつつあるかの説明を流しているものの、それらの説明はほとんど国際社会に届いていない。私は,核兵器国にたいして、こうした説明資料を国連事務局に送付し,その普及範囲を拡大するよう勧奨する。さらに、核兵器国はそれぞれの核軍備の規模、核分裂性物質のストック、核軍縮の具体的な到達点について公表する情報の量を拡大することもできよう。核兵器の総数についての信頼すべき推定値の欠如は透明性向上の必要の証である。
 第5項目:最後は多くのその他の補完的措置の必要である。核兵器以外のWMDの廃棄、WMDテロ防止の新たな努力、通常兵器の生産・貿易の制限、ミサイルや宇宙兵器などの新兵器の禁止、などがそれに含まれる。さらに、国連総会は、ブリクス委員会の勧告にある「大量破壊兵器の縮小撤廃、不拡散、およびテロリストによる使用に関する世界サミット」を取り上げることもできよう。
 WMDテロの問題は解決できないと考えるむきもある。しかし、もし核軍備撤廃の分野において本格的な,検証された進歩があるならば、この脅威を除去する能力は飛躍的に高まるであろう。もしある種の兵器の保有そのものに本格的な地球規模のタブーが存在するならば、各国政府に対して関連する規制を強化するよう勧めることははるかに容易になるであろう。われわれが世界のもっとも危険な兵器とそのコンポネントを漸進的に廃棄するならば、テロ分子のMD攻撃をますます難しくするであろう。さらに、われわれがテロの脅威を深刻にする社会的、経済的、文化的、および政治的状況に対処するならば、情勢はさらに改善されるであろう。
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 世界平和へのカギはわれわれの集団的な手に握られてきたのであって、それは国連憲章の中に見いだされるし,またわれわれ自身にある政治意思のための限りない能力の中に見いだされる。私が今日,お示しした提案はたんに核軍備撤廃の新たな出発点を探求するだけでなく、国際の平和と安全の体制を強化するためでもある。
 われわれは、本日お集りの多くの方々がこの核軍備撤廃の大義のために成し遂げた偉大な貢献に感謝しなければならない。核軍備撤廃が進めば,世界は進む。それゆえにこそ、核軍備撤廃は国連においてかくも強い支持を受けている.そして、それゆえにこそ、みなさんは前途にひかえるきわめて重要な活動において、私の全面的な支持を期待できるのである。ご清聴に感謝する。#