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米国の“核の傘”と日本の軍事的関係はいま、どうなっているか
新原 昭治(非核の政府を求める会常任世話人・国際問題研究者)

 日本は被爆国でありながらなぜ米核攻撃戦力を称賛するに至ったのか、その背景にいかなる政治的・軍事的変化が進行しているのか──。非核の政府を求める会核問題調査専門委員会の8月例会で、国際問題研究者の新原昭治さんが「米国の“核の傘”と日本の軍事的関係」について報告。米科学者連盟の核兵器研究者ハンス・クリステンセン氏との往復メールによる情報交換をふまえて、(1)米「核抑止」と在日米軍基地の関係の現状、(2)変化しつつある米戦術核兵器の海外配備態勢、(3)ヒューストン号放射能漏れ問題と原潜寄港体制の問題点の3点にわたり解明しました。このうち報告(1)の要旨を次に紹介します。

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 非核の政府を求める会全国総会は、「『核の傘』依存路線からの脱却を求める国民世論を広げることは急務」と強調しました。イラクやアフガニスタンの戦争拠点である日本は、同時にアメリカの核戦略で重大な役割を果たしており、核兵器廃絶の国民的願いを裏切っています。それなのに、「核の傘」容認論が日本政府や与党のほか、一部論者からも唱えられています。“日本はアメリカの拡大抑止の受益者だ。北朝鮮との関係でも核抑止力は必要”(藤原帰一氏、『論座』昨年8月号)等もその一例です(安斉育郎、浅井基文両氏の同誌昨年11月号の反論参照)。こういう時に、日本の米軍基地と米核戦略の関係が具体的にどうなっているか、それは核兵器のない世界の実現をのぞむ国民にとって何を意味するかを、きびしく批判的にとらえることが大事です。

■核使用戦略を肯定する背景のもとで
 昨年5月の日米安保協議委員会(2+2)の共同発表は、アメリカの「核攻撃戦力」を含む「拡大抑止」が、日本と地域の安全のためと公然と美化しました。唯一の被爆国政府が、アメリカの核攻撃戦力を正面切って称賛した戦後初めての重大な日米共同文書です。
 それ以後、両政府関係者の核兵器使用容認の重大発言があいついでいます。2+2に出席した久間防衛相(当時)の「原爆投下はしょうがない」の暴言も、この流れの中で見てこそ、真の政治的戦略的意図をつかむことができます。
 昨年夏、三沢基地の航空自衛隊F2戦闘機は米本国キャノン基地のF16戦闘機とともに、グアム近くの米軍射爆場で、実弾による日米合同爆撃演習を展開しました。それだけでも「北東アジア中の神経を苛立たせた」軍事行動(ニューヨーク・タイムズ)でしたが、このとき米本国から来たF16機は、核攻撃任務を持つ特別の部隊だったのです。
 当時、ライト在日米軍司令官は、基地新聞へのメッセージで、「米空軍の作戦能力には、核ミサイルや核爆弾搭載の爆撃機の使用も含まれている。地球上のどの国も及ばない破壊力を実行に移すことができる」と誇示しました。要するに、核攻撃態勢の示威であり、核先制攻撃の実験を意味する軍事行動だったのです。
 今年8月1日のシーファー駐日米大使の「原爆投下は戦争被害者を最小限に押さえるため必要だった」との原爆正当化発言は、日本での米軍再編強化の先頭に立つ米政府出先機関の責任者による、過去と将来の両面に向けての核兵器による大量殺戮肯定論として、重大な意味をもっています。その根底には米核戦略への日本の加担をそそのかし、核兵器使用を当然視して核兵器自体を容認する横柄な発想が横たわっています。

■【範疇1】 直接、在日米軍基地を発進拠点にする可能性
 アメリカの核戦略と日本の米軍基地には、肌寒くなるような歴史があります。今年8月は、1958年の第2次台湾海峡事件の満50年でした。当時、日本は米軍の核使用態勢に最も深く露骨に組み込まれました。あまり知られていないだけで、実際には危うく核兵器使用寸前まで行きました。
 アメリカの核兵器専門家ハンス・クリステンセン(全米科学者連盟)が入手した米解禁文書は、このとき沖縄に核爆発力10メガトンもの恐るべき水爆MK36が持ち込まれたことを示しています。その他の戦術核兵器も、嘉手納基地などで使用態勢をとったのです。
 あの事件当時とくらべると、アメリカの核戦略とその態勢にはかなり変化が目立ちます。戦術核兵器の多くが海外から引き揚げました。しかし通常戦力とともに、核兵器を、必要なら先制攻撃のために使う態勢をとりつづけている点では、本質的変化はありません。

 では、今の日本の米軍基地とアメリカの核戦力の関係は、具体的にどうなっているのでしょうか。最近、クリステンセンとEメールで情報交換をして、確認し合った現状を報告します。
 在日基地と核戦力との関係は直接的関係と間接的関係の2つに分類できます。
 第1の、米核戦力と在日米軍基地の「直接的」関係とは、わが国を発進拠点にする可能性を持つ米軍の核攻撃戦力のことです。現在の日本には、ヨーロッパに見られるような陸上基地での核兵器貯蔵はみられません。空母など水上艦船や海軍艦載機等への核積載も、10年以上前中止されました。ですから、原潜と米空軍機による一時的核持ち込みが、ありうる事態です。
〈攻撃型原子力潜水艦〉
 その1つが、横須賀や佐世保、沖縄(ホワイトビーチ)に寄港をくり返す攻撃型原子力潜水艦が、秘密裏に核を持ち込む可能性です。アジア水域の米原潜の一部(20数隻中、約10隻)は、W80-0核弾頭付き巡航ミサイル・トマホークを、軍事的必要に応じて積載する態勢をとっています。核弾頭W80-0は米国東西海岸の2核兵器庫に約320発貯蔵されており、うち100発に常時、トリチウムカプセルが装着されて、即時使用可能な状態です。残りの200発余はトリチウムを外し、弾薬庫に予備貯蔵中と見られます。
 米海軍は五年前、攻撃型原潜用の核巡航ミサイルの廃棄を提案しましたが、国家安全保障会議(NSC)に却下されました。J・D・クラウチ(現国家安全保障担当大統領主席補佐官)は当時、軍事専門紙に、“(原潜の)核巡航ミサイルは戦域内で長期に秘匿でき、〔ヨーロッパ〕各国に貯蔵中の核爆弾のような制約を受けない”利点があると、その理由を語りました。
 日本に寄港をくりかえす原潜は、放射能漏洩の危険とともに、秘かな核積載の闇に包まれているのです。
〈米本国からの核爆弾積載攻撃機の飛来〉
 日本の米軍基地が直接巻き込まれる危険がある第二の核攻撃戦力は、核爆弾を積んで米本国から飛来する戦闘機等の米空軍機です。
 クリステンセンは、アジアの特定国への核攻撃計画が仮に現実のものとなった場合、米国の米空軍戦闘機が核爆弾を積み日本の米基地に飛来する可能性が?ありうる?と述べています。
 ノースカロライナ州シーモア・ジョンソン空軍基地の第4戦闘航空団F15E機部隊には、海外に核攻撃任務を持って前進配備する計画があります。クリステンセンによれば、その場合、グアム、沖縄、韓国の基地が利用されかねません。
〈長距離核兵器体系〉
 一方、戦術戦闘機より可能性が高いのは、「長距離核兵器体系」の利用だとクリステンセンは見ています。長距離核兵器体系とは戦略核兵器のことで、核ミサイル積載の戦略原子力潜水艦、大陸間弾道ミサイル、B-52やB-2など戦略爆撃機がそれです。戦略原潜は西太平洋・アジア水域を最重点配備地域にしており、B-52とB-2両爆撃機は、グアムの米基地にローテーション配備されています。
■【範疇2】 間接的に在日米軍基地が支援関係を持つ核攻撃任務
 2つめの範疇は、核攻撃態勢への在日米軍基地の「間接」的支援です。
〈戦略爆撃機への支援〉
 たとえば、核攻撃任務をもつB-52やB-2戦略爆撃機への支援を、在日基地がおこなっているのは、公然の秘密です。戦略爆撃機への指揮統制や空中給油機による支援がそれです。嘉手納基地の給油機がなければ戦略爆撃機は動けません。
〈戦略原潜への支援〉
  戦略核ミサイルを常時積んでいる戦略原潜への日本の基地からの支援も、軍事的常識に属します。クリステンセンは、戦略原潜への発射指令をリレーする核指揮統制機が、沖縄の嘉手納基地に頻繁に飛来してきた事実を指摘しました。
 戦略原潜は、1隻で65メガトンの威力の核ミサイルを常時積載しています。広島型原爆の4千数百発分に相当します。核兵器使用に強く反対するわが国をはじめアジア諸国の国民にとって、深刻な現実的脅威と言わなければなりません。
■アメリカの先制核攻撃戦略、核優位政策の追求変わらず
 このように、日本の米軍基地を含め米軍の世界的軍事態勢の背骨に、核先制攻撃戦略を保障する核態勢が置かれ続けています。
 同時に、核態勢のあり方は、ソ連が存在した時期とはかなり変わりました。
 1950年代以来、世界的に米軍基地国に核兵器が貯蔵されました。わが国へは核兵器積載空母が寄港をくりかえしたものの、原水爆禁止の運動と世論のせいで、全面占領中の沖縄以外では陸上基地での核兵器常時貯蔵はおこなえませんでした。その後、90年代の戦術核兵器大幅撤去で、空母は核兵器を全部おろしました。世論への考慮のほか、新戦略状況下での軍事的合理主義を追求する核態勢再編の結果でした。しかし、核先制攻撃の戦略と態勢は、本質的にそのままです。 世界で核優位を追求しつつ、軍事的覇権をふるうやり方は変わっていません。

 同時に、アメリカいいなり政治がきわだつ日本でありながら、日本国民の反核平和の世論と運動が、アメリカの核戦略遂行を大きく阻む重要な要因として作用してきた点にも、注目したいと思います。たとえば1950年代以来のアメリカの海外核持ち込みで、主な米軍基地国の中で陸上基地への核兵器貯蔵をなしえなかったのは、日本だけでした。沖縄県民の長い運動がかちとった72年の施政権返還後は、米軍は常時核貯蔵を続けられませんでした。  57年の米大統領への基地問題の極秘報告「ナッシュ・レポート」は、日本でだけ核兵器貯蔵がやれないとこぼしました。西欧のNATO諸国との目立つ違いです。日本国民の核持ち込み反対、原水爆禁止の運動と世論の絶大な役割を示した一つの典型例なのです。