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 ●国連・世界の動き
 
米国とインドの核合意をどうみるか(下)
 ──迷路からの脱出 核兵器そのものをなくすという原点
三浦一夫(ジャーナリスト・非核の政府を求める会核問題調査専門委員)

 インド政府と米国政府が鳴り物入りですすめていた、核合意交渉はここに来て重大な難局に直面しています。ブッシュ政権の強引な核政策と世界軍事戦略の狙いとインドのマン・モハン・シン政見の思惑から来る矛盾が急速に表面化している結果ですが、そこには、今日の世界の核問題を考えるうえでの根本的課題が浮かび上がってきています。

難局その1。
 インド政府と国際原子力機関(IAEA)との交渉は依然として難航状態にあります。具体的には保障措置をめぐる問題ですが、核不拡散条約(NPT)に参加していない国に、しかも最初から「軍事用は別枠」という特別扱いをなぜ認めるのか、といった声はますます高まっています。特徴的なのは、そのような取り決めを国際的に認知させようとするブッシュ政権の身勝手さへの批判が広がっていることです。IAEAとの交渉が不調なら、原子力供給グループ(NSG)の承諾は無理です。「合意」の破綻は米国の深い傷になりかねません。
難局その2。
 インドの政局は今、重大な困難に直面しています。インド国内で「合意」に反対してきたのは、政府を閣外から支えるインド共産党(マルクス主義)(CPIM)を軸にする左翼戦線でした、ところが、そうした批判や慎重論は現在、有識者、一般世論から政府・与党内部にまで広がりつつあります。
 CPIMなどは「合意」は米国への屈服、外交的従属と批判し、政府が強行すれば、「閣外支持の引き下げも」といい、この問題での協議を求めてきました。その協議が、3月17日に実施されることになりましたが、政府が強硬策をとり、左翼戦線が支持撤回を決定すれば、政局の大混乱は必至です。
 そんな中、有力閣僚からも「左翼各党の理解を得られず、議会で多数の支持を得られないという状況下では、道理ある態度をとるべきだ」(パワル農業相)との声があがっています。ムカジー外相もいいます。「少数与党政府が重要な国際協定にサインなどすべきではない。政府が崩壊して、協定などありえない」
 今年になって、米国からはゲイツ国防長官など政府要人が相次いで訪印し、「合意」促進で圧力をかけています。その中で明らかになっているのは、米印軍事協力の拡大と兵器輸出、外交戦略でインド抱きこむというブッシュ政権の目論見が「合意」とセットになっていることで、反発を広げています。
 「合意」交渉の難航が示すのは、NPTをめぐる今日の世界の核情勢のもっとも重要な問題点にほかなりません。新たな核兵器保有国を増やさないという目標を掲げながら、一部大国の核兵器を認め、さらに、そのもとで米国などは核軍拡をすすめる、自国の戦略のもとで新たな核保有国の出現も容認するというNPTの危険な現実が浮上しつつあるのです。
 かつて非同盟運動の先頭に立っていたインド政府は、このNPTの矛盾を指摘しつつ、それなりに核兵器の廃絶を国際的任務とすることを提起してきました。しかし、そのインドが、90年代後半から、「独自の核」戦略を政策として掲げるにいたります。米印交渉は今危険な「迷路」に入り込んでいるともいえますが、その裏にあるのがこの戦略であり、その戦略につけこみ、インドを自分の世界戦略、核戦略の枠組みの中に取り込もうとしているのがブッシュ政権です。
 「迷路」からの脱出口は、核兵器そのものをなくし、抑止力論をやめる、という原点を明確にする以外にありません。それは、原子力平和利用という問題を考える上での原点でもあり、イランや北朝鮮の核問題を考えるうえでの原点でもあるはずです。