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 ●国連・世界の動き
 
米国とインドの核合意をどうみるか(上)
 ──新たな核軍拡の危険
三浦一夫(ジャーナリスト・非核の政府を求める会核問題調査専門委員)

 国際政治及び経済の場で、中国とインドの影響力が急速に拡大する中、そのインドと米国の間の核問題での協力での合意の行方が問われています。エネルギー問題に悩むインドへの原子力平和利用での協力というのが基本ですが、その陰には、核兵器廃絶という人類の課題にからむきわめて重大な問題点が浮び上がっています。
 米印原子力平和利用協定は、2007年7月に公表されましたが、基礎になっているのは05年の米印原子力協定と翌06年の原子力の民生・軍事分離についての両国合意などです。また、ブッシュ米政権が国内の合意をとりつけるために通した国内法(ヘンリー・ハイド法)は、インドの外交政策に干渉する内容を含んでいます。
 98年のインドの2回目の核実験を理由に対インド経済制裁を始めた米国は、9・11同時テロ事件を機にこの政策を転換し、インド接近政策に踏み切りました。対テロ戦争を口実に地球規模の覇権体制をたて直すという世界戦略に、インドをとりこむのが狙いです。そこには、同じく国際的影響力を広げている中国やロシアをけん制する意図とともに、急成長するインドにビジネス・チャンスを求める米国独占企業の思惑も顔をのぞかせています。
 合意の基本的な内容は、@現在インドが運転・建設中の22基の原子炉のうち14基を民生用として、国際原子力機関(IAEA)の保障措置下に置き査察も受ける、A高速増殖炉2基を含む残りの8基は軍事用として措置適用外に置く、B保障措置下の原子炉について米国が核技術、燃料を供給し、Cさらに45ヵ国で構成する国際機関、原子力供給国グループ(NSG)もインドに協力するよう道を開く、というものです。
 現在、合意に関連してインド政府とIAEAの交渉がおこなわれていますが、米印両国の内外で厳しい批判、疑問の声があっています。具体的にいわれているこの一つは、民生用と軍事用に分離し、軍事用については完全にインドの裁量と判断に任せ、IAEAの査察も免れるとしていることです。現実に、すでに核兵器製造技術をもっているインドの新たな核兵器開発・製造を不問に付すことにもなる、言い換えれば、米国として、核不拡散条約(NPT)に不参加のインドを新たな核保有国として事実上認知することになるからです。民生用への協力として供給された核燃料が、軍事用に転用されてもチェックできないとの指摘もあります。
 インド政府とIAEAの交渉では、これらの点が論議されていますが、この合意が具体化されるには、IAEAだけでなく、NSGの同意と協力も必要です。NSGについては、NPT未加盟国を含めて45ヵ国以外の国に燃料・技術で協力をおこなうときには、その国がそれを軍事目的に利用しないとの確証を求めるなど4条件での合意(紳士協定)があります。NSGメンバー国の間で、米印合意はこの国際合意に反するとの批判の声は小さくありません。
 メンバー国の一人、フランスは、サルコジ首相の最近のインド訪問で原子力問題での協力で合意し、米印合意支持を表明したともいわれていますが、逆に、昨年秋の選挙で誕生したオーストラリアの労働党政府は、親米保守のハワード前政権がおこなった昨年8月の米印合意支持の表明を破棄するといわれています。同じ重要メンバー国のカナダも懸念を表明しています。当の米国でも、現在進行中の大統領選で民主党の政権が誕生した場合には米国自身がこの合意を見直す可能性もいわれており、全体の状況は不透明のままです。日本政府の対応も問われています。
 米印合意は原子力の平和利用という側面でなお複雑な情況にありますが、その根本にあるのは、新たな核軍拡競争の危険という問題です。