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 ●国連・世界の動き
 
「使える核兵器」の復権―核態勢見直しの問題点
新原昭治(国際問題研究者・非核の会核問題調査専門委員)

 ブッシュ政権の核態勢見直し批判では、長らく米政府内で核兵器政策に関わってきたモートン・ハルペリン氏の見解に注目させられた。ハルペリン氏は、「核兵器に実用性がある」との考えが核態勢見直しの根底にあると見る。「核兵器に実用性を見出したいという欲望」がこの作業の推進要因になったとも批判する。「このために脅威(複数)が発案された。その逆ではない」と述べているから、核兵器使用政策や核脅迫政策を展開したいがためにさまざまの「脅威」が創作されたと見ているわけである(1月22日・ワシントンでの軍備管理協会主催パネルでの発言)。
 事情通ならではの核心を衝く批判だ。
 ブッシュ政権の核態勢見直しは、「使える核兵器」の復権に中心的ねらいがあったことがさまざまの角度から浮き彫りにされつつある。
 核問題で客観的な分析を続けている米民間団体の天然資源保護協会(NRDC)が2月半ば、核態勢見直しの議会向け秘密報告の内部情報にもとづき、『でっちあげの核抑制―米核戦力強化のためのブッシュ政権の秘密計画』と題する報告を発表した。注目点は、「柔軟性と対応能力を強化するため、核戦争の計画化作業のすすめ方に重要な手直しを加えた」ので、「新たな核攻撃計画の作成や危機時におけるその迅速な承認が可能になった」と指摘している点だ。ぞんざいな発表と全容の秘密扱いのせいでマスコミ等の注意を惹いていないが、「精力的に論議されるべき」だと、NRDCは注意を促すとともに、「米国防戦略の中でこれほど核兵器を重視したのはレーガン政権以来なかった」ことと警告している。

一国覇権主義に沿う新核戦略
 ブッシュ大統領とそのチームが、大統領選挙当時から準備してきた新核戦略確立の流れをふり返ると、「使える核兵器」復権への系譜が見える。
 NPT再検討会議最終文書で米政府が「自国の核兵器の完全廃絶」に賛成して3日後の一昨年5月23日、ブッシュ氏は核兵器演説をしたが、それを機に彼に近い超保守派シンクタンクと国立核兵器研究所首脳があいついで提言を出した。核兵器廃絶の国際世論への敵対心を隠さず、米国の「国益」追求のための核戦力の再編強化や、「ならず者国家」や地域大国等の軍事的制圧のための核使用戦略確立を主張する点で共通していた。どれもが、地下に埋設された施設破壊等の目的のための新型核兵器開発の必要も説いた。
 いま、ブッシュ政権は地下核実験再開への動きをすすめようとしているし、一連の核軍縮条約や従来の米政府の関連した原則的声明をあいついで放棄しているが、これらすべてが、一連の提言の方向と完全に合致している。
 提言の中で、とりわけ注目されてきたのが、全米公共政策研究所(NIPP)の「米核戦力と軍備管理の原理と要件」である。ニューヨークタイムズ等が核態勢見直しのネタ本と指摘した。核兵器が果たすべき役割を生々しく列挙していて、「地域大国」とか「勃興する世界的規模の大国」の「大量破壊兵器や大規模通常兵器」による軍事行動の「抑止」や、米軍が戦闘で「壊滅的敗退」をしかけたさいの反撃や、「他の手段では達成できない標的破壊」の実行を、核兵器使用のありうる実例として描いている。
 NIPP報告書の執筆には、ハドリー現大統領副補佐官ら後にブッシュ大統領側近となった4人が加わっていた。1月9日に核態勢見直しの記者会見をしたクラウチ国防次官補も、NIPP報告書執筆者の一人のバンクリーブ南西ミズーリ州立大教授と親しい人物である。
 昨年2月半ば、核態勢見直し作業に関する大統領指令が出ると、この報告づくりを指揮したケース・ペインNIPP所長は、国防総省から核態勢見直し作業の民間専門家グループ議長に任命され、作業で重要な役割を果たした。ペイン所長の持論は、核兵器は使えないとのタブーから抜け出すべきだというものである。

核戦力と通常戦力の「統合」とは
 核態勢見直しで、「非核と核の攻撃戦力の統合」が強調されている。ハイテク通常兵器と核兵器の統合運用をねらうもので、これで「核兵器依存を減らす」とラムズフェルド国防長官の核態勢見直しの「序文」は繰り返し強調するが、こんなひどいごまかしはない。それは要するに、必要とされれば通常戦力と核戦力の統合運用により、核使用への移行もたやすくやれるようにするということだ。核使用の「敷居」が低くならざるをえない。それで「核依存を減らす」などというのは、核兵器使用を当然視する側の人間だけに通用する大量殺戮合理化の論理である。ハルペリン氏も「核兵器を使用する軍事的な用途があるとか、ありうるという想定に立って、初めて考え得ること」で「異常」だと指摘している。
 2月6日のNHK総合テレビ「あすを読む」で秋元千明NHK解説委員は、アフガニスタンで米軍が使った通常型地表貫通爆弾の効果がはっきりしないため、米軍が「最新型の地表貫通型の核爆弾B61の使用を検討したといわれている」と指摘した。
 これが事実なら、核態勢見直しの結論はすでに実行段階に入っていることになる。