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 ●日本政府の動向
 
「拡大抑止」とは何か
 ──米核戦略と一体化する日米同盟強化
新原 昭治(国際問題研究者、常任世話人)

「拡大抑止」を日本と結びつけた最初の公式文書
 日本を戦争する国家に変えつつある日米同盟再編は、米核戦略との一体化を急速に深めつつ強行されています。このことをはっきりと示したのが、5月1日の「2+2」(日米安保協議委員会)の共同発表文で、日米両政府の共同文書で「拡大抑止」(エクステンディッド・ディターレンス)を確認したことでした。
 発表文は、「米国の拡大抑止は、日本の防衛及び地域の安全保障を支える」「米国は、あらゆる種類の米国の軍事力(核及び非核の双方の打撃力及び防衛能力を含む)が、拡大抑止の中核を形成し、日本の防衛に対する米国のコミットメントを裏付けることを再確認した」と述べています。
 「核」の「打撃力」、つまり核攻撃力が、「拡大抑止」のカナメをなすと述べられています。日米公式文書が米国の核攻撃戦力を公然と日米同盟のためとして確認したのは、これまでの日米軍事同盟の歴史で初めてです。一九七八年と一九九七年の新旧の日米共同作戦に関するガイドラインには「米国は核抑止力を保持する」との表現はありますが、核攻撃力をカナメとした「拡大抑止」を日本と結びつけたのは、これが最初です。


「『抑止』と呼ぶのはやめよう」の提言も
 なぜいま、米国の核攻撃力が日米同盟のカナメと表明されたのでしょうか。  これは、圧倒的な核戦力と通常戦力で世界を抑え込もうとするブッシュ政権の先制攻撃戦略が、日米同盟の強化に深い影を落として、対米従属下の日本の急速な軍事化を促す基盤とされていることを示しています。
 「拡大抑止」とは、米ソ核対決時代に生まれた米国の核戦略の概念です。当時、米国がソ連に対し核攻撃の脅しをかけることを「中核(コア)抑止」とか「消極抑止」と言いました。そしてこれを延長して、同盟国のためと称しつつ、ソ連に核攻撃の脅しをかけることを「拡大抑止」または「積極抑止」と称したのです。
 この場合、そもそも「抑止」(ディターレンス)という概念が、あたかも「防衛」を意味するかのように誤解させるあいまいさを伴っており、それに加えて日本語の不適切な訳語がこれに輪をかけている事実に注目する必要があります。最近、全米核政策法律家委員会など米国の反核団体がまとめた報告『核の無秩序か、協力にもとづく安全保障か』でも、同法律家委員会のピーター・ワイス会長は、「核兵器を使うことをくわだてる政策をさして『抑止』と呼ぶのはやめよう」と提言しています。


“相手の殲滅”が目的
 ブッシュ戦略における「拡大抑止」は、これまでの米国の戦略にも見られなかったほどの、重大な危険をはらんでいます。それは、二〇〇二年の核態勢見直しによって確立されたブッシュ新核戦略の中で、「拡大抑止」が圧倒的な核・通常両戦力の攻撃力による相手の殲滅をその目標として位置づけたことにもとづいています。この「拡大抑止」が、相手の攻撃力の「無力化」を目標とした「ミサイル防衛」と一体となって、いまや日米同盟の中核に位置づけられたのです。
 これは、日本をアメリカの危険な核・通常両戦力の先制攻撃戦略にもろに巻き込むもので、いかなる国の核使用計画をも拒むという圧倒的な日本国民の原水爆禁止の意思をふみにじる暴挙です。

核兵器使用禁止・廃絶の世論を大きく
 マンハッタン計画参加の経験から核兵器廃絶のために真剣に努力されたノーベル平和賞受賞者の故ロートブラット博士が、「拡大抑止」をきびしく批判した発言が残っています。ロートブラット博士は、「『拡大抑止』政策の追求は、核兵器をいつまでも保有することを含意している。米国が現実にとっているこの政策は、明らかに核兵器の先制使用を意図している」ときびしく批判して、「人類に対する犯罪である核兵器の使用をどのようにして正当化しうるのか」と問いかけています(二〇〇一年三月)。
 日米同盟を際限なく拡大強化する一環として、北朝鮮の核兵器開発を最大の口実に、日本をアメリカの核・通常両戦力の先制攻撃態勢にがっちりと組み込んだ「拡大抑止」の宣言に対置して、私たちは核兵器使用の禁止と核兵器廃絶の実現をすみやかにかちとらなければなりません。そのためにも、日本を核兵器使用戦略の拠点として利用することに強く反対し、非核の日本を実現する国民的な意思を内外に鮮明に示す世論を大きくひろげる必要があります。