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 ●国連・世界の動き
 
核兵器なき世界にむけて、ドイツの見解
「非核の政府を求める会ニュース」09.2月号


 この論評は、末尾の一文が示すように、キッシンジャーやシュルツ氏ら米政界長老4氏が2007年と2008年の1月に発表した核兵器なき世界の実現を訴える論評にたいするドイツからの回答である。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙2009年1月9日号に発表された。
 筆者4人はいずれも旧ドイツ連邦共和国(西独)の高官であり、そのうち2人は社会民主党、1人はキリスト教民主同盟、1人は自由民主党の所属である。アメリカのキッシンジャーら4氏共同論評と同様、ドイツ政界長老の4氏による超党派の見解表明となっている。
 ヘルムート・シュミット(社会民主党所属)は1974〜82年首相、リヒアルト・フォン・ワイツゼッカー(キリスト教民主同盟)は1984〜94年大統領、エゴン・バール(社会民主党)は東方政策の立役者で同党内閣閣僚、ハンスディートリッヒ・ゲンシャー(自由民主党)は1974〜92年外相を務めた。
 論評は、アメリカ版4者共同論評の提唱した核兵器なき世界の実現にむけての諸措置に賛同したうえで、なおドイツ再統一などの経験を踏まえながら、3項目の追加的な提言を行なった。以下はその全訳である。
  原題:Toward a nuclear-free world: a German view。

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 ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、ウィリアム・ペリーおよびサム・ナンの4氏は、2007年、核兵器のない世界の実現を求める訴えを発表した。
 かれらはアメリカの共和党および民主党の政権のもとで国務長官、国防長官、および上院軍事委員会委員長を務めた尊敬すべき人物であり、したがって増大する核の脅威に関するかれらの懸念は特別の重さをもっていた。
 かれらは、いずれもリアリストであるだけに、すべての核兵器の廃止が段階的にのみ実現されうることを熟知しており、したがって、そのビジョンの実現を目的とする緊急かつ実際的な諸措置を提案したのであった。
 この訴えはアメリカにおいて広く賛同され、強く支持された。しかし、われわれの知る限り、欧州諸国の政府からそれを支持する決定はまったく行なわれなかった。
 今回のわれわれの反応は近く就任するオバマ政権にたいするドイツの期待を考慮に入れている。  21世紀のキーワードは協力である。いかなる地球規模の問題も、それが環境と気象の保全であるにせよ、増大する世界人口のエネルギー需要の充足であるにせよ、あるいは金融危機への対応であるにせよ、対決ないし軍事力行使によっては解決されえない。アメリカは特別かつ必須の責任を負っている。
 このことは、核兵器を保有する国ぐに、およびかかる兵器??したがってまた破滅的規模のテロの原材料??を生産する能力を入手する国ぐにの数が増加しつつあるときだけに、その真実性を増している。同時に、既存の核兵器国は新たな核兵器を開発しつつある。
 われわれは、なんらの留保をつけることなく、キッシンジャー、シュルツ、ぺリー、そしてナン4氏の核兵器政策の転換??しかもかれらの国においてのみでない転換??の呼びかけを支持する。それは、とりわけ、次の諸提案について当てはまる。
 1.ロナルド・レーガンとミハイル・ゴルバチョフによってレイキャビクで開発された核兵器の脅威のない世界のビジョンは再現されねばならない。
 2.核兵器の数量の思い切った削減を目的とする交渉は、まず、最多数の核弾頭を保有する国であるアメリカとロシアによって開始され、ついでかかる兵器を保有する他の諸国を引き入れねばならない。
 3.核不拡散条約(NPT)は大幅に強化されねばならない。
 4.アメリカは包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准すべきである。
 5.すべての短距離核兵器は破棄されねばならない。
 ドイツの観点からは、以下の項目が追加されねばならない。
 1.戦略兵器削減条約(START)が今年、失効する。同条約の延長は米露両国にとって最も急を要する検討課題である。
 2.核兵器国がそれぞれ自国の核軍備を削減するとしたNPTの下での約束を最終的に果たすことは2010年NPT再検討会議の信頼性にとってきわめて重要となる。
 3.弾道弾迎撃ミサイル制限(ABM)条約は復活されねばならない。宇宙空間は平和目的のためのみに利用することを許される。
 安全保障上の共通の利益をめぐる協力のもと、ジョージ・H・W・ブッシュとゴルバチョフは、冷戦終了に際して、中距離核ミサイルによる相互威嚇を廃止することができたほか、1990年には、それまでの最大規模の通常戦力削減の努力を実行することもできた。それ以来18年以上をへて、いま、欧州通常戦力条約(CFE)と呼ばれる法律文書が欧州の安定の基礎となっている。この条約は、今日もなお、すべての関係諸国の利害に対処しつづけている。
 この安定は、ドイツ再統一とワルシャワ条約機構の終了に耐え、ソ連の内部崩壊に生き残り、バルト3国の主権回復を可能にし、さらにNATOとEUの拡大および2009年初めの世界の現実に耐えるだけの強靱性と信頼性を示してきた。
 こうした取り決めは、NATO東縁に位置するポーランドとチェコ共和国においてアメリカ領域外基地にミサイルとレーダーシステムを設置したいとするアメリカの願望によって、初めて危機にさらされることになるであろう。
 対決時代への回帰およびそれが導入することになる新たな軍備競争と新たな緊張は、NATOとEUの利益に適うミサイル防衛に関する協定、すなわち復活されたABM条約によって最もよく回避できるであろう。
 バラク・オバマはベルリンにおいて冷戦型思考の克服を呼びかけた。この呼びかけは、「バンクーバーからウラジオストクにいたる安全保障」という標語のもと、冷戦終了後に議論された考え方とぴったり合致する。ゴルバチョフはヨーロッパの家という自らのビジョンを実現できなかった。しかし、いまや、ドミトリ・メドベージェフは新たな汎ヨーロッパ安全保障構造の構築を呼びかけている。
 われわれはこの好機について慎重な考慮を払うよう勧告する。北半球の安全と安定はアメリカ、ロシア、ヨーロッパそして中国の間の安定した、信頼できる協力を通じてのみ実現可能である。
 この協力は既存のNATO、欧州連合、および欧州安全保障協力機構(OSCE)を尊重し、かつ、必要な場合、それ独自の制度形態をとることになるであろう。北半球における安定的安全保障は、確実に地球規模の危機を沈静化し、またその解決をより容易にするであろう。
 アメリカとロシアによる核兵器なき世界にむけての真摯な努力は、他のすべての核兵器国??国連安全保障理事会の常任理事国であろうとなかろうと――とのあいだで適切な行動に関する合意に到達することをより容易にするであろう。協力の精神が中東からイランを経由して東アジアに広がることもありえよう。
 ドイツは、同盟諸国によって援護されたデタント政策のもと、自らの自決のための前提条件を作り上げた。ドイツは、従来の国境線を越えての協力の原則がその真価を発揮した「2+4」条約(東独と西独および米ソ英仏の4占領国により1990年に調印された)にその平和的再統一を負っている。
 この条約は欧州全体の軍縮と軍備管理の歴史的な進歩を可能にした。その1つの結果がNATO=ロシア協議会であったが、それは協調の精神においてのみ真に効果的となりうる。対決の時代からの遺物はもはやこの新たな世紀に相応しくない。
 NATOおよびロシアのいまなお有効な核先制使用ドクトリンは、双方のいずれの側もかかる攻撃を受けようとしているわけでないにせよ、両者のパートナーシップにはなじまない。核兵器国の間の全般的な核先制不使用条約こそ緊急に必要な措置である。
 ドイツは、核兵器、化学兵器および生物兵器の使用をすでに放棄した国であって、核兵器を保有しない国にたいしてかかる兵器を使用しないよう核兵器国に呼びかける正当な理由をもっている。われわれは、また、ドイツ領内に現在残っているすべてのアメリカの核弾頭が撤去されるべきであるとの見解である。
 今世紀のキーワードである協力および北半球での確固とした安定は核兵器なき世界への道における一里塚たりうるであろう。
 以上が、キッシンジャー、シュルツ、ペリーおよびナン4氏の訴えに対するわれわれの回答である。