| 第67回国連総会第1委員会における見解表明 |
| アンゲラ・ケイン国連事務次長 |
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アンゲラ・ケイン氏は2012年3月、国連事務次長に就任した。国連事務局軍縮部の長として、「軍備管理、不拡散、その他の安全保障関連の諸問題」について、事務総長に対し助言と支持を与える任務を担っている。
ケイン事務次長は、10月9日、第67回国連総会の第1委員会に初めて出席し、各国代表団と挨拶を交わすとともに、核軍備の縮小撤廃や不拡散など第1委員会の当面する諸課題について実質的な協議の進展を促した。
以下、当日の第1委員会会合におけるケイン氏の発言を抄訳により紹介する。ただし3つの段落にわたる冒頭の挨拶部分は割愛した。
原題:Statement to the First Committee of the General Assembly, Angela Kane,
High Representative for Disarmament Affairs。
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第1委員会の昨年の審議について、各国の代表団また市民団体のオブザーバーのなかには、憂慮の念を抱いた人々が多かった。そうした前年の会合の様子を伝える表現として、私が耳にした言葉は「挫折感をもたされた」とか「深刻な期待はずれ」などであり、全体の雰囲気を示すコメントとして「緊張状態」とか「重要な見解の隔たり」などが聴かれた。とりわけ、核軍備の縮小撤廃に関する諸決議は「レッド・ライン」がたっぷりある半面、「グリーン・ライト」がさっぱりないのが特徴的であった。
こうした憂慮の表現のいくつかは国連軍縮機関の長年にわたる困難な状況を反映していた。ジュネーブ軍縮会議の停滞、国連軍縮委員会のコンセンサス作り能力の慢性的欠如、第1委員会における若干の最重要決議に関する投票のさいの長い対立の歴史などがその困難の例としてあげられる。
その他の憂慮される事案としては、核軍備の縮小撤廃の進歩の緩慢さをめぐる継続的ないらだち、および、少なくとも3つの地域における核拡散の懸念の持続があげられる。我々は、地球規模のきわめて高い水準の軍事支出を目撃し続けている――世界的な財政危機にもかかわらず、また、緊迫した多様な社会的・経済的ニーズがなんら手当されないままであるにもかかわらずである。我々は平和の用具を整備する努力でなく、兵器類を完成させる努力の拡大を目にしている。
より大きな次元で見ると、我々は軍備の縮小撤廃における法の支配の拡大に対する新たな挑戦に際会している。
包括的核実験禁止条約はいまだに発効していない。
重要な障害となる案件および競合する利害関係は、武器貿易条約の締結を遅らせ、また多国間核分裂性物質条約に関する交渉についてはその開始すら遅らせ続けてきた。
大量破壊兵器に対処する主要な条約はまだいずれも普遍的な加盟を達成していない。
核不拡散、核軍備縮小撤廃、および原子力平和利用に関する核不拡散条約の主要な義務のそれぞれについて、不遵守の申し立てが絶えない。
核兵器条約については、140ヵ国を超える国連加盟国による支持にもかかわらず、交渉開始に対して根強い抵抗が続いている。
地域別の非核兵器地帯を創設する諸条約に付属するいくつもの議定書は批准されないままである。
そして核兵器運搬システム、ミサイル防衛、もしくは宇宙兵器に対処する110件に及ぶ多国間軍備縮小撤廃条約がある。
* * *
このような憂慮すべき状況を概観したあと、我々は、軍備の縮小撤廃および不拡散の目標を推進するための多国間協力の全過程が停止したと結論したい誘惑にかられる。
かかる憂慮すべき事態はいずれも驚くにあたらない。なぜなら、数十年にわたり第1委員会を占拠してきたいくつかの問題を始めとして、委員会の議題に載せられている諸問題の複雑さがあるからである。
今後の世代はこれらの課題のいくつかを継承することになるかもしれない。この点について、私は、各国代表団に対して、今年が軍備の縮小撤廃と不拡散の教育に関する事務総長の最初の報告書が発表されてから満十年になることを思い起こすよう、呼びかけたい。この報告書によると、それらの分野における教育の目的は、一般市民が具体的な軍備の縮小撤廃と不拡散の諸措置の達成にむけて自ら貢献することができるよう、彼ら市民に力を与えることにある。
これらの目標を達成するにあたって我々が遭遇してきた多大な困難を返り見るとき、私としては、そうした諸々の困難がこの委員会の組織もしくは付託条項のなんらかの欠点に起因するよりも、委員会を構成する国連加盟国の間における政策と優先順位の相違にはるかに多く起因することは疑問の余地がない、と思われる。根本的な課題は共通の諸目的を達成するための努力を調和させることである。
本委員会は、毎年、一方で我々の共有する基本的諸目標を片時も忘れることなく、他方でより大きな諸問題の部分部分を解決することによって漸次的に進歩するために努力を重ねてきた。この過程について、ハマーショルド元国連事務総長はかつてこう語った。「…国際連合の特質は、意見の相違を摩滅させるか分解させる、そしてそれによって共同の利益および国連憲章諸原則の適用に接近する解決策へと進むことを支援するにある」。
こうした共同の利益の追求こそ第1委員会の審議の最大の焦点であり続けねばならい。この委員会は、ある国が他の国の利益を押しのけて自らの利益を推進しようとする、もう一つの競争の場となってはならない。かかる競争の場はほかにあり過ぎるほどある。
我々は、自らがそれにもとづいて創造することを期待されている基礎を築いてくれた先任者たちから、多くのことを学ばねばならない。1946年1月、ポール・アンリスパークは、第1回国連総会の議長として選出された直後、すべての国の代表団に対して、自らのナショナル・インタレスト(国別利益)を増進するにあたり、それらの利益が、彼の言葉をそのまま引用すれば、「ゼネラル・インタレスト(一般的利益)」というより広い枠組みのなかでしかるべき場を占めねばならない」と呼びかけていた。
第1委員会およびその他の国連軍縮機関は、国連加盟国が実際に国別利益と一般的利益の間には調和があると認識する時にこそ、それぞれの弾みをとりもどし、軍備縮小撤廃の規範を推進し続けることになるであろう。
これは、まさに、潘基文事務総長がかつて核軍備撤廃を「最高級の地球規模公共財」と呼んだ所以である。我々は、すべての国の共通の利益を推進することによって、個々の国の利益を推進する。
これこそ地球規模の軍備縮小撤廃努力を再生させる潜在力をもつ精神である。そして、この精神が新たに息づくより良い時間および空間として、この第67回国連総会第1委員会のほかに何があり得るであろうか?
「通常通り営業」的な接近方法はもっとも容易な方法であろう。しかし、それでは軍備縮小撤廃の諸目的を達成するにあたって我々が直面している諸問題を解決するには十分でないであろうし、この分野で我々が当面しつつある地球規模の危機、とりわけ核軍備縮小撤廃に関して直面しつつある危機を悪化させるばかりであろう。
中国語の危機にあたる言葉――weiji――を想い起こしていただきたい。この言葉は二つの漢字から構成されており、一つは「危険」を表わし、もう一つは「機会」を意味している。我々はみな、この危機が間もなく解決されなければ、その危険がいかなるものかを承知している。したがって、この委員会の直面する真の課題は、我々が直面しているあらゆる課題の全体について、新たな前進の機会を発見もしくは創造することである。これらの危険を新しい共同の機会へ、ともに転換させようではないか。
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