|
AP通信が2月14日、政府高官と議会スタッフ(いずれも単数)の発言として伝えたところによると、米国政府は、ロシアとの次回核軍縮交渉に望むにあたっての素案として、戦略核兵器削減の3つの選択肢を検討している。
具体的には、現在配備されている米軍戦略核弾頭について、(1)1000〜1100発、(2)700〜800発、(3)300〜400発のいずれかの水準まで削減するという3案である。この報道は11月の大統領選挙を控えている米国政界に大きなインパクトを与えた。
リベラルな傾向のアナリストやその研究団体は多かれ少なかれ好意的にこの報道を迎えている。その反面、保守派からは猛烈な反発をよび、下院軍事委員会に席をもつ共和党員34人は2月16日、連名で長文の抗議書間をオバマ大統領に送った。
以下、「軍備管理協会」のダリル・キンボール事務局長の論評「米国核兵器の1000発までの削減を開始せよ」を2月17日付『アームズ・コントロール・トゥデー』誌ホームページからご紹介する。原題:Start
Cutting U.S. Nuclear Weapons To 1,000。(小見出しは編集部)
* * * * *
なお巨大な米ロ核戦力、その削減の選択肢は?
冷戦終了以来、この20年間を通じて、米国とロシアの歴代大統領は、両国の膨大な保有核兵器の規模と重要性を漸次、縮小させてきた。ただし両国の核兵器総量はいまなお他の諸国をはるかに上回って最大である。米ロの核軍備の規模は、それぞれ相手国からの核攻撃を抑止するうえでも、また世界の他の核保有国からの核攻撃を抑止するためにも、必要水準を大きく上回っている。双方とも核軍備を削減できるし、削減すべきである。
2010年に承認された新START条約の下においてさえ、米ロ双方は、ミサイル・航空機合計700基・機に搭載した戦略核兵器1550発を配備することが依然として許容される。現行計画の下、このほか数千発の弾頭が予備として保有されるであろう。今日、それぞれの国が保有する核兵器の総量は5000発を超える。両国は、その物の考え方を調整しないかぎり、今後20〜30年間、こうした大規模な核戦力を維持し近代化するため、数千億ドルを支出することになる。
今週の新聞報道が確認しているところによると、オバマ大統領は、米国の核戦争計画、その標的の一覧表、それらの打破に「必要とされる」核兵器と運搬手段の数量を確定する大統領核軍備指針を見直す構えである。まだ何らの正式決定もなされていないが、オバマとしては、伝えられるところでは、ペンタゴンがまとめたいくつかの選択肢――配備済み核兵器の数量を最終的に50%ないしそれ以上削減することもありうる選択肢をふくむ――を検討することになる。
これは歓迎すべきニュースである。国家安全保障や軍事の分野の広範な専門家たちは、こうした見直しこそ延び延びになっていたのであり、根本的な変更がなされて当然であると確信している。
核交戦に「勝利する」→核攻撃を「抑止する」
オバマ政権の2010年「核戦力態勢見直し報告」は、米国核兵器の役割と数量を削減し、かつ、陳腐になった冷戦思考を破棄するため、大統領がいまやとるべき諸措置の新しい枠組みを与えている。この文書は「米国核戦力の基本的役割は米国およびその同盟国とパートナー国に対する核攻撃を抑止することにある」と述べている。これは、数千発の大都市破壊用爆弾の投下をふくむソ連との長期核交戦に「勝利する」ための準備、および、通常兵器による軍事的脅威に対する核兵器使用のための準備、を規定した冷戦期戦略からの重要な転換である。
この新たな接近方法にそくして、米国(およびロシア)は核兵器保有総量をそれぞれ1000発にまで大幅に削減することもありうるし、なおかつ、現在のまたは潜在的な敵対勢力による核攻撃を抑止するにたるだけの火力を維持することもありえよう。米ロ以外ではいかなる国も300発を超える戦略核弾頭を配備していない。中国は大陸間航続距離をもつミサイルに搭載された核弾頭40〜50発を保有するだけである。イランは核兵器を持っていないし、北朝鮮の核軍備は規模においても航続距離においても限定的である。
そのうえ、ロシアからの晴天の霹靂的な核攻撃の見通しがゼロに近く、冷戦期よりはるかに小さな可能性しかないという現実を与件とすると、かかる攻撃を抑止するため必要とされる核戦力は当時に比べてはるかに小さくなっている。スターリンならば核交戦で数千万のロシア人を犠牲にすることを敢えてしたかもしれないが、プーチンはそうはしないであろう。たった1隻の米国核兵器搭載潜水艦が1国を壊滅させ、何千万の人びとを抹殺することすらありうるのである。
核弾頭1000発の提案:スタンフォード大学の物理学者シドニー・ドレルとフーバー研究所のジェームズ・グッドビー両氏によりまとめられた軍備管理協会2007年度報告『核兵器は何のためにあるか』は、米国が今後数年以内に潜水艦を主体とする核運搬手段「3本柱」に搭載される既配備弾頭500発と未配備弾頭500発からなるより小規模な戦力へと移行できるし、そうすべきであると結論を下した。
空軍アナリスト3人による『戦略研究季刊誌』に掲載された2010年の論文は、ミサイル・サイロ、潜水艦、航空機に分散された、残存力がありかつ信頼性の高い兵器からなる、相対的により小規模な戦力をもって核攻撃を抑止することが出来る、と判断した。彼らはこうした戦力がわずか311発の核兵器で成立するかもしれないと論じている。
核兵器使用の標的・態様の変更:オバマ大統領としては、正しい方向に進むため、様ざまな核兵器計画に多くの変更を加える作業に取り組まねばならない。かれは、主としてロシアの軍事力や核兵器インフラ、軍事・国家指導部の標的、戦争支持インフラなど広範な対象をいまなお含んでいる現行核戦争計画から、いくつもの標的カテゴリーをまるごと除去することもありえよう。これらの標的設定は、数十年前、あらかじめ核攻撃を抑止するために十分な報復能力を保証するというよりも、敵対勢力の交戦用資産を枯渇させることを目的として開発されていた。
オバマは、また、ある標的が破壊されたことを保証するためどの程度の大きな損耗が達成されねばならないかについての古い想定を排除することを戦争計画立案者に指示すべきである。現行計画では、多くの標的を2つ以上の核兵器で攻撃することが必要とされている。核攻撃を抑止するためには、敵対勢力の側において、米国が主要な標的を粉々に粉砕するのでなく放射能を帯びた瓦礫の山にする能力があると認識するだけで十分である。
即時報復能力は不要:核政策見直しは、さらに、オバマ大統領に対して、指令後数分で発射する準備が整っている状態を保つという冷戦期の慣行を取り止める機会を与えている。2008年の大統領選挙期間中、オバマは、こうした慣行が「時代遅れ」であり、「破滅的な事故や誤算のリスクを増やす」と語った。確かに、信頼と信用のおける米国核抑止力はいま即時報復能力を必要としない。ただし、それは、米国の核戦力と指揮・管理体制が一つの攻撃を乗り切ることができるならばであって、実際にも乗り切ることが出来るのである。
オバマは、米国がもはや急速発射計画を開発あるいは発動しないこと、および、かかる計画については核攻撃への対応を大統領に数日間遅らせることを許容する新しい計画を代置すること、を明らかにできるし、そうすべきであろう。オバマはロシアに対して、これに相応する核戦力態勢の変更を行なうよう要請すべきである。
核軍縮反対論の難点とブッシュ共和党政権2代の成果
オバマ政権にたいする反対者の間からは、核兵器の拡散のリスクを与件とすると、米国核軍備のさらなる削減は賢明でないなどとする正しからざる主張がなされるかもしれない。しかし、圧倒的な核戦力を維持することは、イランまたは北朝鮮のような国ぐに、さらにはテロ行為の実行者らに対して、核兵器の追求を放棄させるための抑止力にはならない。われわれは、今日われわれの当面する他の緊急な安全保障上の脅威――テロリスト、短距離・中距離弾道ミサイル、およびサイバー攻撃――が大規模な核軍備という手段ではまったく対処しえないことを認識しなければならない。そして米国のすべての主要な同盟国は米国とロシアの核軍備を削減するためのさらなる措置を支持している。
過度に大きな核戦力の維持は、中国に対して、その相対的に限られた長距離核戦力の規模や致死性を増強する方向に押いやることになりえよう。ロシアについても、高価な弾道ミサイル近代化を実行するのでなければ、何とか努力して戦略核弾頭1550発を配備する厳しい選択を迫ることになる。ロシアに核軍備拡張を促すのでなく、核軍備のさらなる並列削減を追求することこそ、両国の安全保障上および財政上の利益にかなうであろう。
冷戦終了後、米国の歴代大統領は核によるオーバーキルの縮小の論理と価値を理解してきた。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領の在任4年間、米国の核軍備保有は全体で約2万2000発から1万3700発へ、38%削減された。ジョージ・W・ブッシュ大統領の在任8年間では、約1万500発から5000発超へ、およそ50%削減された。
いまこそ、オバマ大統領としては、冷戦期の危険な核戦争計画を捨て、高価な核軍備を大幅に減らし、そして納税者の納める税金をより急を要する安全保障上の必要に振り向けるべき時である。
|