第66回国連総会
核兵器なき世界の早急な実現を
――核兵器禁止条約決議に支持集まる |
| 藤田 俊彦・前長崎総合科学大学教授・非核の政府を求める会常任世話人 |
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第66回国連総会が昨年9月中旬、ニューヨーク国連本部で開始された。193加盟国首脳らによる本会議での一般演説のあと、10月初めから軍縮・国際安全保障担当の第1委員会が開催され、1ヵ月あまりの論議の末、決議案47件を含む計52件が承認された。
総会本会議は12月2日、それら案件を集中審議し、採択した。半数近くが核軍備撤廃など核兵器に関連する決議であった。核兵器関連決議のうち主な決議20件を4グループに分けて紹介し、各国の対応や国連世論の動向を検討してみたい。(第1表、第2表参照)


核兵器完全廃棄は世界の願い
ミャンマー決議=核軍備撤廃を要求、マレーシア決議=核兵器条約締結訴える
第1グループでは、非同盟諸国提案の原則的な2つの決議が注目を集めた。
(1)ミャンマーが32非同盟諸国を代表して提案した決議「核軍備縮小撤廃」は、?@合意された時間枠の中で、期限を切って核軍備を撤廃、?A核軍備縮小過程は段階的に、検証メカニズムの充実をはかりつつ、不可逆的に、?B最終的に核兵器を完全廃棄するとした。
決議は、核兵器完全廃棄が核兵器の使用・威嚇を防止する唯一の絶対的保証であると確認し、核兵器完全廃棄までの間、核兵器国に対して核兵器の相互先制不使用を約束すること、および非核兵器国に対する核兵器不使用を確約することを迫っている。
決議は前回とほぼ同様、投票総数の65%の賛成を得て採択された。反対したのは米国主導軍事同盟網の諸国などで、日本は棄権した。
(2)マレーシア決議は「『核兵器による威嚇または核兵器の使用の合法性』に関する国際司法裁判所の勧告的意見の追求」と題している。非同盟諸国53カ国が共同提案した。
国際司法裁が1996年に発表した「核軍備撤廃をもたらす交渉を誠実に行ないかつ完結させる義務がある」との勧告を確認し、核兵器条約締結交渉を開始することにより、この国際的義務を「直ちに」履行することを促した。
核兵器条約については、具体的に、核兵器の開発、実験、製造、貯蔵、移転、使用または威嚇の禁止および核兵器の廃棄を定める条約の締結を要求している。支持率は73%に達して、前回の72・3%をわずかながら上回った。日本はマレーシア決議にも棄権した。
核軍備ゼロへの加速を求める新アジェンダ決議
(3)新アジェンダ連合――ニュージーランドなど非核兵器国7カ国で構成??は決議「核兵器のない世界に向けて――核軍備撤廃公約の実行を加速する」を提案し、採択された。
本文第1段落は、核不拡散条約(NPT)の条文がいかなる状況においても「締約国にたいし拘束力をもつ」とし、締約国が「条約義務の徹底遵守について全面的に責任を負う」と強調して、第6条の下における核軍備撤廃義務の履行の遅れを厳しく非難した。
この文言は、米国提案の決議「不拡散、軍備制限および軍備縮小撤廃の協定および公約の遵守」(第1表第4グループ)に対する批判ともなった。
新アジェンダ決議が第1委員会で集めた賛成票とその支持率は2年連続で日本決議を上回った。本会議では、この新アジェンダ決議は昨年の支持率94・5%をわずかに下回る93・3%で採択された。日本は決議に賛成した。
日本決議、究極的核廃絶を訴え、支持集める
(4)日本決議「核兵器の完全廃棄に向けた共同行動」の本文第1段落は「(NPTの)すべての条文の義務を履行することの重要性を再確認する」にとどめた。唯一の被爆国日本は、核兵器廃絶の最も速やかな実現の決意こそ、本文冒頭で強調すべきではなかったか。
核兵器廃絶については、本文第3段落が「核兵器国による自国の核軍備の完全廃棄を達成するとの明確な約束」を確認しただけで、ついで第4段落は核兵器国に対して「あらゆる核兵器を削減し、究極的に廃棄する」ことを要請し、究極的核廃絶の立場を再確認した。
日本決議は、新START条約による米ロ核関係のリセットを高く評価したことにも見られるように、核兵器国側における国内および国際の合意の形成を確認しながら、実際には何よりも米国の同意を確かめつつ、核軍縮過程を漸進させる立場に立っている。
日本は、事実上、米国など核兵器国による核軍備撤廃の無期限の先延ばしの現状に手を貸しているのであり、これは新アジェンダ連合の立場と明白に異なる。また、日本決議には核軍備撤廃の時間枠設定の要求がなく、これは非同盟諸国決議との顕著な相違である。
日本決議は第1委員会段階での共同提案国としてこれまで最多の63カ国を結集した。北大西洋条約加盟28カ国のうち22カ国、米国と同盟関係にあるアジア太平洋地域の3カ国、日本、韓国、オーストラリアがこれに含まれており、米国主導同盟網の計25カ国がこの究極的核廃絶決議を推進した。日本はその番頭役である。
日本決議は支持率93・3%で新アジェンダ決議と同率、ただし票数は?T票上回った。核兵器国のうち、米、英、仏、ロが賛成し、中国のみが棄権したことに留意したい。
イラン決議、核軍備撤廃を導く実際措置を要請
(5)イランは決議「1995年、2000年および2010年NPT再検討会議において合意された核軍備撤廃義務の追求」を単独提案し、支持率67%で採択された。
米国代表は、イランが核開発に関して国連安全保障理事会と国際原子力機関から非難されているにも関わらず、このような決議を提案したとして反対した。日本も反対した。
ポーランド代表は、欧州連合が前回のイラン決議反対から今回棄権に回った経緯を説明、イランと中東諸国すべてに対し「2012年[中東非核化」会議への過程においてまた会議自体においても全面的・建設的に関与する」よう促した。
核兵器の使用・実験の禁止、核分裂性物質生産禁止、核戦力の危険の低減
第2グループでは、インドが「核兵器使用禁止条約」決議、パキスタンが非核兵器国に対し核兵器使用を控える「消極的安全保障確約」決議を提案した。非同盟諸国の強い賛成で、前者は支持率66・1%、後者は67・8%で採択された。日本は双方に棄権した。
オーストラリア決議「包括的核実験禁止条約」(CTBT)は条約の早急な調印・批准を促した。発効要件国44カ国のうち、米中両国――批准の意向をすでに公表――のほかイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮、エジプト、イランの計8カ国が批准していない。
決議はほぼ全会一致で採択されたが、北朝鮮が反対し、インドが棄権した。
「核兵器むけ分裂性物質の生産禁止に関する条約」(カットオフ条約)の締結を求めるカナダ決議は圧倒的多数の賛成で採択された。本文第1段落は2012年早期に「軍縮会議」がカットオフをめぐる事態打開の作業を開始するよう促している。パキスタンが北朝鮮とともに決議に反対した。イスラエル、サウジアラビアなど中東諸国が棄権した。
インド決議「核戦力の危険の低減」は核兵器国5カ国に対して意図せざる核兵器使用などの危険を低減するため、核戦略再検討や緊急発進態勢解除を要請した。このインド決議も非同盟諸国の賛成で採択されたが、西側諸国のほぼすべてが反対し、日本は棄権した。
核兵器なき地域・宇宙空間の実現を求めて
第3グループのエジプト決議「中東非核兵器地帯」は、11月開催予定の「核兵器なき中東」会議についてフィンランドがホスト国を承諾した背景の下、無投票で採択された。
エジプト決議「中東核拡散のリスク」は名指しでイスラエルの核政策を批判し、NPT加入を求めたことから、イスラエルが反発、中東和平の確立こそ大前提であるとの従来の主張を繰り返して、決議に反対した。米国もイスラエルに同調、反対した。
スリランカ提案の決議「宇宙空間軍備競争防止」は反対なく採択された。しかし、この場合にも米国はイスラエルとともにただ2国、棄権した。
第2表に見るように、イスラエルの反対件数は米国と同じ、棄権は米国を上回った。
ジュネーブ軍縮会議の行方
第4グループの決議のなかでは、オランダ・南アフリカ・スイス3国提案の決議「ジュネーブ軍縮会議の再活性化」がとくに注目された。決議は「『軍縮会議』に対し、実質作業を2012年会期早々に再開できるため、作業計画を採択・実行するよう促す」とし、無投票採択された。しかしこの決議は再活性化の決め手となる方策を提起しなかった。
オーストリア・メキシコ・ノルウェー3国は別の決議案「多国間軍縮交渉を前進させる」を提出した。これは、「軍縮会議」再活性化が不可能な場合、総会決定により別個に「作業グループ」(複数)をジュネーブに設置し、核軍備縮小撤廃、消極的安全保障確約、カットオフ、宇宙空間軍備競争の交渉・協議に当たるとする代案を含んでいた。
しかし、第1委員会最終日の前日、採択の見通しが立たないとして提案国はこの決議案を取り下げた。かくて総会は、「軍縮会議」再活性化に関する打開策を得られずに終わった。
ポスト冷戦期に限って歴史的経緯をみると、1996年、後発核兵器国インドは「軍縮会議」においてCTBT締結に最後まで反対し、結局、CTBTは「軍縮会議」でまとめられた文案を国連総会において承認する形で締結の運びとなった。
パキスタンは、より遅れた後発核兵器国として、カットオフ条約を「軍縮会議」の議題にのせることを拒否してきた。パキスタンは、近年、米印原子力協力協定に反発し、態度をさらに硬化させて、核軍備を加速的に強化している。
核兵器なき世界の実現をめざして
2010年NPT再検討会議が厳しい議論の末に行動計画をまとめて一定の成果をあげたあと、2011年が2月の新START条約発効もあって核兵器なき世界の実現に向けて前進する「好機」となると期待された。しかし、この年の末、少なからぬ論者は米ロ関係を含む国際的な動向をめぐって「はずみの減速」を指摘した。
2012年1月早々、米国の核問題専門誌『ブレティン・オブ・ゼ・アトミック・サイエンティスツ』は、その終末時計のイラストを12時6分前から5分前に1分進めて、世界の終末が近づいたと国際社会に対し警鐘を鳴らした。
米国有識者の論評は、大統領選挙・国会選挙を11月に控えて、米政界では財政赤字縮小のためにも核軍縮を進めたい意向を強めながら、「核に弱い」との右派勢力の攻撃を避けるため具体的な施策を打ち出せないと分析している。ロシアにも、大統領選挙などをふくめ、類似した政治状況があることも指摘された。
ただし、米国やロシアなどの政治の表舞台の動きとは別に、国際的な論調はこの数年来の核軍備縮小撤廃に関する画期的な論議をあらためて問い直しているように見える。
潘基文国連事務総長の核兵器廃絶に関する5項目提案が国連内外でいま静かに読み返されている。アメリカにおいてもシュルツ、キッシンジャーら4氏による核兵器なき世界の実現を訴える一連の論評があらためて見直されている。
唯一の被爆国日本の非核・平和運動はこうした国際的な動きからも学びつつ、核兵器なき世界の実現のため2012年を力強く新たに前進する年にしたい。
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