| 「新START条約下のミサイル攻撃とミサイル防衛」 |
| パベル・ポドビッグの論評(『ブレティン・オブ・ゼ・アトミック・サイエンティスツ』1・6付) |
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米ロ新START条約は2011年2月5日、両国政府間で批准書が交換され、正式に発効した。双方の議会では、とくに今後のミサイル防衛のあり方をめぐって、激しい論争が続き、一時はミサイル防衛が新STARTの命取りになるのではとの危惧さえささやかれた。
米国の専門誌『ブレティン・オブ・ゼ・アトミック・サイエンティスツ』は新STARTの下でのミサイル防衛について、パベル・ポドビッグ氏の1月6日付論評をオンラインで掲載した。筆者はその結論部分において次のように指摘している。
「双方はミサイル防衛が現実世界のミサイルの脅威に対する防衛を提供しえないという自らの過去の教訓を忘れてはならない。双方は、ミサイル防衛が核軍備縮小撤廃過程を損なわないようにするため、協力してこれを十分理解することが極めて重要である」
以下、論評の抄訳である。これが条約発効1ヵ月前の執筆であることに留意のうえ、読み進んでもらえれば幸いである。筆者、タイトル、出所は次の通り。Pavel
Podvig, “Offense and defense after New START,” Bulletin of the Atomic Scientists,
January 6, 2011.
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新START条約は、米ロ間の軍備管理の回復を意図した条約であるとともに、さらに大幅な核兵器削減の基礎を設定するものである。それと同時に、新START条約が最大の核兵器国2ヵ国およびそれら両国の戦略核兵器を排他的に取り扱う点において最後の「従来型」軍備管理協定であることは明瞭である。核軍備撤廃に向けてのさらなる今後の措置は一連のむずかしい課題を扱う必要があるのであって、戦術核兵器、通常弾頭戦略発射装置、未配備貯蔵核弾頭、さらに他の核兵器国の核軍備など、いずれもそれぞれに十分むずかしい課題である。これらの案件に対処して成功を収めるには、米ロ両国が恐らく論争の主たる争点となる1つの問題を上手く擦り抜ける方途を見つけられるかどうかがカギとなる。その問題とはミサイル防衛である。
ミサイル防衛は、新START条約前文のどちらかといえば目立たない文言の形で条約締結プロセスに入り込んだ。すなわち、この条約は「戦略攻撃兵器と戦略防衛兵器の間の相互関係の存在」を認識しているのである。この追加的文言は、ロシア側の主張で挿入されたもので、米国のミサイル防衛擁護者を憤らせ、一時は条約批准を頓挫させかねないほどであった。ミサイル防衛をめぐる米国の国内政治は至極深刻であって、米国のミサイル防衛計画に対するさらなる制約は実際上不可能である。こうしたミサイル防衛への連邦議会の支持を与件とすると、いかなる大統領も同計画を制限するロシアとの協定に調印するリスクは冒さないであろう。他方、ロシア側は、ミサイル防衛をめぐり何らかの譲歩をする兆しを見せておらず、もし万一、米国がロシアに対して戦術核兵器または未配備弾頭などその他の問題に関して譲歩を求めたりした場合、ミサイル防衛について何らかの具体的な譲歩を要求するであろう。ロシアは、これまですでに、もし米国のミサイル防衛が自国の戦略能力を脅かすならば、新START条約から脱退する権利を留保する、と述べている。
これは、交渉手詰まりの決定的な処方箋のように見えるが、実はそうではない。少なくともそうであってはならない。もしも適正に運営されるならば、ミサイル防衛は軍備管理プロセスの脅威ではない。もちろん、ロシアは新START条約脱退の威嚇を実行に移す権利を依然として有するであろう。しかし、そのように行動する理由はないのである。
何故か? たしかに条約前文は攻撃兵器と防衛兵器の間の相互関係に関する文言を含んでいるものの、前文は同じように重要なもう1つの別の文言、すなわち「現在の戦略防衛兵器は戦略攻撃兵器の実用性と有効性を損なわない」を含んでいるのである。現実の防衛=攻撃関係において、こんご米国とロシアがいかに大幅に核戦力を削減しようとも、この文言は真実であり続けるであろう。すなわち、ミサイル防衛は、今後いかなる時点においても、戦略攻撃兵器に対する重大な脅威となることはありえないであろう。
今日の時点において、核兵器の数量が減少するなかで、米国のミサイル防衛が戦略バランスに影響を与えないと想像することはむずかしいかもしれない。しかし、まさにそのことが過去にミサイル防衛をめぐって起きていたのである。もしわれわれがミサイル防衛システムの開発の軌跡を見直すならば、われわれはミサイル防衛開発の目標がますます控え目になってきたことに気づくであろう。ミサイル防衛のビジョンは、レーガン大統領の「戦略防衛構想」――またの名を「スターウォーズ」と言い、ソ連の大陸間弾道ミサイル数1000基から米国国民を守るはずであった――から、軍事基地を標的とするあまり精緻でない少数の短距離ミサイルに対する迎撃を指向する現行システムへと、進化を遂げたのである。かくて、人々がミサイル防衛の出来ることと出来ないことを理解し始めるにつれて、かれらは、また、どのような核兵器削減が可能なのかを評価するさいにより現実的となる。25年前、米国とソ連の間の論議は、ミサイル防衛により抑止力を損なわれることなく弾頭数6000基まで核戦力を削減できるか否か、であった。そして、今日、米国とロシアは、新START条約の下、核弾頭1550基の核戦力がミサイル防衛により脅かされないと公式に認めているのである。その傾向は明白であって、配備済みミサイル防衛システムが弾頭500基、いな弾頭100基の核戦力にも脅威とならないことに両国が合意することもありうるであろう。
言うまでもなく、最もむずかしい問題は双方がそのような理解の一致に到達することにある。ミサイル防衛は双方の側においてこれまでつねに様々な政治的画策にまったく脆弱な問題であったし、これからもそうあり続けるであろう。この問題から政治的駆け引きを除去し、かつ、現実世界におけるミサイル防衛の機能に関して米国とロシアを合意させる唯一の方途は、それぞれの国のミサイル防衛の限界を明確に理解するため双方が綿密に協力し合うよう保証することにある。もう一度、歴史の教訓に立ち返るならば、1960年代と1980年代のミサイル防衛をめぐる熱狂がひとたびミサイル防衛の機能の真面目な分析に道を譲ったとき、ミサイル攻撃の脅威に対抗するさいにミサイル防衛は無力であることが両国にとって明瞭になったのである。
新START条約の最も重要な成果は米ロ両国がさらに大幅な核軍縮に向けて固い約束を交わしたことにある。これは歴史的な前進であり、この弾みを保つため、双方はミサイル防衛が現実世界のミサイルの脅威に対する防衛を提供しえないという自らの過去の教訓を忘れてはならない。双方は、ミサイル防衛が核軍備縮小撤廃過程を損なわないようにするため、協力してこれを十分理解することが極めて重要である。
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