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 ●国連・世界の動き
 
「世界から核兵器を除去すべき時がきた」
          
南アフリカ・ツツ大主教は語る

 以下に紹介する論評の筆者、デズモンド・ツツ(1931年10月7日〜)氏は南アフリカ聖公会のケープタウン大主教。南アフリカにおける社会運動の代表的な指導者の1人である。アパルトヘイト人種隔離制度の撤廃に貢献し、1984年、ノーベル平和賞を授与された。
 この論評は、核不拡散条約(NPT)再検討会議が進行中の5月22日、英ガーディアン紙に掲載された。NPT会議の論争を念頭に、ツツ氏は「世界から核兵器を除去すべき時がきた」と強調し、「懐疑主義者は核なき世界が夢だという。かれらは奴隷制やアパルトヘイトについてもそう主張していたのだ」と檄を飛ばした。
 ツツ氏は、この文章の末尾で、オバマ米大統領が「恐らく自分の存命中、各国がそれぞれの核軍備をすべて廃棄することはないかもしれないと警告した」プラハ演説(2009年4月5日)に触れて、こう書いている。
 「私はかれより30歳年上であるものの、われわれ2人とも最後の核兵器が解体されるのを生きて見届けるであろうと確信している。われわれはただ核爆弾の外側で物事を考える必要があるだけである」。

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 ことし、核爆弾は65歳の誕生日を迎える。国際的な基準でいえば、定年退職の年齢といってもよいであろう。だが、われわれの指導者たちはこの究極の凶器を地球から除去する勇気と知恵を持っているであろうか。現在、ニューヨーク国連本部で開催中の核不拡散条約――この病める条約――の5年毎の再検討会議は核兵器なき世界への諸国政府のコミットメントの強さを試すであろう。
 もしかれら指導者たちがこの核なき世界のビジョンの実現を真剣に考えているならば、かれらは、選ばれた数ヵ国にのみこの兵器を託すことが出来るとする核兵器管理という失敗ずみの政策から、核兵器の廃止へと焦点を移すであろう。これまで、われわれは、その他のとくに非人道的かつ無差別的な兵器――生物・化学兵器から対人地雷、クラスター兵器に至るまで――を非合法にしてきたが、それと同様、いまこそ、われわれはあらゆる兵器のなかで最も非道な兵器の非合法化に注意を向けねばならない。
 これまでのところ、核軍備撤廃にむけての進歩はあまりにも緩慢であった。世界にはいまもなお2万3千基超の核兵器の在庫があり、それが諸国の間に敵意と不信を生み育て、そしてわれわれすべてに暗い影を落としている。核兵器で武装している諸国は、いずれも、この恐ろしい兵器のない未来を準備しつつあるとは見えない。かれらが核軍備を撤廃しなかったこと自体が核兵器の拡散に拍車をかけてきた。それは、また、われわれがこの軌道をいま思い切って転換しない限り、地球全体の不安定化を進行させることになる。核不拡散条約の発効から40年を経て、われわれは、自らが核兵器廃止の軌道に乗っているか否か、真剣に自問自答すべきである。
 核軍備撤廃は政府が採用するかしないかの選択肢などではない。それは政府が自国の市民と人類全体に負っている道徳的義務である。われわれは、もう1つのヒロシマ、もう1つのナガサキを待って、地球上の兵器庫からこれらの核兵器を追放する政治的意思を初めて奮い起こすようなことがあってはならない。世界各国の政府は、今回のNPT再検討会議において、現代の他の忌まわしい悪である奴隷制とアパルトヘイトとともに、これらの核兵器を歴史のゴミ箱に投げ捨てねばならない。
 懐疑論者たちは、これまで長年にわたって言い続けてきたように、われわれが核兵器なき世界という夢を追い求めて時間を無駄に費やしている、それはまったく実現不可能である、とわれわれに告げている。しかし、少なからぬ人びとが南アフリカにしっかり根を下ろしていた人種隔離の廃絶について、またアメリカ合衆国の奴隷制の廃止についても、それとまったく同じことを語っていた。しばしば、これらの人びとはそうした現状の維持に自らの利益を見出していた。人間の生命の価値をおとしめ、そして人間が相互に平和のうちに生きる権利を奪い去る体制や政策は、変革の実現を固く決意した高度に組織された大衆によって創造される圧力に対して、耐えることができるのは稀である。
 核兵器のない世界への最も疑う余地のないかつ現実的な道は、諸国が法的拘束力のある核兵器の禁止の条約――核兵器廃棄のためのスケジュールを含み、また遵守を保証する制度的枠組みを作る条約――を交渉によって取りまとめることである。すべての政府の3分の2が核兵器条約の名称で知られるこうした条約を提唱している。潘基文(バン・ギムン)国連事務総長もこうした考え方に賛意を表明した。わずかに核兵器国と北大西洋条約加盟国のみがわれわれを制止している。
 核兵器以外の各種の兵器を禁止する努力の成功例が示すところによれば、政治的な弾みと広範な大衆的支持のある場合、初めは乗り越ええないとみえる障害も往々にして取り壊すことができる。核兵器の廃止は世界の人びとの民主的な願望であって、ほとんど核時代の開幕いらい一貫してわれわれの目標でありつづけてきた。われわれは、ともに手を携えて立ち上がるならば、この核時代が一大爆発をもって終るか、あるいは世界的規模の祝典をもって終るかを決めるだけの力をもっている。
 昨年4月、チェコの首都プラハにおいて、オバマ大統領はアメリカが核兵器のない世界の平和と安全を追求すると宣言したが、しかしかれは、恐らく自分の存命中、各国がそれぞれの核軍備をすべて廃棄することはないかもしれないと警告した。私はかれより30歳年上であるものの、われわれ2人とも最後の核兵器が解体されるのを生きて見届けるであろうと確信している。われわれはただ核爆弾の外側で物事を考える必要があるだけである。