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 ●国連・世界の動き
 
浮かび上がる米核戦略――覚え書き
堀野 唯人(ジャーナリスト) 

 4月6日の核態勢見直し(NPR)報告の発表、4月8日の米ロ新START(戦略兵器削減条約)の調印、4月12〜13日の核保安サミットの開催と、オバマ米政権の核戦略が姿を現しつつある。昨年4月5日のプラハ演説で「核兵器のない世界」の実現を国の目標として掲げたオバマ大統領は、これらの実績を携えて5月3〜28日の核不拡散条約(NPT)再検討会議に臨み、核テロリズム防止と核不拡散を最優先課題とする立場から、同会議の「成功」をめざそうとしているようだ。全面的分析には至らないが、新NPRや新STARTで注目される若干の点を覚え書き的に述べておきたい。

 
NPR

  米国のNPRは今回で3度目だ。ブッシュ政権時の2002年に出された前回のNPRと比べても、一連の顕著な特徴がある。
 
 第1は、その発表のされ方だ。前回のNPRでは、文書として正式に発表されたのは、ラムズフェルド国防長官の前文と、報告の要点についてのスライド資料だけだった。本体は秘密報告であり、米メディアや民間団体によって、一部がリークされた。今回は約70ページの報告が公表され、機密版はないとされる。
 
第2に、内容面で注目されているのは、非核保有国を核攻撃しないという「消極的安全保障」を強調している点だ。新NPRは、「核不拡散義務を順守するNPT加盟の非核保有国には核兵器を使用せず、使用の威嚇をしないと宣言することにより、米国の長期にわたる消極的安全保障を強化する」と述べている。
 
米国は、1978年春の第1回国連軍縮特別総会の際に、国務長官が消極的安全保障の表明をしたことがある。NPT無期限延長を決めた1995年のNPT再検討会議の際には、それを大統領声明に格上げした。同年4月11日には、核保有国の消極的安全保障の声明を再確認する安保理決議984が採択された。今回のNPRは、これらを踏まえたうえで、その「強化」を表明した。
 
ただし、前回NPRは、核攻撃の標的となる国として、ロシア、中国、北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアの7ヵ国を挙げた。その後、イラクのフセイン政権は米主導の先制攻撃戦争で打倒され、リビアは非核化を表明した。新NPRは、「核不拡散義務を順守するNPT加盟の非核保有国」との表現で北朝鮮やイランはその適用除外だと示唆し、米同盟国でない核保有国のロシアや中国という核保有国の動向に言及している。となれば、核攻撃の標的は実質的に大きく変わるのかとの疑問も生じうる。
 
第3に、核廃絶の展望はどうか。
 
?新NPRのゲーツ国防長官の前文は、「核テロリズム・拡散防止を米政策課題のトップに置く」と明言し、「核なき世界」については、「速やかには達成されないが、具体的措置を今日とり始めなければならない」と述べている。
 
NPR最終章「先を見越して――核なき世界に向けて」は、「米政策の長期目標は核兵器の完全廃絶である」と述べている。それに向けた具体的措置として、「NPT再活性化」など14項目の短期的課題、「核戦力のいっそうの削減をめざす交渉にロシアを関与させる」など7項目の長期的課題を掲げているが、そのなかには完全廃絶に直接着手する課題はない。
 
?新NPRは「米国は核実験をしない」と述べ、1992年以来の核実験凍結を堅持する立場を表明している。また包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准をめざすとしている。「新型核弾頭を開発しない」と述べている。これらは前政権と比べて積極的だ。
 
ただし、W76戦略潜水艦発射用核弾頭やB61戦術核爆弾の「延命計画」に予算を付け、W78大陸間弾道ミサイル(ICBM)用核弾頭の「延命」研究に着手するよう勧告している。これらが単なる「延命」なのか、核実験はしないものの核兵器の実質強化を図るものかは、疑問が生じる。核兵器開発・製造施設についても、増強を掲げ、予算もつけている。
 
?NPRは、「戦略的抑止の維持」や「地域的抑止の強化」を中心課題に掲げ、核抑止力堅持を押し出している。
 
オバマ氏の「核なき世界」構想を支持する米シンクタンクの研究者は、「(核廃絶)条約の起草さえ今後10〜30年間は考えられない」と述べている。新NPRは、その間の核戦力保持を裏付ける内容を含んでいるようにみえる。
 
第4に、日本との関連はどうか。
 
攻撃型原潜が搭載可能な態勢をとってきたトマホーク海洋発射核巡航ミサイルの行方は、議論を呼んできた。NPRは、これを期限は特定せずに「退役させる」としている。
 
しかし、トマホークが「退役」しても、F16やF35のような戦闘爆撃機や、B52HやB2のような爆撃機を前方展開して、同盟国への「拡大抑止」(核の傘)を保障すると明言している。ICBMやSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)も、この役割を果たしうるとしている。

新STARTとNPT再検討会議

 
このもとで、核兵器の役割削減の大きな成果として押し出しているのが、ロシアとの新STARTの調印だ。これは、ブッシュ前政権が結んだ戦略攻撃兵器削減条約(SORT=モスクワ条約)が定めた配備核弾頭の上限2200を3割削減し、1550発にするとしている。方向としては削減には違いないが、核弾頭の数え方には疑問が出ており、どこまで実質削減になるのか不明な点がある。
 
NPRは、今後の課題として、戦略核のいっそうの削減、中国も含む核削減交渉、戦術核兵器削減交渉を挙げている。
 
以上のような米国の方針に照らしてNPT再検討会議を展望すれば、核兵器の速やかな廃絶に向けた諸措置というよりは、核不拡散体制の強化や核テロ防止といった部分的な措置が中心課題にされる可能性は高い。しかし、最大の核保有諸国が核兵器を多少減らすと意思表明しても、核抑止論にしがみついて核の効用を天下に宣言する限りは、核大国に核攻撃の標的とされる諸国が、核兵器を放棄する積極的誘因は出てこない。核大国が核抑止論固執を放棄して、自国の核兵器の廃絶への具体的展望を示さない限り、核不拡散、さらには核テロ防止さえ、実現できる見通しは出てこないだろう。(4月13日記)