日本の宇宙開発の現状をどうみるか
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小沼 通二(世界平和アピール7人委員会事務局長・慶應義塾大学名誉教授)
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6月2日、政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)は本会合を開き、「宇宙基本法」にもとづいて昨年9月から検討を進めてきた「宇宙基本計画」を決定しました。軍事利用を盛り込んだ今後5年間の宇宙開発について、総額2・5兆円にのぼる利用計画を策定したもので重大です。
世界平和アピール7人委員会事務局長の小沼通二・慶應義塾大学名誉教授は5月25日、非核の政府を求める会核問題調査専門委員会で、「日本の宇宙開発の現状をどうみるか」と題して講演し、日本の宇宙開発のあり方はどう変わったか、いまなぜ、「基本計画」なのか、計画がめざすものは何か、日本はどんな道に進むべきか等について語りました。次にその報告(要旨)を紹介します。
◇ ◇ ◇
宇宙とは、地球の上空、どのあたりなのか――。地球の直径は大まかに言って約1万2800qですが、これを直径25pの地球儀(約5000万分の1)で示すと、国際宇宙ステーションが回っているのはその表面から1pですから、その外側はすべて宇宙ということになります。
私たちがアメリカやヨーロッパのテレビ番組を見たり、国際電話をかけるときに使う人工衛星は静止衛星であり、3万6000q上空、先の地球儀では上空70pの位置にいて、24時間で地球を1周しています。
■日本の宇宙開発政策の変容
〈国会決議〉
昨年までの日本の宇宙開発は、1969年の国会決議にもとづいて進めてきました。5月の衆院本会議の全会一致の決議は、宇宙開発・利用の目的は「平和の目的に限」るとしています。具体的には、「学術の進歩」に始まり、「国民生活の向上」「人類社会の福祉」「産業技術の発展」「国際協力」と続きます。参議院では同年6月、「わが国の宇宙の開発利用は平和利用の目的に限り、かつ自主・民主・公開・国際協力の原則のもとにこれを行う」とする科学技術振興対策特別委員会の全員一致の付帯決議が確認されています。
〈宇宙基本法案が国会に〉
それから40年後の2007年6月、自民・公明両党による議員立法として、宇宙基本法案が国会に出されました。その時は内閣委員会で止まっていたのですが、その後、自民、公明、民主などが法案の実質審議に入りそうだというので、私たち世界平和アピール7人委員会(以下「7人委員会」)は同年11月、「宇宙基本法案の再検討を求めるアピール」を出しました。
〈「非軍事」から「非侵略」に変質――7人委員会が批判のアピール〉
このアピールで私たちが指摘した第一の問題点は、開発・利用の物差しを「非軍事」から「非侵略」に変える、つまり、「防衛」なら軍事利用もかまわないとしていることです。しかも、「情報の適切な管理のために必要な施策を講ずる」として、「公開」の原則を「秘密」の持ち込みへと変質させようとしている点に反対でした。
第2の問題点は、この法案の目的に、先の国会決議が重視した「学術の進歩」が入っていなかったことです。基礎がしっかりしていない根無し草の開発では、すぐに息切れすることは目に見えています。
〈「監視を訴える」――7人委員会が第2のアピール〉
宇宙基本法は2008年5月、自民・公明・民主共同提案に差し替えられ、衆参両委員会ともわずか2時間ずつの審議で可決されました。
この法律は大部分がよくないのですが、「日本国憲法の平和主義の理念を踏まえ」という文言があるのです。そうであれば、他国の基地を攻撃するなど絶対出来ないはずです。それで7人委員会は同年8月、2度目のアピールを出して、「宇宙基本法の監視をしよう」と国民に訴えました。
■「宇宙基本計画案」の目標は何か
宇宙基本法にもとづいて発足した宇宙開発戦略本部は、今年4月、「宇宙基本計画案」を作りました。10年後を見すえて今後5年間に何をやるかが書いてあります。
どんな内容か。「これまで我が国の宇宙開発利用は研究開発に力点が置かれていたが、今後は、国民生活の向上、安全保障の確保、国際貢献・協力等に寄与すべく、研究開発力を高めつつ、宇宙の利用を重視する政策に転換」する。つまり、研究開発に力点を置くのではなく、利用重視に転換するというわけです。
軍事利用の拡充について、計画案は次のように書いています。
「情報収集衛星は、平成10年8月31日の北朝鮮によるミサイル『テポドン』の発射を受けて、我が国として、外交・防衛等の安全保障及び大規模災害等への対応等の危機管理のために必要な情報の収集を主な目的として導入する」。
日本には情報収集衛星が今、3つあります。これまで人工衛星「大地」は700qぐらいの上空から2万5000分の1の地図を作ったり、山火事や大津波の監視などを行っています。これからは、軍事利用を持ち込もうというのです。
■5年以内に何をやるか
では「基本計画案」は、情報収集衛星の機能の拡充・強化のために何をしようとしているのか。
まず、「今後5年内に『地球上の特定地点を1日1回以上』撮像しうる4機体制を実現するとともに、より高い撮像頻度とすることによる情報の量の増加、光学、レーダーともに商業衛星を凌駕する解像度とすることによる情報の質の向上」をはかる。日本の現在の衛星の解像度は数十pですが、アメリカの軍事衛星のそれは2pぐらいで、トラックのナンバーまで見えるそうです。そこで日本も「世界最高水準まで行く」としていますが、今の予算規模では、まず無理でしょう。
「計画案」によると、コンピュータの情報処理能力から何から何まで高度にしていく。早期警戒機能のためのセンサや電波特性の研究も掲げています。
また、日本ではこれまで「防衛分野における宇宙開発利用に関する知見が十分に蓄積されていない」ので「先行する民生技術を積極的に活用する」としていますが、これにより「公開」の原則でやってきた平和利用に「軍事」が入ってくれば、機密保持の網が被さってくるわけで、これも大きな問題点と言えます。
■宇宙条約の原則は
国際社会は1967年に「宇宙条約」を定めて、宇宙の研究開発・利用の原則を明らかにしています。そこでは、「平和的目的のための宇宙空間の探査及び利用の進歩が全人類の共同の利益であることを認識し、宇宙空間の探査及び利用がすべての人民のために…行われなければならないことを信じ…協定した」と宣言しています。
条約は続けて、その平和目的のために、「核兵器その他の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道、天体、宇宙空間に乗せない」ことを定めています。
「月条約」(1984年発効)では、月を回る軌道と月の周回軌道に行く経路も軍事目的で使うことも禁じています。
地球上でもいまや、ヨーロッパでも東南アジアでもラテンアメリカでも、経済的にも軍事的にも国境を越えて通貨を統一しよう、税関もなくしよう、もう戦争はしないという時代になっています。このとき、宇宙の軍事利用に血道をあげている日本は、ほんとうにおかしな国です。
■基本法の先取り――JAXA設立
2003年10月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が作られました。これは、それまであった3つの組織――宇宙開発事業団、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所を統合したもので、宇宙開発基本法の先取りと言うべきものでした。
そこで何が起きたかというと、宇宙科学研究所は統合までは人工衛星を毎年1つ上げていましたが、統合後6年に2つになりました。小惑星探査の「イトカワ」や月探査の「かぐや」などの学術研究も、いずれ縮小・中止の方向に向かうでしょう。
他方、元気のいいのが日本経団連で、今年5月、政府に「早期警戒衛星の早期実現」を求めました。「5年間もかけず、もっと繰り上げて早くやれ」というわけです。しかし、この方向は、国民生活水準をいっそう切り下げて軍事費を増額しようとする大軍拡、日本壊滅への道です。戦争につながる、こういう計画を許してよいのでしょうか。
■日本の進むべき道
では日本はどんな宇宙開発・利用の道を進むべきなのか。
1つは、やはり、「かぐや」や「イトカワ」に示されるような、私たちをワクワクさせてくれる宇宙の探究を継続させるべきです。
2つめは、宇宙の研究開発は、これまで同様、国際協力で進めることです。そのためには、軍事秘密を持ち込まず、「公開」の原則を守らねばなりません。
3つめに、国民生活優先の宇宙研究開発でなければなりません。
最後に、「安全保障」について言えば、仮想敵国を作り軍備強化による対決型「安全確保」を追求するのではなく、対話を重ねての信頼醸成と友好による安全保障こそが大事です。この地球で、どの国も、隣国と離れることはできません。日本は、相手が中国であれ北朝鮮であれ、気にくわないからといってハワイに移るわけにはいかないのです。
私は、今年のパグウォッシュ会議で北朝鮮の代表とも話したのですが、日本政府も、日本国民も、私自身も、核実験にもミサイルにも拉致にも無条件で反対だと言いました。その上で、反対の理由と解決への手がかりについては、異なる考えがあることも伝えました。そういう交流を通して、どの国とも対話を重ねて、互いに「あの国なら話し合える」と思える関係を築くことこそ、真の安全保障だと、強く実感しています。そしてその方向こそ、日本国憲法の考え方だと思います。
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