中曽根外相講演 ――その3本柱と11指標を考える
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藤田 俊彦(常任世話人)
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1.核軍備撤廃の目標は明確に確認されたか?
中曽根弘文外相は、さる4月27日、日本国際問題研究所主催の会合で、2010年核不拡散条約(NPT)再検討会議にのぞむ日本の基本的立場について講演を行った。題して、「ゼロへの条件――世界的核軍縮のための『11の指標』」。
NPTについて言えば、その前文と第6条で核軍備の全面廃棄に言及し、そのための誠実な交渉を規定している。1995年NPT再検討会議は核不拡散とともに核軍備縮小撤廃を追求すると確認し、さらに2000年再検討会議は最終文書の中で核兵器国による核兵器完全廃棄の「明確な約束」を明記した。
しかし、2005年NPT再検討会議は、アメリカが前2回の決定を反古にして核不拡散のみを論議すべきであると固執した結果、何ら成果を上げることなく失敗に終わった。
そのアメリカで1月、新大統領に就任したオバマ氏は、4月5日、プラハでの演説の中で、米国が「核兵器を使用したことのある唯一の核兵器国」であると認め、世界から核兵器を一掃する努力の先頭に立って行動する「道徳的責任」があると明言した。
中曽根外相は、今回の講演の中で、オバマ氏の国際的公約を始めとする今日の核軍縮の気運の国際的な高まりに言及したうえで、自らの講演の意図が、被爆国日本として、「世界的核軍縮を先頭に立って推進しようとする」意欲を示すことだと述べて、胸を張ってみせた。
しかし、同外相の講演は、核兵器廃絶にかかわる部分的措置を列挙しただけで、それらの措置を核兵器ゼロという中心目標と不可分の一体として論じてはいない。同氏の講演は、とりわけ、「私たちの生きているうちに核兵器のない世界を」との被爆者の思いはもとより、一定の時間的枠組みの中で着実・確実に廃絶をとの人々の願いをまったく裏切る結果となっているのである。
2.「核抑止」の強調と部分的諸措置の提案
中曽根外相は、「世界的核軍縮」の主要な3分野にもとづく11の「指標」を列挙しているが、その前段で、日本をめぐる核兵器状況を簡単に振り返っている。
注目すべきことに、かれは、核軍縮過程の中での安全保障の維持・確保を目的として、「東アジアの状況にかんがみれば、我が国にとっては日米安全保障体制の下における核抑止力を含む拡大抑止が重要である」と述べて、米国の核抑止力、拡大抑止戦略への依存継続をはっきりと正当化した。
かれは、このような米国拡大核抑止戦略への一貫した依存の総論部分をふまえて、第1から第3までの柱のもと、11の指標を各論としてあげた。その内容は、これまで一連の国際会議において、すでに定着した感のある、なんら新味のない構想や措置の羅列に止まっている。
以下、その内容について検討してみたい。
〈第1の柱「核保有国の具体的な軍縮措置」について〉
アメリカのオバマ新政権のイニシアティブで動き出した、米ロ間の協調による核軍縮については手放しで高く評価する一方、対照的に、中国の核軍備政策、軍事情勢全般に関する透明性の欠如を厳しく非難した点が注目される。
「透明性」が重要であることは明白だが、中国の保有核弾頭数はおよそ200基、核兵器国全体の核弾頭の0・8%足らずである。
また、北朝鮮の核兵器取得と核拡散、イランの核開発をめぐる国連安全保障理事会決議や国際原子力機関(IAEA)決定の無視などを批判し、インドとパキスタンの核兵器にも言及した。
こうしたアジア地域に関わる核兵器状況の危険な諸相を総ざらいしたうえで、中曽根氏は、核軍縮進行下の安全保障の維持・確保を名目として、米国の核抑止力、拡大抑止戦略への日本の依存の継続を正当化したのである。
〈第2の柱「国際社会全体による措置」について〉
このような状況下、核兵器と同運搬手段に関わる部分的措置として、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効とカットオフ条約交渉、ミサイル規制の3つの「指標」を提起している。だが、すでにオバマ政権は、CTBT早期批准にむけて動きだしているし、カットオフ条約交渉の開始にも賛意を表明した。短・中距離ミサイル規制の動きは欧州ですでに始動しつつある。
これら3項目は、非核兵器国に対する核不拡散効果があることのほか、中国やインド、パキスタンなど核兵器後発国の制約、核テロの防止も視野に入れていることから、オバマ政権のもと、世界規模で実行の加速化が可能となるであろうが、ここでもやはり、日本政府の存在感は見えてこないのである。
〈第3の柱「原子力の平和利用を志す国のための措置について〉
原子力平和利用の分野の3項目では、平和利用の保証および軍事転用の防止とともに、核物質・放射性物質のテロリスト集団への漏出を阻止するべく、それらの物質の管理強化の必要が強調されている。
アメリカ、日本、一部の欧州諸国などの資金と技術・ノウハウの提供など、金融産業や原子力産業の利益がかかる、軍事・民生両面のビッグ・ビジネスの協力が見込まれている。
第1・第3の柱を通して、核兵器全面廃棄の展望は後景に退いており、「核兵器のない世界」そのものへの接近に現実的・具体的に貢献できるのか、すこぶる疑わしいと言わねばならない。
3.何のための「2010年核軍縮会議」か
中曽根外相は、この講演の末尾で、「2010年核軍縮会議」をNPT再検討会議のまえに開催するとの構想を打ち上げた。
しかし、この軍縮会議なるものは「核兵器のない世界」の実現にむけて欠かせない基幹的な重要措置に関して、その限られた準備期間を通じて初動的にせよ合意を取り付けられるのか。1年後のNPT再検討会議の真の成功につなげられるのか。
唯一の被爆国日本が主催する「2010年核軍縮会議」は、もし開催するのであれば、すみやかな核兵器廃絶を明確に目標に掲げ、その実現に欠かせない根本的な諸措置について国際的な合意を得る交渉の場でなければならない。
この会議が核兵器廃絶への新味も効果もない、形ばかりの準備のためのセレモニーとなるようなことがあれば、それは事実上、今日の世界的な非核・平和の流れに水をさし、足を引っ張ることにさえなりかねないと言わざるをえない。
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