第63回国連総会:核兵器廃絶決議に圧倒的な支持集まる
─NPT再検討会議への関心を背景に─ |
藤田 俊彦(前長崎総合科学大学教授、常任世話人) |
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第63回国連総会は12月初め、核兵器廃絶や核兵器条約締結などを求める一連の核兵器関連決議を採択した。とくに、核不拡散条約(NPT)再検討会議を2010年に控えて、核軍備撤廃約束の実行を加速しようと訴える決議が圧倒的な賛成を集めて注目された。
昨年9月中旬に始まった今回の国連総会は、大統領や首相による本会議での一般討論演説のあと、軍縮・国際安全保障担当の第1委員会を開き、60本近い決議案を4週間にわたる論議のすえ承認した。そのうちほぼ半数が核兵器に関する案件で、いずれも本会議で可決・採択された。
第1表は主な核兵器関連の決議23件について、投票結果のほか、アメリカから日本まで18ヵ国の投票行動をまとめている。第2表は表決された20件について、各国の投票行動を賛成の度合いでランク付けしてみた。
以下、今回の国連総会の核兵器に関する決議について、その概要を検討したい。
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| ■核兵器廃絶の決議、賛成票を伸ばす |
新アジェンダ連合7カ国を代表して南アフリカが「核兵器のない世界にむけて、核軍備撤廃公約の実行を加速する」決議を提出した。これは、2000年NPT再検討会議のさい、核兵器全面廃棄の「明確な約束」を核兵器国から引き出すうえで決定的な役割を果たした同連合ならではの決議であった。決議は投票総数の93%の賛成──前回を10票も上回った──で採択された。明年のNPT再検討会議を控えて、国連加盟国はこれまでにも増して新アジェンダ決議を評価した。
日本が21ヵ国の共同提案国を代表して提出した決議「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」は賛成95票で採択された。決議は、究極的核兵器廃絶の立場にたって、核兵器国の賛同を得ながら、核兵器の不拡散と削減を追求し、徐々に核兵器廃棄に接近するよう訴えた。それは、NPTのすべての義務を履行することを強調し、加盟国にたいし同再検討会議の成功に貢献するよう求めた。決議は、核兵器廃絶の4決議のうち今回も最多の賛成票──前回比3票増──を集めた。
非同盟諸国32ヵ国を代表してインドネシアが提案した決議「核軍備縮小撤廃」およびマレーシアが同じく56ヵ国を代表して提案した決議「核兵器条約締結」はそれぞれ前回とまったく同じ数の賛成票を集め、支持率は65%と71%であった。インドネシア決議は、「核戦争防止の唯一の絶対的保証は核兵器廃絶である」との立場から、核兵器国の核軍備縮小の停滞を批判し、ジュネーブ軍縮会議での交渉開始を要求するとともに、NPT再検討会議での協議にも言及した。マレーシア決議は1996年国際司法裁判所の勧告的意見に従って、核兵器の禁止・廃棄を定めた条約の締結交渉を開始するよう求める決議である。
これら4決議の合計賛成票数は近年、漸増傾向をみせ、第60回=560票、第61回=564票、第62回=570票であったが、今回は13票増加して第63回=583票となった。新アジェンダ決議への評価とNPT再検討会議への期待の高まりを反映したと見られる。なお、インドネシアなど一部の国は、名指しを避けつつも米印間民生用原子力協定に言及して、NPT体制を破壊すると非難した。しかし、大きな論争は起こらなかった。
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| ■核兵器関連個別課題の諸決議 |
核兵器使用禁止決議(インド提案)と非核兵器国に対する核兵器不使用の確約に関する決議(パキスタン提案)は従来同様3分の2の賛成を集めた。包括的核実験禁止条約の早期発効を求める決議(メキシコ提案)は賛成98%で採択された。
核戦力作戦準備態勢を低減する決議(スイス提案)は前回を上回る95%超の賛成を集めた。核分裂性物質生産禁止条約の交渉を開始する決議はカナダが準備したものの、アメリカと他の諸国の見解の隔たりが大きく、提案はまたも見送られた。
インド決議からスイス決議にいたる4件は核兵器廃絶の決議と同様、NPT会議の論議の対象となる案件であり、国連総会の表決実績が核兵器国に対して一定のインパクトをもつのではないかと見られている。
宇宙空間での軍備競争防止と透明性の保持に関する決議(いずれもロシア提案)が今回も満場一致に近い賛同を得た。しかし、またもアメリカ1国が反対し、イスラエル1国が棄権した。米露軍備競争を拡大しかねない火種が燻っている。
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| ■米ブッシュ政権、負の遺産を残す |
アメリカのブッシュ大統領は、総会本会議の一般討論演説で、もっぱら核兵器の不拡散の必要を強調し、核軍備撤廃には触れずに終った。また、米国連代表団の大使は、第1委員会で、アメリカの核軍縮実績を自画自賛しつつ、現状において核軍備は「妥当性」があると強弁した。
ブッシュは、8回目で最後の国連演説を対テロ戦争の美化にあて、22分間の演説の中で「テロ」に32回そしてイスラム「過激派」に8回も言及した。それは、核開発を進めるイランに対して標的を絞った非難・攻撃であり、イラクに発動した単独行動主義への執着の表現でもあった。
ブッシュは、北朝鮮の核開発についても批判したが、6ヵ国協議を肯定的に言及するなど、イランとは区別した。イランや北朝鮮とは対照的に、かれは米英の工作によるリビアの核兵器計画放棄を褒めちぎったが、この演説のなかで「核兵器」という単語を使ったのはここ1ヵ所のみであった。
アメリカの核兵器固執は核兵器関連決議における投票行動に明白であった。第1表に見るように、アメリカは2つの決議に賛成したのみで、他の18決議にすべて反対した。しかも、アメリカが提案・賛成した2決議──核兵器関連協定の遵守および軍備透明性──にアメリカ自身、忠実であるか、極めて疑わしい現実が残る。
また第2表に見るように、アメリカは諸決議にもっとも否定的で最下位にとどまり、次いでその核兵器保有同盟国イスラエルと英仏が続き、さらに核兵器不保有の同盟国カナダ、オーストラリア、(ロシアをはさんで)ドイツ、韓国が続く。
対照的に、今回もマレーシアとメキシコはすべての決議に賛成して最上位タイ、そのあとイラン、ニュージーランドが続き、さらに中国、パキスタンが続く。そのあとに日本が北朝鮮とインドをわずかに上回って7位であった。唯一の被爆国は、核兵器なき世界の理念とアメリカ追随の基本姿勢のはざまに揺れており、核兵器廃絶の国際的なリーダーシップを取れないでいる。
なお、ブッシュを継いでオバマ大統領が1月20日、就任した。オバマ・ホワイトハウスは、内外政策に関する長大な文書をホームページに掲載し、対外政策の部分で「核兵器」の項目を挿入している。
それによると、オバマ政権は、@核兵器のない世界という目標を設定し、追求する。A核兵器が存在するかぎり、強力な抑止力をつねに維持する。Bしかし、さまざまな措置を講じつつ、核兵器の廃絶に向かって長い道を進むであろう。
オバマの核兵器政策がブッシュのそれと著しく異なるものになりうる方針が公約されている。アメリカにたいして、唯一の被爆国日本は、政府レベルでも草の根レベルでも、早急な地球規模の核兵器廃絶を求めて働きかけを強めねばならない。
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| ■国連事務総長の講演──おわりに |
潘基文国連事務総長は、第1委員会で核兵器問題が討論されている最中の10月24日、米民間研究所主催の集会で講演し、次の諸点を指摘した。
@NPT加盟国とりわけ核兵器国は核軍備撤廃へと導く効果的な措置に関して交渉すべきである。A安保理常任理事国は核軍備撤廃プロセスに関する5ヵ国首脳会議を開催できるのではないか。BCTBTを発効させ、カットオフ条約交渉を進め、非核兵器地帯の発効を促進するなど、「法の支配」が貫徹されねばならない。C説明責任と透明性が不可欠であって、核兵器総数についての信頼すべき推定値の欠如は「透明性向上の必要の証」である。
潘事務総長は、国連憲章の精神に立ち返って核兵器なき世界の実現に努めようと訴え、「核軍備撤廃が進めば、世界は進む」と結んでいた。
核兵器全面廃棄など核兵器関連の総会諸決議は、実際、法的拘束力を欠くものの、こうした国連事務総長提案と結びつけてNPT再検討会議などで論議されるならば、核兵器のない世界への道はより確かに切り開かれていくのではあるまいか。
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