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 ●日本政府の動向
 
核保有国も日本政府もNPT合意の誠実な履行を
野口 邦和(元日本大学准教授) (2021.10.15)


 ■核不拡散条約は核軍備
 撤廃・不拡散体制の要

 核軍縮・不拡散体制の要として知られる核不拡散条約(NPT)は、1967年1月までに核兵器をもった米ロ英仏中を「核兵器国」と規定し、世界各国を核兵器国と非核兵器国に二分した。NPTの目的は、非核兵器国への核拡散防止、核軍備縮小撤廃交渉の誠実な実行、原子力平和利用のための国際協力の促進で、1970年3月に発効した。締約国数は191国・地域(2021年10月現在)で、非締約国は核保有国のインド、パキスタン、イスラエルと南スーダンに限られる。2003年1月に北朝鮮がNPTからの脱退を宣言したが、国際原子力機関(IAEA)理事会も国連安保理も脱退を認めていない。核拡散は否定されなければならないが、すでに核兵器をもった国の特権を温存する点で、NPTが差別条約であるとの批判は当初からあった。

 ■再検討延長会議を
 境に変貌

 第10条2にもとづき、条約発効25年後の1995年4〜5月の再検討延長会議でNPTは無期限延長された。しかし、「核兵器国」も譲歩を余儀なくされ、運用検討プロセスの強化に関する決議、核不拡散と核軍備縮小撤廃のための原則と目標に関する決議[核分裂性物質の製造禁止条約(FMCT)の交渉開始もこの決議で約束]、中東非核兵器地帯創設に関する決議などが採択された。無期限延長が、核兵器の無期限保持を正当化するものでないことは明らかである。
 差別条約である、核兵器国の垂直拡散について規定していない、非核兵器国が核保有を放棄したことに対する代償としての非核兵器国の安全保障について規定していないなど、NPTの欠陥は依然存在するが、1995年の再検討延長会議を境に、NPTはその欠陥を補う形で前進している。
 たとえば運用検討プロセスの強化に関する決議により、5年に1度行われる再検討会議に先立つ3年前から準備委員会が毎年開催され、NPTの履行状況などを全面的に検討して合意事項を取りまとめて再検討会議に送付し、効率的で実りある議論が再検討会議で行われるようになった。筆者にも、非核兵器国が核兵器国による核軍備撤廃の進展を追及する場に再検討会議が変貌したように見える。準備委員会や再検討会議で核兵器国に核軍備撤廃・不拡散の約束を迫る激論の中で、核兵器国の譲歩やNPTの変貌は生まれたのである。

 ■再検討会議で合意
 されたもの

 1998年5月にインドとパキスタンが相次いで地下実験を強行し、核軍備撤廃・不拡散体制が危機にさらされた2000年再検討会議では、核軍備縮小撤廃交渉の誠実な実行を謳った第6条履行のため、「核軍備撤廃につながる、核兵器[貯蔵庫]の全面的除去を成し遂げるという、核保有国の明確な約束」の文言が最終文書に盛り込まれた。最終文書は多数決方式ではなく全会一致方式で採択されるもので、歴史的な合意が核兵器国を含めてなされたと言える。2005年再検討会議では、核兵器国と非核兵器国が鋭く対立し、最終文書を取りまとめることができなかった。
 2010年再検討会議は、前年に登場したオバマ米大統領がプラハで「核兵器を使用したことがある唯一の核保有国として、米国には行動する道義的責任がある」と演説するなど、「核兵器のない世界」への機運が高まる中で開催された。2000年合意の「明確な約束」の再確認、核兵器の数と役割の低減、中東非核兵器地帯創設に関する国際会議開催などを含む最終文書(行動計画)が合意された。
 2015年再検討会議では最終文書は合意に至らなかったが、核兵器禁止条約についてNPT会合史上初めて正面から論議された。「最終的には」との条件付きで、核保有国と核依存国の多くが禁止条約の必要性を認めたことは大きな成果と言える。

 ■NPT合意の誠実な
 履行を

 2020年再検討会議はコロナ禍のために延期され、2021年1月に開催される。どのような成果を引き出せるか予測不能だが、これまでの再検討会議で核兵器国を含めて合意されてきたことを誠実に履行することを核兵器国には求めたい。
 岸田文雄首相は先の所信表明演説で、「被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは、『核兵器のない世界』です」と明言した。それなら日本の安全保障政策を核兵器禁止条約により禁止された違法な「核の傘」に依存するのではなく、これまでにNPTで合意されたことを誠実に履行するのが筋ではないか。