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 ●日本政府の動向
 
日本政府はなぜ核兵器禁止条約に参加できないか
野口 邦和(元日本大学准教授) (2021.9.15)

 言行不一致の極み
 教科書に出してよい言行不一致の極みを目にした。中国共産党創立100周年記念式典における習近平総書記の演説である。朝日新聞7月2日付記事は演説骨子として、「覇権主義と強権政治に反対し、歴史を前進させる」と伝えており、我が目を疑った。念のため演説全文を掲載した日本経済新聞で確認したが、間違いではない。厚顔無恥に過ぎる。
 日本共産党の志位和夫委員長も仰天したようで、即日「東シナ海や南シナ海でのふるまいを『覇権主義』と呼ばずして何と呼ぶのか。香港やウイグルへの人権侵害を『強権政治』と呼ばずして何と呼ぶのか」とツイートした。
 習近平政権と比肩できる言行不一致の極みを体現する政権は、日本にもある。安倍晋三政権と同政権を継承した菅義偉政権である。両政権による言行不一致の事例は枚挙にいとまがないが、ここでは表題の「日本政府はなぜ核兵器禁止条約に参加できないか」に焦点を絞って論ずる。

核兵器禁止条約(TPNW)と日本政府の考え
 日本政府は、米国の核兵器により自国の安全を守る拡大核抑止政策(「核の傘」)に依存する一方、目標は核兵器廃絶であると公言する。これぞ言行不一致の極みといえる。外務省HPから、TPNWに対する日本政府の考えを紹介する。
 ―日本は唯一の戦争被爆国であり、政府は、TPNWがめざす核兵器廃絶という目標を共有する。一方、北朝鮮の核・ミサイル開発は、日本及び国際社会の平和と安定に対する重大かつ差し迫った脅威である。北朝鮮に対し通常兵器だけで抑止を効かせることは困難であり、日米同盟の下で米国の核抑止力を維持する必要がある。
 ―核軍縮に取り組むためには人道と安全保障の二つの観点を考慮することが重要であるが、TPNWは安全保障の観点を踏まえていない。TPNWに参加すれば、米国による核抑止力の正当性を損ない、国民の生命・財産を危険にさらすことを容認することになりかねない。
 ―TPNWは、核保有国のみならず、日本と同様に核の脅威にさらされている非核保有国からも支持されていない。
 ―日本政府としては、国民の生命と財産を守る立場から、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、現実的な核軍縮を前進させる道筋を追求する。核保有国やTPNW支持国を含む国際社会における「橋渡し役」を果たし、現実的な取り組みを進める。
 次に、上記の日本政府の考えについて批判的に検討する。

核廃絶の目標を本当に共有しているか
 政府は唯一の戦争被爆国として、TPNWがめざす核兵器廃絶という目標を共有すると事あるごとに言う。本当にそうだろうか。米国の核抑止力に依存する安全保障政策を採用している政府が、核兵器廃絶を目標にできるはずはない。言葉と行動の間に不一致がある場合、筆者は言葉より行動で相手の真意をはかることにしている。なぜなら言葉は嘘をつくが、行動は嘘をつかないからである。核抑止政策は、いざという時に核兵器を使用することを前提に安全保障政策を組み立てている。核兵器の使用を禁止された途端、核抑止政策は成り立たなくなる。日本政府がTPNWに参加できない理由はここにこそある。表向きは唯一の戦争被爆国としてTPNWのめざす核兵器廃絶の目標を共有すると言わざるをえないが、米国の核抑止力に依存する安全保障政策を採用しているため、核兵器廃絶に尽力する気はないしTPNWに署名・批准するつもりはないというのが日本政府の真意である。
 北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威があるから米国の核抑止力を維持する必要があると言うが、これもフェイク(嘘)である。むしろ1991年12月のソ連解体により後ろ盾を失ったことを契機に、韓米・日米間の「核の傘」の脅威が90年代以降、北朝鮮を核・ミサイル開発に向かわせた。核抑止こそが北朝鮮の核拡散を誘発したのである。それゆえ、朝鮮半島の非核化には北朝鮮の非核化措置が不可欠であるとしても、日本と韓国が依存する「核の傘」問題を北朝鮮の非核化問題と一体の課題として取り組まなければならない。

いま私たちに求められるもの
 核兵器の存在は、人類の生存に対する最大の脅威である。それゆえ、国連はその創立時から核兵器の廃絶を一貫して追求してきた。しかし、核抑止力を根拠に、世界には今なお1万3000発を超える核兵器が存在する。核兵器で威嚇しあうことは、核兵器使用のリスクを高めるものでしかない。核抑止力の危険な幻想から脱却すべきである。
 今年1月に発効したTPNWにより、核兵器は道義的に避難されるだけでなく、国際法上も史上初めて違法な存在となった。昨年12月の国連総会では、TPNWを促進する決議が、加盟国の3分の2を超える130ヵ国の賛成により採択された。反対したのは核保有国、NATO加盟国、日本・韓国・オーストラリアなどNATO加盟国以外の「核の傘」依存国の42ヵ国でしかない。
 いま私たちに求められていることは、発効したばかりのTPNWに署名・批准する国を増やし、TPNWの国際条約としての規範力を強化することである。核保有国政府とその国民に核兵器使用の非人道性を強く訴え、核抑止力に依拠する安全保障政策からの政策転換を迫ることである。我が国について言えば、唯一の戦争被爆国と言いながらTPNWに反対する政府に対し、「核の傘」からの離脱を迫ることである。間近に迫っている今秋の総選挙において、被爆国にふさわしく、TPNWに署名・批准し、核兵器廃絶の先頭に立つ政府が誕生するよう奮闘しようではないか。