新型コロナウイルス感染症対策と法治主義・地方自治をめぐって論議
非核政府の会核問題調査専門委員会(2020.9.17)
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非核の政府を求める会・核問題調査専門委員会の例会が9月17日、開かれ、専修大学教授の白藤博行さんが、「新型コロナウイルス感染症対策と法治主義・地方自治」と題して報告、論議しました。白藤さんの報告(要旨)を次に紹介します。 (文責・編集部)
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新型コロナウイルス感染症対策本部は今年の1月30日に設置されました。その時は閣議で決定されて設置されただけで、法律上の組織でも何でもなかったわけです。それが「新型インフルエンザ感染症等特別措置法」によって法的な根拠が与えられます。特措法の第15条で「内閣総理大臣は、…新型インフルエンザ等にかかった場合の病状の程度が、感染症法第6条第6項第1号に掲げるインフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度以下であると認められる場合を除き、内閣法第12条第4項の規定にかかわらず、閣議にかけて、臨時に内閣に新型インフルエンザ等対策本部を設置するものとする」として、閣議で例外的に定めることができるという規定を行いました。
▼「特別措置法」の仕組み
[目的]…同特措法がややこしいのは、マスコミなどに厚生労働大臣が出てこないで、経済産業大臣が出てくることです。その理由は、特措法第1条の[目的]で「…新型インフルエンザ等の発生時において国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすること」としているからです。
この特措法は内閣官房と厚労省が共同所管している法律で、だから内閣官房の代表として西村経産大臣が担当しているのです。
[定義]…新型コロナウイルス感染症というのは、そもそも感染症の中で何の位置づけもなかったのです。あわてて感染症法にかかわる政令を改正して、政令でコロナウイルス感染症を指定感染症の1つに入れたわけです。指定感染症に指定されると、感染症法上、公権力の行使ができます。
その後、特措法を改定して、特措法のほうの新型コロナウイルス感染症を指定対象にした。その時は、附則を改正して、新型コロナウイルス感染症を無理矢理、特措法上の新型インフルエンザ等感染症とみなすという「みなし規定」を置いた。特措法上は感染症とみなしているだけです。
その後、特措法の一番中心になる、「新型インフルエンザ等への基本的な対処方針」(「対処方針」)を定めた。これは、歯止め、根拠となる大事な条文です。
政府対策本部長・内閣総理大臣の権限も書いていて、いわゆる総合調整権だけで、直接、何かを実施するというわけではない。ここも大事な点です。
政府対策本部長は新型インフルエンザ等で「緊急事態宣言」を出せるとする第32条は、緊急事態宣言の根拠条項です。
対策本部長たる内閣総理大臣は何もできないので、都道府県の協力を得なければなりません。実働部隊は都道府県です。だから、第45条で都道府県にも対策本部を置いて、施策に対する必要な指示ができるという条文が置いてあります。
▼緊急事態宣言の発令と解除後の法治主義
日本は法治国だと言われますが、特措法や特例法がものすごい数になっていて、原則は何なのかが問われる由々しき現状です。
実は、法治主義というけれど、もっぱら政令、省令などの法規命令が細かいことを決めている。立法権は、憲法41条で国会が唯一の立法機関となっていますが、それだけでは間に合わないとして、行政権なのに立法権を委ねられて、内閣が定める法規命令である政令、各省大臣が定める法規命令である省令でいろんなことが決められている。政令法治主義、行政法規命令主義というものが日本の法令主義の実態だと言えます。
それどころか、この間のコロナ対策は、政令、省令が出張ってくる以前の問題で、内閣総理大臣が政府の対策本部長を務めて、そこが定める「基本的対処方針」を基準として動いている。基本的対処方針というのは法律でも法規命令でもありません。単なる行政内部の規則です。だからコロナ対策が、法律のコントロールが利かないところに置かれているのです。
ところが、実はそれすらやってない。「基本的対処方針」は5月25日に変更されたきりまったく変えられていません。どうしているかというと、政府の対策本部決定と言われるものや、対策推進室長の決定にすぎない事務連絡の名前で動かしている。だから法律主義でも政省令主義でも行政規則主義でもなく、担当室レベルの事務連絡で全部が動いているところに注意を向ける必要があります。
いかに法治主義から離れたことをやっているか。例を挙げると、2月28日の第15回新型コロナウイルス感染症対策本部で、安倍首相が突然、「来週3月2日から春休みまで、臨時休業を行うよう要請します」、つまり全国一斉休校しますと言ったわけです。
これはなにか。政府の対策本部長である内閣総理大臣がそういう発言をしたら法的に何か意味があるのか。結論を言うと無です。意味がない。だからその後、あわてて文科大臣が、「新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休業について」という事務次官通知を出しました。
何が問題かと言うと、内閣総理大臣が政府対策本部でつい口走ったことが、全国の小学校等の学校を動かして休校にすることができるのかということです。内閣法6条をみると、内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針であれば閣議決定とか閣議了解を理由にして指揮監督ができます。ところが、内閣総理大臣がつぶやいただけでは、「それが何なのよ」という話になる。法治主義的には、そんなものにみんなが従ってはいけないわけです。
地方自治法は、地方公共団体が処理する事務を、「法定受託事務」と「自治事務」の2つに分けています。学校保健法に従ってやっている市町村の事務は自治事務だから、勝手にやっても構わない。いわんや内閣総理大臣がくしゃみをしたからといってそれに従う法的根拠は何もないのに、みんなこぞってやってしまった。だから、文科省や総理大臣は当然悪いけれども、地方公共団体、とりわけ市町村の教育委員会も何をやっているのかということです。
5月25日以降は、基本的対処方針はもう手付かずの状態で、特措法第18条の基本的対処方針に基づく感染症対策は機能不全を起こしています。感染症対策行政が機能不全を起こせば、政府対策本部長の総合調整も機能不全になり、結局、感染症対策に関する特措法は機能していないということになります。
では何もしていないのかというと、そうではない。法律も法規命令も行政規則も機能していない時に現れたのが、内閣官房に設置された新型ウイルス感染症対策推進室の室長通知です。「今後の感染状況の変化に対応した対策の実施に関する指標及び目安について」として指標や目安が単なる事務連絡で示されたり、結局いろんな取り組みがすべてこの室長の意向で動いているのです。
▼新型インフルエンザ特措法と地方自治
都道府県の本部長は何ができるか。特措法の24条には、内閣総理大臣と同じように総合調整ができるとしていて、どんなことができるかという項目が列挙されています。26条では、必要な事項は都道府県の条例で定めてよいと条例に委任しています。
事務の区分。これは地方自治の最も大事なところで、特措法に基づいて地方公共団体でやる事務は第一号法定受託事務であって、自治事務ではないと書いている。
特措法26条は、地方自治体の自主法である条例に包括的に委任したことで、特措法に基づいて設置された組織が、特措法という国の法律の枠を飛び出して仕事を始めるという面白い事態が生まれる可能性がある。それが許されるなら、地方自治は特措法上は大幅に認められていることになります。
愛知県の例を挙げると、愛知県は最初、感染症対策が必要な特措法上の特定都道府県に指定されませんでした。特措法の対象区域から外されたので、勝手に感染症対策本部を作った。独自の自治事務を行うという形で感染症対策にあたったわけです。
愛知県は、法定受託事務を越えてやった気配があります。本来であれば特措法と特措法施行令で定められた遊興施設しか要請とか指示はできないのだけれども、それを乗り越えて規制対象にした。これも実は、従来の地方自治論では出てこなかった新しい動きだと思います。今後、地方自治のあり方に示唆的な意味をもつかもしれません。
▼怪しい感染症法改定
自民党「感染症対策ガバナンス小委員会」が9月4日に提言を出しました。現行の感染症法は厳しい権限行使ができるのに、政府はなぜかそれを使わずに、特措法一辺倒でやってきました。おそらく経済との両立という、感染症法にはない特措法の独特の目的があって、感染症抑制よりも経済の維持というところに力点があった。そうすると、感染症対策を手がかりにしながら、官邸の司令塔の機能強化論とか、各省大臣の司令塔としての役割強化とか、経団連がめざしているような司令塔強化論に沿う改正を考えているのではないかと思います。 |
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