非核の政府を求める会・2023年新春シンポジウム
21世紀の国際平和秩序と核兵器禁止条約の力#ュ揮の道 |
| 非核の政府を求める会常任世話人会 |
| (2023.1.9) |
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ウクライナ戦争と国際平和秩序
山形 英郎(名古屋大学大学院国際開発研究科教授)
ロシアによるウクライナ侵攻は国際法違反の侵略であるという問題から始めたいと思います。
国際法違反の侵略
ロシアによる侵略の手法はパターン化されています。親ロシア勢力による武装蜂起→彼らが一方的に国家として独立を宣言する→ロシアが国家承認を行い軍事支援を与える→住民投票を実施し、ロシアへの統一を容認する。ロシアのウクライナ侵攻は国連憲章2条4項の武力行使禁止原則違反です。国連総会特別緊急会合決議も侵略行為であると述べています。
ロシアの正当化根拠の「自衛権」
ロシアは自衛権で侵攻を正当化しています。「我々の行動は我々に向けられた威嚇に対する自衛行動である」と個別的自衛権に言及した書簡を安全保障理事会に送っています。
国連憲章51条による自衛権行使には要件があります。武力攻撃の発生、他に取る手段がない状況であることなど5要件です。NATOによる東方拡大が脅威・威嚇を構成し、自衛権の行使が可能になるというのがプーチンの正当化ですが、威嚇と武力攻撃は同じではなく、威嚇で自衛権は正当化できません。
プーチン大統領は声明で「特別軍事作戦の実施を決定した。これは…ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国と締結した友好・協力及び相互援助条約に従ったものである」と集団的自衛権を示唆しています。
集団的自衛権は、個別的自衛権の要件に加えて、▽武力攻撃の被害が生じていることを被害国が宣言すること▽被害国が援助要請することが必要です。
脅威(または威嚇)だけでは武力攻撃を構成せず、ウクライナがルガンスク人民共和国やドネツク人民共和国に対して武力攻撃を行ったという証明がなければ自衛権行使は不可能です。
その前提として、ドネツクやルガンスク人民共和国は国家としてロシアと条約を結ぶことができるのか、そして集団的自衛権の行使を要請することができるのかという問題があります。
ロシア語話者が自決権行使の主体として認められるのかという問題もあります。自決権を行使する権利主体について、「植民地支配下にある人民」「外国支配下にある人民」「人種差別体制下にある人民」のみが国家として独立を達成することが認められています。ロシア側は、クリミアは自決権を行使した結果として分離を達成したと主張しますが、ロシア語話者は自決権の享有主体とは認められない。そのために分離権も認められません。
便宜的な国際法の適用
一方、西側陣営にも同じようなご都合主義的、便宜的な国際法の適用が見られます。問題になるのが旧ユーゴスラビアのコソボ(少数民族)です。コソボで少数民族の国家独立が認められるなら、クリミア半島でもドンバス地方でもロシア系少数民族の独立が認められて当然というのがロシアの論理です。ロシアのウクライナ侵略に正当化の余地はないが、そうした口実を与えてきたのは西側陣営です。双方に便宜的な国際法の解釈や適用があった。
結論は、ロシアによるウクライナ侵攻は明確な国際法違反である。ロシアの正当化根拠としての自衛権は武力攻撃の発生がない以上は許容されない。ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国は独立した国家として認められない。したがって、ロシアと条約を締結することもできずロシアに援助要請を行うことも許されない、ということです。
国際法は、このように大国の都合のよいように利用されていますが、他方、我々一般市民も国際法を武器に、彼らの傍若無人な国際法無視に対して批判の声をあげ、国際法自身を有効な道具として使い切っていく必要があると思います。
核兵器禁止条約の値打ちと「核なき世界」達成の展望――TPNWとNPTの両立性と補完性
黒澤 満(大阪大学名誉教授)
大量破壊兵器に関する条約は、@核兵器禁止条約、A生物兵器禁止条約、B化学兵器禁止条約、の3つあります。日本語では同じ「禁止条約」の呼び名ですが、Aは「細菌兵器、生物兵器、毒素兵器の開発、生産、貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」、Bも「開発、生産、貯蔵、使用の禁止並びに廃棄」と禁止と廃棄を規定していますが、核禁条約は廃棄が入っていません。
NPT第6条の内容
NPT第6条の[nu-clear disarmament]を外務省は「核軍備の縮小」と訳しています。しかし[dis-]は全部なくす意味であり、[disarmament]は軍備撤廃あるいは武装解除という意味です。『P5基本核用語集』では、核なき世界という究極的目標に導くプロセスだとしています。そこには制限も削減も廃棄も入る。それに続いて「核兵器が廃絶された最終状況」と書いています。外務省訳は明らかに誤訳です。
NPT再検討会議での合意、約束
NPT再検討会議は、1995年の会議で、NPTの無期限延長を決めるとともに「核兵器廃絶という究極的目的を持ち、核兵器を世界的に削減する組織的で漸進的な努力を核兵器国が決意をもって追求する」ことを約束し、2000年会議では「自国核兵器の全廃を達成するという核兵器国による明確な約束」を確認しています。2010年会議では「核兵器全廃の明確な約束の履行として、すべての種類の核兵器を削減し全廃することを約束する」ことを確認しています。
昨年の再検討会議では、最終文書案は6回改定されていますが「会議は、核兵器禁止条約が2017年7月7日に採択されたことを承認する。それは国連事務総長により2017年9月20日に署名のため開放され、2021年1月22日に発効し、第1回締約国会議が2022年6月21-23日に開催された」との記述が最後まで残った。だから、核兵器禁止条約が存在することは、核兵器国もみんな認めているわけです。私は一般的な合意があると理解しています。
TPNWとNPTの両立性と補完性
核禁条約とNPTについての肯定論は、論理的推論と法的推論です。つまり、NPT第6条は、核兵器廃絶の交渉を誠実に行う義務を規定しているし、再検討会議ですべての核兵器の削減と全廃を約束している。去年の再検討会議は、全体的には核禁条約の存在を承
認しています。
否定論のP5は核禁条約は世界の戦略的文脈を無視している∞NPTに貢献してきたコンセンサス方式を危うくする≠ネどと主張しています。
肯定論は主として法的側面、論理的側面から議論を展開し、否定論は主として政治的側面、安全保障の側面から議論を展開している。国際法的に考えれば、肯定論が成立するけれども、否定論は好き嫌いで反対している。NPTあるいは国連における特権的地位を維持したいからです。
今後の課題
核禁条約推進派の諸国は、条約加入国の増加をめざすべきです。その候補の第一は、非核兵器地帯条約の締約国116ヵ国。第二は、核同盟に入っていない非核兵器国です。
第1回締約国会議にはNATO加盟国のドイツ、ノルウェー、オランダなどがオブザーバー参加し、核禁条約には入れないが、条約の目的や趣旨には賛成だし、最終的に核兵器を廃棄することには賛成だ≠ニ言っています。日本政府は次回の会議に必ずオブザーバー参加すべきです。
締約国が増加すれば、核兵器に悪の烙印を押し、正当化できないことをはっきりさせられる。核兵器禁止条約の値打ちはものすごくあるし、核なき世界の達成の展望も、こういう方法で行けば可能だと思います。
安保法制下で危険増す沖縄・南西諸島の戦場♂サ
吉田 敏浩(フリージャーナリスト)
日米両政府は、台湾有事などに備え、日米軍事同盟の強化で合意しています。岸田政権が昨年12月に閣議決定した「安保3文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)は、敵基地・敵国攻撃能力の保有を柱とする大軍拡を進める内容です。中国領土まで届く戦力、他国に軍事的脅威を与える攻撃性の高い兵器の保有は、従来の専守防衛の原則を逸脱するもので、憲法9条違反です。
仮に中国と台湾の武力衝突が起き、台湾有事となれば、日本は、安保法制の重要影響事態法や武力攻撃・存立危機事態法にもとづき、集団的自衛権を行使し、自衛隊が米軍に協力して戦闘することになります。日本が戦争当事国になる危険性を、軍事同盟強化と大軍拡はもたらします。
沖縄、日本が戦場となる危機
政府・自民党は、敵基地攻撃能力の攻撃対象を敵国の「指揮統制機能等」へと拡大し、それを可能とする兵器体系を整えようと企てています。
集団的自衛権の行使として、米軍とともに第三国を先制攻撃することもありえます。仮に台湾有事となり、米軍が在日米軍基地から軍事介入し、自衛隊も米軍に協力すれば、米軍基地や自衛隊基地は、当然中国側からミサイルなどで反撃を受けます。沖縄はじめ日本が戦場となってしまいます。
「台湾有事は日本の有事」と短絡的に考える軍事力一辺倒で、軍拡競争と緊張・対立がエスカレートした揚げ句、戦火を誘発し、沖縄や南西諸島、日本全土がミサイル戦争の戦場と化すリスクも高まります。
対中国の軍事戦略・日米軍事同盟強化の最前線として位置づけられているのが沖縄です。沖縄戦の体験者は「基地の存在が戦争を招く」「軍隊は住民を守らない、軍は軍そのものを最優先する」と語っています。
戦時の住民避難、住民保護は国民保護法にもとづき、自治体が担うとされています。南西諸島の多くの島々に住む人々のための十分な船や飛行機の手配は現実的には不可能です。沖縄だけではなく日本全体が米国防衛のための捨て石にされかねないのです。
為政者は、戦争で死傷者が出ると、自国の防衛や国益のための「やむをえない犠牲である」と、戦争を正当化しようとします。
「台湾有事は日本の有事」の裏に米国の軍産複合体
「やむをえない犠牲」論の背後には、戦争で利益を得る政治家・軍人・官僚・企業が一体となった構造があります。対中国の軍事同盟強化と軍拡は、米国の軍産複合体にとって望むところでしょう。
米国は、軍隊と軍需産業が結びついた軍産複合体が政治を動かし、膨大な軍事予算を獲得して武器を生産・輸出しています。軍産複合体の利益を重視する米国にとって、対中封じ込めの日米軍事同盟強化は、日本や台湾に大量の武器を売りつけるチャンスなのです。
沖縄戦の記憶に根ざした「命の視点」を
政府やマスメディアが流布する中国脅威論に影響され、辺野古の新基地建設や南西諸島への自衛隊配備の拡大もやむをえないという考えが見られます。しかし、沖縄、南西諸島の人々の視点からは、米中、日中が軍事衝突したら、自分たちの地域が再び戦場にされてしまうことこそが現実です。
日本のやるべきことは、「台湾有事は日本の有事」論をあおって、日本戦場化のリスクを高めるのではなく、米中両国に対して台湾問題を軍事力で解決しないよう自制を促すことです。憲法9条を持つ日本は、日米安保・日米同盟という軍事同盟一辺倒の軍拡競争ではなく、紛争回避・予防のため、ASEAN(東南アジア諸国連合)とも連携を深め、外交努力にもとづく、東アジア各国間の対話と信頼醸成による安全保障の実現をめざすべきです。
BAN IS OUR CHOICE――核兵器のない世界を選択する
中村 涼香(「KNOW NUKES TOKYO」共同代表・上智大学生)
私たちがどんなビジョンを持ち、どんな世界を望んでいるかについて話します。
核兵器禁止条約の初めての締約国会議が行われて、その中で私たちにできることもたくさんあると感じています。核兵器のない世界を自ら選択していくという思いで、「BAN IS OUR CHOICE」というタイトルを付けました。
私は長崎出身で、被爆3世です。母方の祖母が被爆者です。核兵器のない世界をめざす活動を続けていくために、新しい切り口でとの問題意識で、大学進学と同時に上京してきて「KNOW NUKES TOKYO」を立ち上げました。
「KNOW NUKES TOKYO」という名前には、3つの意味を込めています。一つ目はNO NUKESで、核のない世界をめざす。二つ目はKNOW NUKESで、今も1万2000発以上の核兵器が存在する世界に生きている当事者として学んでいこう。三つ目は、若手は卒業や就職で持続的な活動がむずかしい状況があるなか、これを自分たちの生業にしていくことで新しいスタンダードをつくっていきたいとの思いです。
国会議員面会や模擬締約国会議などの活動
私たちは議員面会プロジェクトの活動をしています。国会議員の皆さんに核兵器禁止条約に対する立場をインタビュー形式で伺うものです。面会してお話を伺うと、個人的な思いや考え方がぽろぽろと出てきます。そういった部分を可視化させれば、議論が活性化され、私たち有権者が、自分たちの代表者として国会に誰を送るのかという判断材料を集められると思ってこの企画を進めています。
被爆者の方々の高齢化が進むもとで、その体験を受け継いでいくためにオンラインを活用した証言会を開催しました。
また、締約国会議が開かれる1ヵ月ほど前に模擬締約国会議を行い、40人ぐらいの大学生・高校生が集まって、締約国会議がどういうふうに議論されていくのかと話し合い、最終文書を採択しました。ユニークな点として、被爆の実相はむごいものなので、被爆体験を継承する私たちのメンタルケアが必要だということを最終文書に含めました。
締約国会議で「被爆国日本」をアピール
昨年6月にウィーンで開かれた核兵器禁止条約第1回締約国会議に私たちも参加してきました。
前日に開かれた非人道性会議では、私も日本の若者としてスピーチしました。スピーチの最後に日本政府に対して、「締約国会議に参加しないことを残念に思います」と話したときに、会場から大きな拍手が起きました。世界中が、日本がこの条約に参加することを待ち望んでいることが明らかになった瞬間でした。
メインの締約国会議では、世界中のアクティビストが外交官に直接声をかけていくアドボカシー活動を行っていました。私たちは、条約の第6条と7条にかかわる核被害者援助や環境修復について声をかけました。
ヨーロッパの小国、マルタの大使は、核禁条約の普遍化、核保有国がこの条約に参加するところに焦点を当てた発言をしていました。私たちが、「マルタからぜひ6条と7条に関しても積極的に働きかけてください」と言ったら、本国に持ち帰りますとしっかり対応してくれました。
私たちの次の目標は、「NUCLEAR BAN FORUM」を日本で開催することです。日本で核兵器のトピックをジェンダーや環境の側面から言及されることは多くないと思います。でも、これは重要な視点だし、そこに集う人たちが横のつながりを強めていく会にできたらと思っています。4月30日に門前仲町の会場で200人規模のものにしたいと思っています。
岸田政権の「戦争国家づくり」――戦後最悪の逆流を許さない
笠井 亮(常任世話人・日本共産党衆議院議員)
4点報告します。
一点目は、実感として核兵器禁止条約で世界の新しい景色が見えてきたことです。私は6月の核禁条約第1回締約国会議、8月の核不拡散条約(NPT)第10回再検討会議に行ってきました。ロシアの核使用の威嚇に対するきびしい批判、核保有国全体の姿勢に強い批判がありました。
締約国会議では「ウィーン宣言」が採択され、NPT会議でも、最終文書は1ヵ国だけの異論で採択されなかったものの、核兵器禁止条約を「認識」すると明記し、この条約の力が発揮されていました。一部の大国ではなくて、すべての国が主役であるということ、その中で被爆者、市民社会、若い世代が大いに活躍しているという大きな変化を感じました。
目をふさぎ、妨げる役割担う日本政府
日本政府が昨年秋の国連総会に出した核兵器決議は、核保有国に「究極的に」廃絶へ「さらなる努力」を求めただけです。これに非保有国から批判が出され、日本政府は「橋渡し」どころか「分断を広げた」との指摘もありました。日本政府は、自らの決議案で禁止条約の「第1回締約国会合が開催されたことに留意し」としながら、禁止条約参加を呼びかける国連決議には反対しました。
戦争国家づくりねらう「安保3文書」の危険
岸田政権は昨年12月16日、「安保3文書」を閣議決定しました。中心問題の敵基地攻撃能力保有は、歴代の政府見解に照らしても憲法違反です。それをやろうとするのに、国民的議論も国会議論もない。「勝手に決めるな」「戦争だけはごめんだ」の怒りが、全国どこでも広がっています。
今回の「安保3文書」は、米国の国家安保戦略や国家防衛戦略やNPR(核態勢見直し)に呼応したものです。「NPR」では核抑止力は「引き続き米国の最優先事項」であり、日本や韓国など同盟国の「核の傘」を強化すると定めました。
この米国の「核の傘」にしがみつく政権のもとで、「核密約」が働く危険があるのではないか。「非核三原則」の国是のもとで、国民に隠れて核兵器を持ち込む動きに対して国民による監視、密約廃棄の課題が重要になると思います。
東アジアで進む包摂的な平和の枠組み
『中央公論』1月号に神奈川大学教授の大庭三枝さんが、ASEANが包含的(インクルーシブ)な外交を展開しており、「ASEAN、インド太平洋アウトルック」が非常に大事だと紹介しています。
戦争の心配のないアジアをつくるため、ASEANの経験にも学びながら、中国などすべての国を包摂する平和の枠組みをつくる。その先頭に立ってこそ憲法9条を持つ日本です。
締約国会議に、NATO加盟国のドイツ、ノルウェーがオブザーバー参加し、「立場の違いはあるが建設的対話を続けたい」と発言して注目されました。同盟国のオーストラリアはこれまで5年間、核兵器禁止条約をめぐる国連決議に反対していましたが、昨年5月に政権交代して今回は棄権に回って注目されています。
「大軍拡反対」の一点で国民的多数派を
岸田政権の大転換の暴走に対して、タレントのタモリさんが年末のテレビで「新しい戦前になるんじゃないか」と言い、ラサール石井さんは、「ずっと『永遠の戦後』を続けなければ」と新聞紙上で語りました。
5年間で43兆円にローン払いを含めたら60兆円になる「異次元の軍事費拡大」。財源は大増税、社会保障カットになってくるということで、こんな大軍拡はゴメンだという民の声が全国どこでも広がっていると思います。
「唯一の戦争被爆国政府は、核禁条約署名・批准、平和外交で世界の先頭に立て」と、大いに声をあげてがんばっていきたいと思います。 |
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