「ロシアのウクライナ侵略を国際法で裁く」のテーマで論議
非核の政府を求める会核問題調査専門委員 |
| (2022.4.21) |
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非核の政府を求める会核問題調査専門委員会の例会が4月21日、開かれ、松井芳郎・名古屋大学名誉教授が「ロシアのウクライナ侵略を国際法で裁く:日本の立場にも触れて」と題して講演。活発に論議しました。
松井さんの報告(要旨)を紹介します。
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〈「国際法違反」論の偏在とその意味〉
今回のロシアによるウクライナ侵略は国際法違反の暴挙だと言われていますが、どの点で国際法違反かという議論はそれほどされていない感じがします。それに加えて、「国際法違反だと言っても侵略は止まらないではないか」「国際法なんて役に立たない」という評価も根強くあります。それに答えていくためには、この侵略が国際法のどの原則や規則に違反しているのかを検討することが必要です。
まず、国際法というのは役に立つのか。結論的に言うと、国際法というのは、我々がある事件、事態を判断するための客観的な基準を与えてくれる。これが主要な役割です。判断の基準が主観的なものでは人々の共通の基準にはならない。これに対して国際法自体は諸国民が共通して認める客観的な基準として役に立つということです。
したがって、ロシアの侵略が国際法に違反するという判断は、それにもとづいて人々が連帯して国際世論を形成していくための手がかりになります。
〈ロシアは「特別軍事作戦」の法的根拠をどのように説明したか〉
ロシアは「特別軍事作戦」の法的根拠をどのように説明したか。私の知るかぎりまとまった根拠を説明したものはありませんが、侵攻直後のプーチン大統領の演説や国連でのロシア代表の発言を見ると「目的」などとして言われているのは主に3点に整理できます。
第1点は、自衛権の行使です。プーチン氏は、自衛権を規定している国連憲章51条に言及しています。ロシアのこの自衛権主張には2つの側面があります。一つはロシアが承認したと言っている、ウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」からの要請にもとづく「集団的自衛権の行使」という説明です。もう一つは、ロシア自身の「個別的自衛権の行使」という説明です。
第2の根拠は、「ジェノサイドの防止」ということです。プーチン氏は、この作戦の目的はウクライナの政権から東部諸国が受けてきた屈辱、ジェノサイドから人民を保護することだと言っています。ただ、ジェノサイドが具体的にどこでどのように行われたかの状況は示されていません。
さらに究極的な目的として、プーチン氏は、ウクライナの非軍事化と非ナチ化を追求すると言っています。ウクライナの体制変更を意図していることが理解されます。
〈ロシアの主張の国際法的な評価〉
では、ロシアの主張の国際法的な評価はどうか。
(1)武力行使禁止原則違反
国連憲章の2条4項の武力行使禁止原則に明らかに違反しています。国連総会の侵略定義決議があります。その中で1国の軍隊による他国の領域に対する侵入もしくは攻撃の結果としての軍事占領、または武力の行使による他国の領域の全部もしくは一部の併合が侵略行為であって、政治的、経済的、軍事的またはその他のいかなる性質の事由も侵略を正当化するものではないという規定です。ロシアの行為は教科書的な侵略行為にほかならない。
2条4項違反ということでは、核兵器使用の威嚇も問題です。国際司法裁判所の核兵器使用の合法性に関する勧告的意見の中で、武力行使自体が違法であれば、違法な武力を行使するという威嚇も違法であると言っています。ロシアの核使用の威嚇は、憲章2条4項の武力による威嚇に該当するわけです。2017年採択の核兵器禁止条約では核兵器使用の威嚇が明文で禁止されています。
では、違法な武力行使に対して、違法性阻却事由があるかどうか。
第1に、ロシアが明文で引用している国連憲章51条の自衛権についてですが、国際司法裁判所の判決は、自衛権行使を主張する国は、相手国によって自国に対して国連憲章第51条と慣習国際法にいうところの武力攻撃が行われたこと、自国の行動はこの武力攻撃に対して必要かつ均衡がとれたものであること、攻撃対象は正当な軍事目標であることを証明しなければならないとしています。しかしプーチン氏は、自国に対してウクライナが武力攻撃を行ったとは主張していない。ロシアがウクライナから永続的脅威を受けており、これに対して自らを守るために行動していると言っている。武力攻撃を伴わない単なる脅威は、自衛権の発動を正当化しません。
第2に、ロシアはウクライナによるジェノサイドから関連人民を守ることを目的の一つに挙げます。ジェノサイドは重大な国際法上の犯罪ですが、国連が対処するというのがジェノサイド条約上の建前です。条約第8条では、権限ある国連機関がジェノサイドの防止や抑圧のために、憲章に従って措置をとることができるように求める締約国の権利が規定されています。ジェノサイドがあると主張して、個別国が一方的に行動することは条約上認められていません。
(2)不干渉原則の違反
次に、不干渉原則の違反です。国連憲章の中には、国家間関係の不干渉原則自体は規定がありません。しかし、憲章2条1項の主権平等の原則があって、主権平等なら干渉してはいけないというので、2条1項が根拠としてあげられます。
ロシアは、ウクライナのNATO加盟は越えてはならない一線≠セと言っていますが、ウクライナがNATOに入るかどうかというようなことはウクライナが自由に決定できる問題で、この決定に対して外国が圧力をかけることは不干渉原則に違反します。
憲章上、明文の規定はないといっても、不干渉原則が慣習国際法上、確立していることはまったく疑われていません。国際司法裁判所は、各国が主権の原則に従って自由に決定することを認められた事項、すなわち国内体制の選択とか海外政策の形成といったことについて、強制の要素を持って介入することは禁じられているとしています。したがってロシアが意図するウクライナの体制変更というのは明らかに不干渉原則に違反します。
もう一つ、ロシアは自ら承認した「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の要請にもとづいて侵攻したとしていますが、これらの「国」は、国際法上の国の要件を備えていません。永続的に住民が確定した領域、他の国と関係をとり結ぶ能力、当該領域を実効的に支配する自主的な政府の存在が必要ですが、ロシアが承認したというロシア系の「国」がこうした要件を備えていないことは明らかです。
この点に関して、プーチン演説は人民の同権と自決の原則を規定する国連憲章1条にも言及しています。しかし国際法上、自決の単位として認められているのは、ロシア系住民といった人種的、国民的、あるいは民族的な単位ではなくて、外国の支配と搾取の対象になっている一定の領域の住民全体を指すものと理解されているので、2つのいわゆる「国」は自決単位でありません。したがって、そういう「国」の独立を承認して、経済的、軍事的に支援することも、ウクライナの領土保全と政治的独立を損なう干渉になります。
(3)紛争の平和的解決義務の違反
第3に、紛争の平和的解決義務(国連憲章2条3)違反です。ロシアとウクライナの間にいろんな問題で紛争があることは明らかです。とくにウクライナのNATO加盟の動きがロシアに安全保障上の疑念を生じさせたということはありうる。しかしロシアの懸念が正当であっても、それは平和的手段によって解決されるべき問題で、武力行使の理由とはなりません。
(4)国際人道法の違反と国際犯罪の疑い
第4に、国際人道法の違反と国際犯罪の疑いです。
国際人道法の基本原則は2点あります。1点は区別原則で、文民たる住民や民用物の保護を目的とし、戦闘員と非戦闘員の区別を確立する原則です。2点目は不必要な苦痛を与えてはならないという原則で、この原則によって使っていい兵器、使ってはいけない兵器が区別されます。
この各々の原則についても、ロシアの行為は問題があります。区別原則では、攻撃によって集合住宅、病院、学校等が破壊されています。国際人道法の諸条約では攻撃は軍事目標に限定しなければならない。とりわけ文民病院はいかなる場合にも攻撃してはならず、常に尊重と保護を受けると規定されています。
二つ目に、ロシアによる攻撃は、禁止されている兵器を用いた、あるいは少なくともその意図があるのではないかという疑惑が浮上しています。ロシアが生物・化学兵器の使用を企図していると見られていますが、生物・化学兵器禁止条約の締約国なので、条約違反になります。
〈ウクライナ危機において国連は無力だったか〉
次に、ウクライナ危機における国連の役割です。
(1)緊急特別総会の開催と3つの総会決議
まず、侵攻の直後に、安全保障理事会でウクライナへの武力行使を非難し、即時撤退を要求する決議案が出ました。これは80超の国々が共同提案しています。賛成11、反対1(ロシア)、反棄権3(中国、インド、アラブ首長国連邦)で、ロシアの拒否権発動で不採択になりました。
それを受けて安保理事会では、2月27日に緊急特別総会の開催を決定する決議を採択しました。評決結果は前回とまったく同じですが、緊急特別総会の開催は手続事項であるという理解なので、拒否権は働きません。この点はロシア批判の諸国の巧妙な作戦勝ちだという評価があります。つまり、安保理では拒否権が予測されるような決議案は採択に付さないというのが慣例になっていますが、今回はあえて採択を求めてロシアに拒否権を発動させて緊急特別総会開催の条件を作り出したという指摘です。
緊急特別総会は3月2日に、97ヵ国が共同提案国となり、安保理で不採択となた草案と基本的には同じ内容の決議「ウクライナに対する侵略」を賛成141反対5(ベラルーシ、朝鮮民主主義人民共和国、エリトリア、ロシア、シリア)、棄権35、投票不参加12ということで採択しています。
ロシアのウクライナ侵略に対する国際社会の認識は、この評決数とか共同提案国の多さだけではなく、会合での多くの代表の発言にも反映されていました。たとえば、「ロシアの侵攻というのは、単にウクライナだけの問題、ヨーロッパだけの問題ではなく、国際秩序を擁護する問題だ」という指摘がありました。中小国の代表からは「このような侵攻は自国の国にとっては存否に関わる問題だ」という主張もありました。こういう態度が国際社会の一般的な態度だということになったのです。緊急特別総会はさらに続いて、3月24日には「ウクライナ侵略の人道的帰結」決議を採択し、4月7日にはロシアの人権理事国の資格停止を決定しています。
こういう状況を踏まえて、「国連無力論」も評価する必要があります。たとえば、「軍事的強制措置がとれれば即効的ではないか」という理解もあるかと思いますが、しかしそれは長い目で見れば当該社会に癒しがたい傷跡を残すという副作用が顕著です。イラク戦争でも対リビア攻撃でもそうでした。ウクライナの事態における国連の役割を評価するためには、こういう即効性のある措置をとったかどうかということよりも、将来、本来の集団安全保障の理念に沿って適切な活動を行ったかどうかということを問うべきだろうと思っています。その観点から見ると、今のような行動はそれなりの評価ができるのではないか。
(2)総会決議の意義
確かに、加盟国一般に対して向けられた総会決議は勧告であって法的拘束力はないということが確認されてきました。しかしこれについては、少なくとも2点の確認が必要だと思われます。一つは、今回の決議のように圧倒的多数で採択された総会決議は国際世論を代表するもので、強い道義的・政治的意義を持っています。これらの決議と総会討議は国際社会におけるロシアの孤立を際立たせるわけです。
もう一つ、総会決議に法的拘束力はないにしても、一定の法的効果がありえます。たとえば、加盟国がロシアの侵略という決議の認定に従って、ロシアに対して対抗措置をとる。その対抗措置がロシアに対する国際義務に違反するとしても、この違法性は阻却されると考えられることです。典型的な例は、日本を含む多くの国がやっているロシアに対する「最恵国待遇」の停止です。最恵国待遇はWTO(世界貿易機関)協定上の基本原則で、その停止は協定義務に違反しますが、現在の国際社会でWTO違反だという批判は出ていません。
今回の事態に対する国連の対応に限界があったのは確かですが、これは国連憲章や国連の仕組みが不十分だというより、侵略者であるロシアが核大国だという事実に主な原因があると考えられます。
今回の事態を前にして、日本でも国際社会でも、「侵略に対して国連は無力である。むしろ各国で軍備を増強し、軍事同盟を強め、核抑止を強めていくことが必要だ」という議論が台頭しました。西欧諸国はおしなべて軍備増強を図っていますし、今まで非同盟政策を追求してきたスウェーデンやフィンランドがNATO加盟を求めています。
しかし、このような行き方は、「抑止論」の破綻が第一次世界大戦を招いたとの教訓から国際連盟の集団安全保障が出てきたという歴史的経緯から何も学んでいません。歴史を1世紀以上逆戻りさせて19世紀的な「力の支配」の世界に返ることを主張するもので、我々がなすべきことではありません。たとえ不十分であっても、国連の集団安全保障の仕組みを活用し、その結果を補っていく努力を粘り強く続けることが必要だと考えます。
この事態への解決に国連がどのような役割を果たすことができるかということですが、現状では国連が停戦の実現とか、この危機の平和的解決に直接貢献することは困難だろうと思います。国連はこの紛争でロシアを侵略者と認定しているわけで、その意味では中立ではない。中立の立場ではないことをはっきりさせている国連が停戦とか危機の平和的解決に直接貢献することは困難です。
〈ウクライナ危機の日本にとっての含意〉
最後に、ウクライナ危機の日本にとっての含意についてです。
(1)「敵基地攻撃」論と「核共有」論の台頭
ウクライナ危機を契機にして、日本でも「核抑止力を強める」とか「日米同盟を強める」、あるいは軍事予算を増やすというような議論が登場しています。「敵基地攻撃」論は年末の中期防衛力計画に盛り込む方向に進んでいます。
しかし、ウクライナ危機が浮き彫りにしたのは、敵基地攻撃が必要だということではなく、むしろ敵基地攻撃とは大変危ういものだということでした。現実の武力攻撃がない段階で敵基地攻撃を行った場合、これを自衛権で説明することは大変むずかしいことです。もしも日本にこの証明ができなければ、日本は今のロシアと同じような侵略者だということになります。
それから「核共有」論というのがウクライナ危機を契機に強調されるようになった。安倍晋三元首相が『文藝春秋』のインタビューでそういう議論をしている。この「核共有」論が、「非核三原則」に反するという批判は行われていますが、安倍氏の議論は国民の間のいわば「非核三原則」支持を弱める、あるいは「核アレルギーを治療する」ことを意図しているわけですから、「非核三原則」に違反していると批判しても、安倍氏には痛くも痒くもないわけです。
むしろ、問題なのはNPT上の、核兵器またはその管理をいかなるものからも、直接または間接的に受容しないという非核兵器国の義務と両立するかどうかということです。安倍氏のインタビューは、この非核兵器国の義務と両立するかどうかについては触れていません。
(2)憲法第9条を持つ国としての役割
最後に、憲法第9条を持つ国としての役割ということですが、日本国憲法は戦争を違法化するための国際社会の長年の努力を踏まえているということでは国連憲章と同じ基礎に立っています。したがって、国連憲章と日本国憲法は目的としては一致していますが、方法論が違う。
国連憲章は違法な武力を行使した国に対して最終的に武力を使うという集団安全保障の体制をとったのに対して、日本は戦争を放棄するだけではなくて、戦力の不保持と交戦権の否定を憲法で規定している。これは多分、日本国憲法は広島・長崎の被爆経験を踏まえていることが違いの重要な根拠だろうと思われます。「核時代」に対処するという意味では、日本国憲法は国連憲章と同じ流れに沿いながら、その一歩先を行っていると考えられます。
さらに、日本国憲法は平和的生存権を前文で認めているという点でも国連の先を進んでいます。同じような考え方が国連で認められるようになるのは1970年代から80年代です。この点でも、日本国憲法のほうが進んでいます。
これに対して、日本の歴代政権は、2015年の「安保法制」が典型的ですが、日本が集団的自衛権を行使し、武力を用いる国連活動にも積極的に参加する。いわゆる「普通の国」になる道を進んできたのですが、これは歴史の流れに逆行するものです。国連活動はもちろん日本国憲法の立場に近づける努力が行われるべきです。
今回のウクライナ危機に引き当てて具体化するなら、少なくとも次の2点が言えるのではないか。
一つは、ロシアのあからさまな国際法違反である侵略戦争を認めず、即時停戦とウクライナからの無条件撤退を求めるという世論を国際的にも日本の国内でも広げていく必要がある。国際法の執行を担保する力は、結局、諸国民の連帯と国際世論にあるわけで、それに向けて力を尽くさなければならないと考えます。
もう一つは、核兵器の使用をちらつかせているロシアに対しては、とくに唯一の戦争被爆国としての日本の強い対応が求められます。核兵器の全廃までの過程では核保有国が核兵器を使えない国際環境を作り出していくことが必要です。この点では核兵器の全面的な禁止を規定する2017年の核兵器禁止条約が大変大きな役割を果たします。
日本国政府が条約締約国になることはただちには困難だとしても、締約国会議や検討会議にオブザーバーとして参加して、被爆国としての立場を主張することは法的にも可能だし、政治的にも極めて重要な役割を果たすことができるだろうと思います。
(文責・編集部) |
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