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 ●提言・声明
 
〔ウクライナ危機〕国連憲章と日本国憲法の意義
小沢隆一(東京慈恵会医科大学教授〈憲法学〉
(2022.4.15)

 国際社会の総意示した国連総会決議
 

 2022年2月24日、ロシアは突如としてウクライナに侵攻しました。主権平等と領土保全の原則を宣言し、加盟国に国際紛争の平和的解決、武力による威嚇と武力行使の禁止を義務づけている国連憲章のあからさまな侵害です。ロシアは、侵攻後の戦闘で、病院や学校をはじめ多くの民間施設を攻撃して、甚大な被害をもたらし、民間人に対する殺戮も行われています。約4000万のウクライナ人口のうち国内外で1000万人超が避難民となる人道危機が生じています。また原発を攻撃するなど、数多くの国際(人道)法違反を犯しており、戦争犯罪に問われるべきものです。国連憲章を中軸にした戦後の国際平和秩序が、この秩序を守ることに特段の責任を負うべき安全保障理事会(安保理)の常任理事国の蛮行によって根底から覆されようとしています。
 国連安保理でのロシアによる侵略の認定や集団安全保障措置の決定ができないなか、「国連は無力だ」との声も聞かれます。第一次、第二次世界大戦の経験を踏まえて設立された国連は、安保理の構成と権限についてみれば、「五大国」とも呼ばれる常任理事国の協調を前提にしており、常任理事国による侵略に対しては有効な手立てを欠くことは否定できません。もっとも、常任理事国間で武力行使を始めてしまえば、国連が防ぐことを目的としているはずの「第三次世界大戦」を招来しかねません。しかもそれは核戦争となる可能性もあります。こうした安保理による集団安全保障措置がかかえる「限界」は、国連という国際機関に内在的なものです。
 しかし、そのことをもって、「国連は無力」と結論づけることは早計です。今回のロシアのウクライナ侵略では、安保理は2月27日に、国連総会緊急特別会合を招集することを決定し、翌日招集された国連総会は3月2日、ロシアが核戦力の準備態勢強化を行うことを決定したことを非難して(前文)、ウクライナの主権、独立、統一と領土保全の尊重を確認し(第1項)、国連憲章第2条4項に違反する侵略行為がロシアによってウクライナに対して行われたことを最も強い言葉で非難し(第2項)、ロシア軍の完全かつ無条件の即時撤退(第4項)などを求める決議を、賛成141ヵ国、反対5ヵ国、棄権35ヵ国で採択しました。この国連総会の決議には法的拘束力がありませんが、反対はロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの5ヵ国のみで、国連加盟国の7割を超える圧倒的多数が賛成したことによって、ロシアの侵略を認めないとの国際社会の総意が示されたのです。3月24日の国連総会の緊急特別会合でも、ほぼ同数(140)の賛成で、決議「ウクライナ侵略の人道的帰結」が採択され、3月2日の総会決議の完全履行を求めるとともに、敵対行為の即時停止、ジュネーブ諸条約等の国際人道法の尊重、民間人保護、病院等民間施設の保護、ロシア軍による都市包囲の解除など、人道危機打開を求めました。
 安保理決議にもとづく集団安全保障措置が発動されなくても、加盟国の主権平等と国際紛争の平和的解決、武力行使の禁止を加盟国に義務づけた国連憲章という法の力は、加盟国と市民の世論に基礎づけられて発揮されます。この法と世論の力でロシアによる侵略と人道破壊をやめさせることが今こそ求められているのです。

 日本の軍事化に利用する動きは重大

 今回のロシアによるウクライナ侵略を日本の軍事化に利用しようとする政治の動きが激しさを増しています。ロシアによる侵略開始直後の26日には、林芳正外相がブリンケン米国務長官と会談し、ウクライナ侵略を引き合いに出して、対中国を念頭に「日米同盟の抑止力・対処力の強化」を約束しました。「敵基地攻撃能力保有」の必要性も、声高に語られています。
 明文改憲をあおる主張も活発化しています。3月13日に開かれた自民党大会で挨拶した岸田文雄首相(同党総裁)は、ウクライナ侵略を「我が事として捉え」防衛力の強化と共に党是である改憲の実行に取り組むこと、「そのための力を得るたたかいが来る参院選だ」と訴えました。衆参両院で開催された憲法審査会においても、自民党や日本維新の会の議員は、「力による現状変更の脅威」を口実に、緊急事態条項の創設など改憲案の審議の必要性を主張しています。
 しかし、今回のロシアによるウクライナ侵略が明らかにしたことは、軍事力と軍事同盟の強化は軍事対決・挑発を激化させ、国際社会を分断させるだけで、平和の実現に寄与するどころか戦争と武力行使に帰結する、ということにほかなりません。「敵基地攻撃能力」の保有などは、今回のウクライナ侵略でロシアが実行したものを持とうということです。いま、自民党や改憲勢力が「台湾有事」を口実に強行しようとしている日米軍事同盟強化と改憲の道では、日本とアジアの平和を実現することはできません。9条を持つ日本政府の責務は、国際社会の分断を修復し、ロシアの侵略に反対し、アジアの紛争を武力によらないで解決する枠組みを作るために各国に働きかけることです。そのためにも9条改憲を断じて許してはなりません。

 世界の流れに逆行する「核共有」議論許さず

 ロシアがウクライナ侵略に際して核兵器の使用をほのめかす威嚇を行っていることを口実に、日本でも米国との「核共有(ニュークリア・シェアリング)」の議論をすべきだという主張や提言が、安倍晋三元首相ら自民党の政治家や日本維新の会から出ています。これは、歴代政権が国是としてきた「非核三原則」(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)を放棄するものであると同時に、核兵器禁止条約を成立させた「核のない世界」実現をめざす国際的な流れに逆行するものです。
 今回のロシアによるウクライナ侵略が端的に示しているのは、核兵器の非人道性を顧慮することなくその先制的使用も辞さないような国にとって、核兵器の保有は、戦争開始のハードルを下げるものであること、そして、自ら起こした戦争での核兵器使用の可能性をほのめかす「核の威嚇」は、戦争を有利に遂行するうえで重要な役割を果たすということです。結局のところ、今日の事態は、「核兵器は戦争を抑止する」との核抑止力論が唱えてきたことが事実によって裏切られる一方で、「核抑止力論の実体は、核による威嚇・恫喝である」という核抑止力論に対する批判の正しさを証明するものとなっています。
 核兵器の廃絶が戦争の抑止にとって急務の課題であることが明らかになりました。そのためにも、日本は一刻も早く核兵器禁止条約を批准して「核なき世界」の実現に向けた国際社会の大道に加わり、核兵器の使用を断じて許さないという圧倒的な国際世論の形成に力を尽くすべきときです。