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 ●政府への要請
 
コロナ危機に便乗する安倍改憲に終止符を
小沢 隆一・東京慈恵会医科大学教授・常任世話 (2020.5.15)

  コロナ危機下 改憲に執念を燃やす安倍首相

 新型コロナウイルス感染拡大が止まない中で迎えた5月3日、安倍晋三首相は、その職務に専念すべき重大局面であるにもかかわらず、「自民党総裁」を名乗りながら、改憲推進派のインターネット集会にメッセージを寄せました。そしてこう言います。
 「今般の新型コロナウイルスという未知の敵との戦いにおいて、我々は前例のない事態にくり返し直面しております。政府においては、国民の命と健康を守るため、全国に緊急事態宣言を発出し、政策を総動員して各種対策を進めています」。
 ところが続けて、なんと次のように語るのです。
 「今回のような未曽有の危機を経験した今、緊急事態において、国民の命や安全をなんとしても守るため、国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗り越えていくべきか。そして、そのことを憲法にどのように位置づけるかについては、極めて重く、大切な課題であると、私自身、改めて認識した次第です。自民党がたたき台として既にお示ししている改憲4項目の中にも『緊急事態対応』は含まれておりますが、まずは、国会の憲法審査会の場で、じっくりと議論を進めていくべきであると考えます」。
 惨事を改憲という自らの政治的野望に利用するこうした人物が首相の地位にあることの「危機的状況」を、私たちは深刻に受け止めなければなりません。「緊急事態において国民の命や安全を守るため」と言いますが、そのために自身がなすべきことを完全に取り違えています。
 いま彼が首相としてすべきことは、山ほどあります。新型コロナウイルス感染実態の正確な把握のためのPCR検査体制の抜本的拡充、「医療崩壊」を止めるための医療現場への本格的な支援と財政措置、長引く外出自粛や休業によって困難を極める人々の生活と雇用、営業、文化活動などへのしっかりとした補償、子どもや若者の教育を受ける権利の保障、「コロナ禍」のなかでの差別や排除、ドメスティック・バイオレンス、ヘイトの防止、その他さまざまな人権侵害状況への対応、感染症対策、ワクチンや治療薬の開発への国際協力、等々。ともかく、コロナウイルス感染拡大により深刻な状況にある国民の社会生活全般への支援の先頭に立つことのはずです。それこそ一刻を争う「急務」という意味で、「緊急」に取り組むべきことです。
 ところが安倍首相は、現在の緊急事態を改憲4項目の「緊急事態対応」(緊急事態条項)の導入問題に引き付けて論じることに執心しています。5月3日の朝日新聞の社説が強調するように、今の状況下で憲法が保障する国民の権利が守られるよう「憲法に従い国民を守る覚悟」を示すべき時なのです。それこそが国政への国民の信頼をかち取る決め手となるはずでした。しかし、現行憲法を攻撃することに執心してきたこの人物は、肝心な時にそうした覚悟を示すことができないのです。

新型コロナ感染症対策と緊急事態条項

 安倍首相は、感染症の拡大という事態を憲法の「緊急事態条項」に位置づけると言いますが、それは、今のコロナ感染症への対応として不適切極まりないものであると同時に、憲法とそれが保障する市民の生活にとって重大な問題を引き起こすものです。
 今、私たちが前にしている「緊急事態」とは、憲法の「緊急事態条項」が想定しているものとは、言葉が同じでも、まったく性格の違うものです。一般に憲法論上問題とされる緊急事態とは、国家が憲法に則って活動することが不可能となる異常事態のことであり、緊急事態条項とは、そのような異常事態を正常に戻して国家が憲法にもとづいて活動できるようにするために、憲法の効力を一時的に停止して、特に行政権に強力なフリーハンドを付与する条項のことです。2012年4月に自民党が作成した「日本国憲法改正草案」には、こうした「緊急事態」条項が盛り込まれています。2018年3月の「改憲4項目」の緊急事態条項も同類です。
 それに対して、現在の「緊急事態宣言」は、周知のように3月13日に改正された新型インフルエンザ等特措法32条の次のような要件に従って発せられたものです。
 「新型インフルエンザ等…(中略)…が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態」
 4月7日にこの「宣言」が首相により発せられて以降、同法45条にもとづく都道府県知事による住民に対する「外出自粛」、学校、興行場などの施設の使用の制限・停止、催物の開催の制限・停止の「要請」がなされ、一部の地域の店舗などについては、「要請」に従わないとして「指示」も出されました。
 このような現在の緊急事態は、感染拡大防止のためにそれに必要な限りでの特別の措置として法律によって規定されたものであって、憲法の効力を停止させる効果はありません。罰則のない「要請」「指示」による規制は、形の上ではソフトです。それでも、外出制限、学校などの施設の使用制限、商業施設の休業、イベント自粛が人々の生活に与える影響は甚大であり、首相や知事の措置に対する国会や地方議会の監視、統制は不可欠です。その点では、「宣言」が国会の承認ではなく国会への報告に止まっていることに法改正が必要です。この制度が、憲法の原則にもとづいているか精査が必要です。
 また、外出自粛や休業の要請は、要請される側の人々の納得、合意があってこそ効果を発揮します。そのために欠かせないことは、専門的知見を踏まえた説得力のある説明と徹底的な情報公開、すなわち民主主義の実現です。さらに、人々が「自粛」や休業を安心して受け入れることができるようにするためには、迅速かつ充実した給付や補償の措置がぜひとも必要です。要するに新型コロナ感染症対策で必要なことは、憲法の停止ではなく、その実現なのです。
 公正・独立たるべき検察のトップの人事を内閣の裁量に委ねる検察庁法「改正」問題に見られるように、安倍政権の憲法破壊と横暴は極みに達しています。そして、これに対する国民の怒りの声が渦巻いています。憲法にもとづく政治を求める多くの市民の声に確信を持ち、コロナ危機に乗じた安倍改憲のたくらみに断固反対の世論を結集して、これに終止符を打ちましょう。