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 ●政府への要請
 
安倍政権がねらう検察支配
――黒川検事長人事と検察庁法改正の問題点
晴山 一穂・専修大学・福島大学名誉教授 (2020.4.15)

  本年1月31日、安倍内閣は、2月7日に63歳を迎えて定年退職の予定であった黒川弘務東京高検検事長の勤務を半年間延長することを閣議決定しました。検察官の勤務延長はこれまで前例がなかったことから、今回の異例の措置は、7月末に就任2年を迎えて交代が予想されている稲田伸夫現検事総長の後任に、エリート法務官僚として政権から絶大な信頼を得ているといわれる黒川氏を充てるための措置ではないか、との観測が流れました。
 安倍内閣は、内閣人事局を中心にして、これまでの人事の慣例を破り、行政官としての資質や能力に関係なく、政権に忠実で従順な官僚だけを官邸に集め、各省の幹部人事を統制・支配してきました。このことが、モリ・カケ問題や公文書の破棄・改ざんといった異常な事態を生み出し、近畿財務局職員の赤木俊夫さんが公文書の改ざんを強要され自らの命を絶つといった悲惨な事件まで引き引き起こしてきました。今回の人事は、こうした政権による官僚人事支配が、ついに検察にまで及ぶことになったことを意味しています。
 同時に、この人事は、カジノ疑惑での秋元衆院議員の逮捕、菅原前経産相や河井前法相夫妻の公選法違反での捜査など、この間安倍側近に対する検察の捜査が進展し、さらには「桜を見る会」私物化疑惑をめぐって安倍首相自身が背任罪で刑事告発されるといった事態を前にして、危機感を高めた安倍内閣が、政権に近い黒川氏を検事総長に就けることによって検察の追及を封じるために強行されたのではないか、との強い疑念を生じさせるものです。
 実際、国会に何らの説明もなく独断で閣議決定し、野党や国民の批判が高まるやいなや、あわてて説明を二転三転させながら支離滅裂の対応に終始してきたこの間の一連の経過は、こうした見方に十分な説得力を与えるものとなっています。
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 検察庁法22条は、検察官の定年について、検事総長は65歳、その他の検察官は63歳と定め、勤務延長に関する規定は置いていません。他方で、国家公務員法は、81条の2で、「法律に別段の定めがある場合」をのぞき、職員は定年に達した日以後の最初の3月31日に退職すると定め、この定年を60歳と規定しています。そして、81条の3で、任命権者は一定の場合上限3年までの勤務延長ができるとしています。
 検察庁法22条は、国公法81条の2の法律の「別段の定め」にあたりますので、検察庁法に規定のない勤務延長制度は検察官には適用されない、というのが従来の多くの解釈でした。実際、政府や人事院も過去の国会答弁でそのような見解を公にし、今国会でも、人事院は「現在まで同じ解釈を続けている」と答弁していました。このことを野党から追及された安倍首相は、「今般、国家公務員法の規定が適用されると解釈することにした」と答弁したため、これに合わせるために、人事院は先の答弁を「つい言い間違えた」として撤回し、さらには日付も決済印もない文書を提出したり、定年延長が求められる社会情勢の変化を問われた森法相が「東日本大震災の時に検察官が最初に逃げた」と唐突に発言し、不適切な発言として首相から厳重注意を受けるなど政府の対応は混乱を極めましたが、安倍内閣はいまなお黒川氏の勤務延長を撤回しようとしていません。
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 検察庁法は、日本国憲法制定に伴う戦後の司法制度改革の一環として、裁判所法とともに憲法と同時に施行された法律であり、これに基づいて確立された戦後の民主的検察制度は、司法権の独立と一体の関係をなすものです。このことは、次のような検察当局者自身の指摘にも表れています。
 「司法権独立の主眼は、司法権の行使を政治的影響から自由にするところにあるといってよい。したがって、検察権が政治的影響のままに行使されるならば、それはまさしく政治的司法を現出し、司法権の独立は名のみになるといっても過言ではない。検察権と司法権は、まさしく車の両輪であり、そのいずれの公正を欠いても刑事司法の健全な運営は期し難い」。
 もし、検察官の勤務延長が内閣の自由な判断でできることになれば、時の内閣の都合で自在に検察官人事を動かすことができることになり、うえの指摘に見られる「準司法官」としての検察官の独立が危機に瀕することになりかねません。これまで検察官には勤務延長制度が適用されないと解されてきたことの実質的な理由は、まさにこの点にあると解されます。
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 3月13日、政府は、検察官の定年の65歳への引上げとあわせて、役職定年制と勤務延長制度の導入を盛り込んだ検察庁法改正法案を国会に提出しました。この法案は、強引な法解釈によって無理やり閣議決定した黒川氏の勤務延長に対する世論の批判を逆手にとって、検察官の勤務延長を、単なる法解釈としてではなく、法律上の制度として正面から合法化しようとするものにほかなりません。もし法案が成立することになれば、内閣は、検察幹部の人事を通して、検察機構全体を自らの政治支配の下に置くことが可能になります。法案の強行を許さない世論を高めていくことが緊急に求められています。