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 ●政府への要請
 
安倍改憲との対決の正念場
小沢隆一・東京慈恵会医科大学教授〈憲法学〉・常任世話人(2019.09.20)
 

 安倍晋三首相と自民党は、先の参議院選挙で改憲派による「3分の2議席確保」に失敗してもなお、今が正念場とばかりに、改憲策動の巻き返しに躍起になっています。
 9月の内閣改造とあわせた党役員人事では、総裁直属の憲法改正推進本部の本部長に、強引な国会運営で野党の反発を招いた下村博文氏に替えて、重鎮である細田博之氏をすえました。また、本部長代理には、改憲右翼団体「日本会議」と一心同体の日本会議国会議員懇談会会長の古屋圭司氏を充て、同本部に「遊説・組織委員会」も新設しました。10月18日には、二階俊博幹事長の地元、和歌山で約1600人を集めて改憲集会を開催しています。岸田文雄政調会長も、「地方政調会」で憲法をテーマとして地方議員や支援者から意見を聞くことを決めました。改憲機運を盛り上げるために自民党の組織全体を動かそうという「挙党体制」です。

 自民党は、2018年3月に9条への自衛隊の明記など「改憲4項目」をまとめ、この間、国会の憲法審査会にこれを提示して改憲論議を盛り上げることを執拗に画策してきました。この臨時国会でも、審査会の「自由討議」の場を使っての提示を狙っています。これには、野党からも「改憲応援団」の日本維新の会や、「立憲的改憲論」などという持論を掲げる山尾志桜里衆院議員などが同調する姿勢を示しているので、その点にも注意が必要です。憲法審査会は、そこでの多数決によって「憲法改正原案」を策定し会長名で議院に提出することのできる権限を有しています。自民党案の提示を契機にして衆院50人、参院45人という比較的少人数の審査会内での議論を通じて改憲原案が練り上げられていくことに、くれぐれも用心が欠かせません。

 安倍改憲に反対する野党の共闘は、2015年の安保法制(戦争法)反対運動の中から生まれました。16年参院選、17年衆院選を通じて、様々な困難を乗り越えて培われてきた「市民と野党の共同」を土台にした「安倍改憲NO」で結束する野党のスクラムは崩されることなく、17年の臨時国会から19年の通常国会までの4つの会期で、憲法審査会での改憲論議を阻んできました。今年の参院選で、市民連合との間で13項目の政策合意を結び、その力で「改憲勢力3分の2」を阻止した野党の団結は着実に強められています。
 2020年の改憲になお執念を燃やしつつ、21年9月の党総裁任期までを視野に入れた安倍首相の改憲の企みの息の根を止めるまで、この団結をさらに強めていくことが求められます。

 こうした改憲策動の一方で、政府は、憲法9条と平和主義をより一層掘り崩す暴挙に出ようとしています。中東への自衛隊の派遣問題です。これについて、国際法と憲法の視角から問題点を探ってみましょう。
 この問題は、イランへの軍事的圧力を強めるための米国による同盟国などに対しての「有志連合」への参加要請に起因するものですが、そもそも、今の米国とイランの対立は、イランが核兵器の開発・保有をめざさないことと引き換えに経済制裁を解除するとした「核合意」からトランプ政権が一方的に離脱したことから始まりました。自ら危機を作り出しておきながら、軍事的対応に乗り出すことに何の道理もなく、しかも、今回の「有志連合」は、国連安保理決議などの国際法上の正当化の根拠なしに始動されようとしている点で、これまでになく異常なものです。国際社会における平和と法のこうした破壊に対して、日本政府は、断固たる反対の姿勢をとり、トランプ政権に対して核合意への復帰を促し、イランとの間での対話による解決に力を尽くすことこそ、憲法9条にもとづく外交姿勢と言えるでしょう。

 しかし、政府は、「有志連合には加わらない」としつつも、防衛省の所掌事務を定める防衛省設置法4条の中の18号「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」を根拠にして、自衛隊独自の中東派遣を行おうとしています。これは、法の趣旨を著しく逸脱したものであり、断じて許されません。この「調査・研究」規定に類するものは、例えば財務省の場合であれば、財務省設置法の下の財務省組織令3条29号に大臣官房の所掌事務のうちの一つとして「財務省の所掌に関する調査及び研究並びに資料及び情報の収集及び提供に関すること」という形で定められています。防衛省設置法4条18号は、あくまでも行政機関としての防衛省の所掌事務に関する規定であって、自衛隊の海外派遣とその活動の根拠になるものではとうていありえません。
 ところが、従来から政府は、日本周辺での自衛隊による警戒監視活動の根拠としてこの規定を使ってきました。これ自体、憲法9条の下では許されないはずの自衛隊を強引に設置してきたことに起因する何とも無理筋な解釈です。しかも、それを今度は、自衛隊の海外派遣にまで拡大しようとしています。憲法9条を掘り崩し、法の趣旨をゆがめた解釈を押し通し、さらには自衛隊員の生命を危険にさらすこうした暴挙を許してはなりません。
 米国防総省の報道官は「別々の行動を希望するのであれば、その努力を歓迎する」と述べ、菅義偉官房長官は「米軍とは緊密に連携していく」としています(「朝日」10月20日)。「有志連合」に直接参加するか否かにかかわらず、米国の軍事行動への加担は明白であり、自衛隊が戦火に巻き込まれる危険があります。
 9条改憲反対と合わせて「自衛隊の中東派兵NO、紛争の平和的解決を」の声を大きく広げることが今まさに求められています。