福島原発事故から4年――
問われる復興支援 原発現場は深刻な事故状態
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| 野口邦和さん(日本大学歯学部准教授〈放射線防護学〉・福島大学客員教授)に聞く |
| (2015.03.15) |
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| 東日本大震災・東京電力福島第1原発事故から4年。今も12万人もの福島県民が避難生活を余儀なくされています。放射能汚染はどうなったのか、事故現場の現状、事故炉処理の見通しはどうか――。福島に足を運び、調査活動を続ける放射線防護の専門家、野口邦和・日本大学歯学部准教授に話を聞きました。 |
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■「事故状態」から「復興」段階へ
――原発事故から4年。現状はどういう段階でしょうか。
福島県でも中通りとか会津、いわき市など現に人が住んでいる地域、あるいは浜通りでも相馬市や南相馬市の北の方などは避難指示がされてないわけですが、そういう居住地域についていうと、原発事故から4年経って、ホールボディカウンターの検査データとか食べ物の放射能検査データ、地表面の汚染状況などのデータがかなり出てきています。そうしたデータを見ると、心配されていた内部被ばくの程度は、居住地域でいえば、線量が一番高い人でも、年間0・01ミリシーベルト以下の非常に低いレベルに抑えられています。
しかし、地表面が汚染しているから、外部被ばくはその100倍もの高さです。居住地域については、そういう状況にあることがわかってきています。
中通りや会津地方、いわき市などの居住地域についていえば、現状は、事故状態を抜け出して、復興に向かって動き出している段階だと言えます。
■歴然たる除染の効果
――放射線被ばくに対する不安は大きいものがあります。状況は変わってきたのでしょうか。
内部被ばくはかなりコントロールできています。地産地消の文化のチェルノブイリと異なって、日本の場合、食べ物の5割以上が輸入物ですし、国産物でも日本各地で作られたものを食べています。しかも、放射線測定器もチェルノブイリ事故時の旧ソ連に比べればかなりたくさんあって、食べ物の放射能濃度をしっかり測定していますから、結果として内部被ばくはかなり抑えられています。
外部被ばくは、地表面全体が汚染してしまっているので結構高い。ですから居住地域については、外部被ばくを如何に低くできるか、が大事だと思います。
除染の効果についていうと、本宮市の子どもで2011年9〜11月の3ヵ月間で平均0・42ミリシーベルト、年間平均1・68ミリシーベルトほどでしたが、3年後の昨年9〜11月の平均が0・11ミリシーベルト、年間平均で0・44ミリシーベルトと4分の1ほどに減り、平常時における一般人の基準である1ミリを下回っています。事故直後の線量を100とすると、1年後には55、2年後に38、3年後に26へと着実に減っています。セシウムの放射能が減っているのと、除染の効果が現れています。
本宮市の中で相対的に線量率の高い地区に和田がありますが、この地区に外部線量の数値の高い兄妹がいました。3ヵ月で0・8とか0・74と、平均より2倍ほど高い。ところが新年度直後の3ヵ月では兄だけがガクッと減りました。なぜ減ったかというと、すでに除染の終わっている保育園に通いだしたからです。その後、自宅周辺の除染が終わると妹の数値も下がって、二人とも差がなくなった。除染の効果ははっきり出ています。除染して数値が元に戻ったなどという事例は一つもない。除染の有効性を示すデータは、この兄妹だけではなく数多くあります。だから、除染をやれるところは早くやったほうがいいのです。
居住地域の街中の除染はかなり進みました。2011年の除染は学校、幼稚園、保育園の校庭・園庭が中心でしたが、12年から街中の除染が始まり、すでに3年経っていますから、中通りなどはかなり進みました。
会津地方とか隣県の除染は、広範囲の除染が必要なのではなくて、薄く汚染したものが雨などで流れ集まってきた側溝などのホットスポット的なところを見つけて除染することが中心になりますし、そういうことはやっています。ただ、中通りのようなところは、線量率の高い地区から優先順位を決めて、個々の家屋を含めて全般的に除染してきたわけですが、それもかなり進みました。
■避難指示区域の現状は
――避難指示区域の住民の帰還の見通しはどうですか。
避難指示区域は、帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域の三つに分かれています。
帰還困難区域は、やはり線量率が相当高いので、当面は日本原子力研究開発機構が除染の仕方などについてモデル試験除染をやって、その結果を検討し、今後の方策を決めることになっています。まだモデル試験除染の最中です。
居住制限区域については、居住はできないけれど昼間は入れるので、家周りの除染をやっている住民もいます。その除染は国の主導で大手ゼネコンに発注してやっています。昨年、1ヵ所、除染して線量率が下がり区域が見直され、避難指示解除準備区域になりました。
避難指示解除準備区域は、年間20ミリシーベルト以下の地域です。「20ミリ以下だから帰還させるというのはひどいじゃないか」との批判がありますが、20ミリ以下になったら即帰還ではなく、さらに除染して線量率を下げ、公共施設などの生活インフラの整備を行い、そのうえで戻すようにしています。
昨年4月に田村市キ路地区が、10月に川内村毛戸地区がそれぞれ避難指示解除になりました。
でも住民の3分の1程度しか戻っていません。それは、仕事がなければ戻れないし、高齢者はやはり総合病院が必要で、線量率が下がったと言うだけでは戻れない事情がある。しかも、避難の時は強制でしたが、戻るのは強制ではないから、それぞれの家族によって対応が違うのは仕方のないことです。たとえば、避難先にすでに居を構えていて、そこで仕事についていれば、なかなか戻れないといった事情もあります。
こうして国は、徐々に住民を戻そうとしているわけですが、そこで問題なのは、年間何ミリシーベルト以下になったら戻すのかが不明なことです。年間1〜20ミリシーベルトは避難指示解除準備区域ですが、何ミリになったら解除するのかが不明なまま、去年、2ヵ所について解除したのです。国際放射線防護委員会でいう「参考レベル」を行政が設定していない。国は、「長期的には年間1ミリシーベルト以下をめざす」と言うだけで、たとえば今年どうするか、この3年間でどうするかが打ち出されていない。年間1ミリシーベルト以下というのは平常時の基準で、当面はそこまで下げるのは無理です。ですから「参考レベル」を打ち出さないで長期的には1ミリシーベルト以下をめざすというだけでは、事実上、何も言ってないのと同じです。そこが曖昧なまま除染し、一部帰還させている。それはやっぱり、国のやり方としては非常にまずい。
ともあれ避難指示区域については、やはりどんどん除染して、生活インフラも整えて、住民を戻せるようにすることが必要です。チェルノブイリでは28年経っても30キロ圏内に誰も戻ってないといっても、あそこは国有地だから可能でしょうが、福島の避難指示区域はほとんど私有地ですからそんなことはできない。その賠償問題などもはっきりさせないといけないでしょう。4年も経って、住民はもう限界というか、それぞれの家族は、戻るのか、それとも避難先で居を構えてそちらで暮らすのかの選択が迫られているのです。
■汚染水は今も事故状態
――汚染水対策はどうなっているでしょうか。
事故現場は、相変わらず事故状態の放射能汚染水問題が、当面する一番の問題です。
ただ、高濃度汚染水が大分減っていることも事実です。事故原発1〜4号機の建屋地下などに合わせて8万7000トンくらいの汚染水がありますが、これをポンプで1日あたり700トンほどを汲み上げてセシウム吸着装置を通して放射性セシウム濃度を下げ、さらに淡水化装置で真水に近い状態にしたうえで、1〜3号炉に1日あたり計300トンずつ冷却用にポンプで移しています。
放射性セシウムは、第1および第2セシウム吸着装置の出口濃度が、入口濃度の1万分の1ほどに安定的に減少しています。塩分濃度は入口で450ppm、出口で9ppmとほぼ真水にしています。
いま、多核種除去装置(ALPS=アルプス)で放射性セシウム以外のものも取り除いた処理水が34万トンあり、放射性ストロンチウムだけを取り除いた処理水が8万2000トンあります(3月13日現在)。だから今、建屋地下のものを含めて70万トンほどの汚染水のうち42万トンは処理できています。この調子で処理できれば、来年5月ぐらいには処理が終わることになります。
ALPSはいま、かなり稼働しています。導入当初はトラブル続きでしたが、運転経験を積んで、昨秋頃から運転が安定してきています。1日に1系統で250トン処理できる従来型ALPSを3系統増やして計6系統で1500トン、1日460トン処理できる改良型ALPSも導入し、現在ではフル稼働すれば1日に1960トン処理できるようになりました。実際には昨秋からずっと1日に1000トンほどを処理しており、仮にそれで365日やれるとすれば、年間36万トン処理できる勘定になります。ALPSの稼働データなどは毎週発表されています。
問題なのは、ALPSを通過しても、トリチウムが水分子そのものなので取り除けないことです。昨年の暮れに経産省の某審議官に会ったとき、彼は「トリチウムを如何に取り除くか、作業部会をつくって検討している。海に捨てることは考えていない」と明言しました。しかし、トリチウムを除去することは無理です。トリチウムの残った処理水は現在42万トンあり、どうするのか。日本原子力学会や原子力規制委員会などは、とにかくトリチウム以外は取り除き、トリチウムは法定濃度以下に希釈したうえで海に捨てることを考えているようです。
第一原発の敷地は汚染水や処理水の貯蔵タンクでいっぱいになっていますが、その審議官は第二原発の敷地に持って行く考えは否定しました。第二原発はあわよくば再稼働という思惑が東電にあるからかもしれません。しかし、「福島県内の原発はすべて廃炉」が県知事、県議会を含めた県民の総意ですから、第二原発も動かせない。そうであれば、その敷地も有効活用したほうがいいと思います。いずれにしても、何年かすればこの問題が出てきます。
■海洋汚染はどうか
――漁業を再開できるかどうか、海洋汚染問題も切実です。
放射能汚染水が漏れているから、住民の海洋汚染の心配は非常に強い。港湾内の放射線濃度は、事故直後と比べると相当下がっているけれども、本来、下がり続けなければならないのに、汚染水が漏れているから下がらなくなっている。
ただ、どんなデータを見ても、海洋の汚染は拡大していないのです。海水魚の汚染でいうと、濃度が高いと言われるアイナメとかシロメバルの数値が確実に下がっています。陸地に比較的近い深さ30〜50メートルの浅い海の底魚のシロメバルでも検出限界以下の魚もあります。事故現場から離れた、水深100メートルぐらいのところにいるアンコウなどは基準値超えがこれまで1匹もない。こうしたデータは、陸上と違って、このあたりの魚は濃度が低そうだから獲ろうというようなことはできないので、かなり福島県沖の海水魚の状況を代表していると言えると思います。
あのビキニ事件では、回遊魚のマグロでさえ当時の基準値の100cpmを超える高い汚染でした。しかし、福島ではマグロは汚染していない。太平洋全体が汚染したわけではないから、あと何年か経てば漁業は解禁になると思います。
■どうなる放射性廃棄物処理
――放射性廃棄物の中間貯蔵施設への運び出しが始まりました。
放射性廃棄物の貯蔵と処分は、むずかしい問題です。
とにかく政府は、福島県内で除染した廃棄物については、中間貯蔵施設を双葉郡内につくって、そこに運び出すと言ったわけです。双葉郡内の中間貯蔵施設への運び出しは、今年3月13日から始まりました。
ただ、双葉郡内というのは原発の周辺で汚染しているから、そこに持って行こうという理屈は、県外で除染した廃棄物についても、依然根強い「福島に持って行け」という発想と似ていて、それでよいのかという思いも実はあります。
また、福島県内では中間貯蔵施設に30年間保管して、その後は法律により県外に持っていくことになっているわけですが、そこはどうなのか。どこに持っていくのか。この廃棄物の放射能はそんなに強くないので、安全に処分場をつくることはできるでしょう。でも県外のどこに持って行くかを決めることは非常にむずかしい問題です。
一般に高レベル廃棄物の処分は、現状ではとても無理です。国内では処分場もまとまらず、経済的に困っている外国に押しつけるようなことになるのでしょうか。やっぱり、自国で出た廃棄物は自国内で処分する。自国内で処分できないのなら、そういう放射性廃棄物を発生させないようにすべきです。
事故炉の燃料の取り出しは、30〜40年かけて行うことになっていますが、果たして取り出すことができるのか。まず燃料が格納容器なり原子炉容器の中でどういう状態で散在しているのかを調べることから始めなければなりませんが、まだ調べてもいない。結局、確実なのは、もう少し放射能が弱くなってからカメラを入れて遠隔操作で状態を見ることになるでしょうし、取り出し方を相談するのは、その先の問題でしょう。30年、40年経って本当に廃炉まで持っていけるかわからない話で、なかなか厄介な事態です。
■安倍政権の原発政策は異常
――安倍政権の原発再稼働・輸出推進政治に自民党内からも批判が噴出しています。
福島原発の事故原因が解明されず、事故が真に「収束」できていないなかで、原発を海外に売り込むというのは、無責任で異常な事態だと思います。原子力産業界、財界は原発を残したいが国内で増やすのは無理だろう、ならば海外輸出しかないということで、首相が先頭になってやっているのですが、危険の海外拡大になるだけです。
原子炉の安全性を研究する科学者はたくさんいますが、放射性廃棄物問題の研究者は決して多くない。加えて、プルトニウムの核兵器への転用問題もあります。インドはカナダから輸入した発電用原子炉から、北朝鮮は旧ソ連から輸入した原子炉からプルトニウムを分離して核兵器を作った。核兵器が一方であるなかで、平和目的に限った原子力利用といっても、そこの問題がクリアされない。その意味でも、核兵器廃絶という課題が真摯に追求されるべきです。
加えて私は、「9・11事件」を受けて、原発テロの問題を直視すべきだと考えています。仮に原発が安全になり、放射性廃棄物も安全に処分できるようになり、核兵器転用問題がなくなったとしても、仮想敵国を想定して互いにミサイルをいつでも発射できるような国際状況のもとでは、原発は第一級の攻撃目標になるでしょう。今日の国際社会の下では原発は作れない、なくしたほうがいいと思います。 |
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