憲法を壊す政治から憲法を生かす政治への転換を
小沢隆一(東京慈恵会医科大学教授〈憲法学〉) |
| (2021.6.15) |
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憲法施行74年
戦争への痛切な反省の上にたち1946年11月に公布された日本国憲法は、この5月3日で施行74年を迎えました。その前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのない」ようにと決意して第9条を定めたこの憲法を、安倍晋三前政権は一貫して敵視し、改憲策動を続けてきました。これに対して市民と野党の結束した反対運動が立ちはだかり、窮した安倍政権は昨年9月に退陣しました。それでも後を継いだ菅義偉政権は憲法破壊の姿勢をあらわにしています。
菅政権の策動は、明文改憲の旗振りに余念のなかった安倍政権と比べて、憲法をないがしろにする政治姿勢は引けを取らず、国民に対する説明責任を果たさずに、反憲法的な既成事実を積み上げていく点においてその危険性は劣るところがありません。基地周辺の住民を監視しその私権を制限することを狙う「土地利用規制法案」などはその最たるものです。
危険な日米同盟の強化
とくに顕著な動きは、安保法制(戦争法)を発動して日米軍事同盟の強化を強引に推し進めようとしていることです。バイデン米政権発足後初となる日米首脳会談が、4月16日、ワシントンで開催されました。会談後発表された共同声明では、日米同盟を、「インド太平洋地域、そして世界全体の平和と安全の礎」と位置づけ、これを新たにすると宣言しました。また、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調して、中国に対する軍事的対抗の姿勢を鮮明にし、日本の防衛力の増強、辺野古や馬毛島での基地建設の推進、在日米軍駐留経費負担の継続を盛り込んでいます。これらはむしろ軍事的緊張を高め、中国に対するアメリカの戦争に日本が武力を用いて加担する危険をかつてなく増大させるものです。
声明が反対を表明する中国による東シナ海での現状変更の試みや南シナ海での海洋権益に関する主張や活動は、断じて許されない国際法違反の行動です。しかし、これに日米軍事同盟の強化で対抗することは、問題をかえって深刻化させます。憲法9条の精神のもと、国際法に基づく道理を尽くした平和的な外交交渉で問題の解決をはかるべきです。
コロナ禍の克服を阻害する軍事
今まさに世界の人々を苦しめているコロナ禍の克服をめざすうえで、軍事力には出番がありません。それどころか、コロナ対策としての医療の拡充をはじめとして、命とくらしを守る政治にとって、核戦力や軍事費の重圧はむしろ阻害要因にほかなりません。韓国は、2020年4月に補正予算で、F35ステルス戦闘機、海上作戦ヘリコプター、イージス艦などの軍事費を削減し、全世帯に「緊急災害支援金」を支給する財源に充てることなどを決めました。それに対して、日本の2020年度予算における5兆円を超す防衛費には、F35戦闘機をアメリカから「爆買い」する1000億円や、海上自衛隊の護衛艦「いずも」を事実上の空母に改修する予算、沖縄県民の反対を押し切って強行している米軍辺野古新基地建設の予算などが含まれています。2021年度予算では、「敵基地攻撃」が可能な長距離巡航ミサイルの開発費などを含むさらなる軍拡予算となっています。これらの予算を削減し、コロナ対策や福祉、教育をはじめとした人々の命とくらしを守る支出に回す決断をすべきです。
アメリカからの武器の「爆買い」をやめて、対米従属から脱した政府の樹立が、今こそ切実に求められています。対米従属の根源は、憲法9条をゆがめる日米安保条約にあります。政府に憲法9条を堅持して、安保条約による軍事同盟体制からの脱却をめざすよう求めていくことは、国際社会と協調してコロナ禍を克服していくうえで、重要な課題です。
憲法を守りコロナ禍の克服を
コロナ禍によって、「政府に憲法を守らせる」という立憲主義の課題は、新たな状況を迎えています。コロナ禍に苦しむ人々の命と暮らし、仕事を守るために、今こそ、憲法に規定された人権を尊重する政治が切実に求められています。またそのためにも、国民の総意を政治に反映させるべく、憲法が定める民主的な手続に従いながら、政治決定を適切に行い、命、くらし、仕事を守る政策を迅速に実行すべき責務が国会と内閣、自治体にはあります。そして、コロナ禍の克服は、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」との日本国憲法前文の理念にもとづいて進めていくべきです。コロナ感染を抑えるうえで喫緊の課題である地球上のすべての地域の人々へのワクチンの平等かつ迅速な接種は、この理念の実現にほかなりません。
菅政権の改憲策動に声をあげるとき
菅政権と自民党は、一方で6月11日の改憲手続法の「改正」を「足がかり」にして改憲案の国会での審議を画策しながら、他方で「敵基地攻撃能力」の保有、日米共同声明などにより、憲法破壊を実質的に推し進めています。5月3日には、菅首相は、改憲派の集会に自民党総裁としてビデオメッセージを寄せ、新型コロナウイルスの感染拡大に触れ、大災害などのときに内閣が国民の権利を一時的に制限する「緊急事態条項」について、「極めて重く大切な課題」と語りました。そのうえで、同条項や、憲法9条への自衛隊明記を含む自民党「改憲4項目」の実現をめざす考えを示しました。
菅政権と自民党のこうした憲法破壊と明文改憲の策動に対して、今こそ、市民が声を上げるときです。改憲NO!の声を、地域・草の根から挙げましょう。4月25日の3つの国政選挙が示すように野党共闘が着実に成果を上げています。市民の力で、来る総選挙では改憲反対の勢力を大きくして改憲を断念に追い込み、憲法を破壊する政治から憲法を活かす政治への転換を実現しましょう。
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