| [福島原発事故から8ヵ月] いま放射能汚染にどう向き合うか |
| 野口邦和・常任世話人・日本大学歯学部准教授に聞く(2011.11.15) |
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東京電力・福島第1原発事故から8ヵ月余。収束の見通しがなお不透明なもとで、放射能汚染に見舞われた人々は不安を抱えつつも「被ばく線量を少しでも下げたい」と懸命な取り組みを続けています。
同時に、原発再稼働の思惑がらみで原発被害を小さく描く論調が強まる一方、放射能汚染の強調と結んで前途を悲観する向きも小さくありません。
「現状をどう見ればいいのか」「正確な情報がほしい」との声が切実さを増すなか、マスコミでも積極的な発言を続ける放射線問題の専門家、野口邦和さんに、放射能汚染の現状と見通しから、今後の対策と政府の責任問題まで話を聞きました。
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〈目次〉
○現在の汚染状況は?
――セシウムの影響が問題
○放射能は希釈拡散しないか
――陸上はだめだが海では期待できる
○空中への放出は収まったか
――3月頃に比べると桁違いに減っている
○セシウム137は半減に30年かかる?
――137の放出量は半減期2年の134と同じ
○避難地域に戻れるか
――優先すべきは人が今住んでいる地域の除染
○草木は大地の浄化に役立つか
――植物の放射能吸収率は1%以下
○除染はどうすればよいか
――表土を剥がすのが確実
○放射線量はどう測るか
――陸上の計測にもとづき対策を
○チェルノブイリ事故との違いは?
――放射能割合が異なり、線量が早く減る
○政府の姿勢をどう見るか
――小手先の対応でなく根本的な議論を
■現在の汚染状況は?
――セシウムの影響が問題
大気中に放出した放射性物質は、常温で気体状のものと、沸点が低くて気体になりやすい核種が主で、希ガス、ヨウ素、セシウム、テルルなどを含めて20種類ぐらい出ています。ストロンチウムやプルトニウムなどは沸点が高くて気体になりにくいため、陸上に出たストロンチウム90はセシウム137の1千分の1から1万分の1程度の濃度にすぎません。
希ガスのキセノン133は半減期が短いし、人への影響という点でも、体内に入ってもすぐ出てしまうので問題にならない。最初の1、2ヵ月はヨウ素131が大問題でしたが、その半減期は8日ですから、すでに消滅しています。だから、いま大地に残っていて人への影響も大きいという点で言えば、セシウムに限られます。
海のほうはどうか。海に流れ出た高濃度汚染水は、原子炉の中で溶融した燃料や核分裂生成物(放射性物質)が炉の冷却水に溶け込み、その一部が海に流れ出たもので、これもヨウ素、セシウムの放射能が一番強いのですが、それ以外にストロンチウム90がセシウム137の20分の1ぐらい出ている可能性があります。これはやややっかいです。セシウムは一度採り込んでも割合体外に出やすくて、70〜80日で半分ぐらいに減りますが、ストロンチウム90は骨に沈着しやすく、一度採り込んでしまうと18年ぐらい経たないと半分に減りません。それだけ長期間にわたる被ばくを与えるので、骨のガンや白血病の原因になりやすいのです。
プルトニウム、ウランについては、1、2、3、4号炉の溜まり水が全部分析されていますが、いずれも検出限界値以下ですから、現在の海の汚染はほぼセシウムとストロンチウムだけと言い切っていいと思います。
なお、東京電力は放射能の放出量を大気中と海に単純に分けていますが、実際は空気中に出たものの半分くらいは海に落ちていることを見落としてはならないと思います。
■放射能は希釈拡散しないか
――陸上はだめだが海では希釈拡散する
放射能の希釈拡散について言うと、陸上ではそれが期待できないので、これから何十年と放射能の監視をやる必要があります。やがて地域を絞っていくことになるでしょうが、食物の監視は何十年と続くのではないでしょうか。
海のほうは現在は希釈拡散が期待できます。ただ、3、4月頃は期待できなかった。当時、原子力安全・保安院は、「太平洋の体積と高濃度汚染水の体積を考えれば希釈拡散できるから全然問題ない」と言っていました。しかし、当時の海水は1年の中でも一番冷たく、海水より5〜10度温度が高くて軽い高濃度汚染水は、冷たい海水の上に乗っかった状態で移動するから希釈拡散しにくいのです。実際、4月3日に、事故現場から南に70キロ離れた日立沖で獲ったコウナゴからキログラムあたり4080ベクレルのヨウ素が見つかりました。これには、政府も相当驚いたのでしょう、その翌日、急きょ魚介類のヨウ素についての規制値を決めましたから。
ただ、夏を経過したいまの時期になると、海水の温度は上がり、高濃度汚染水の温度は下がっていますから、今後は希釈拡散が期待できます。海の汚染については、ストロンチウム90が出ている可能性があって、これはやっかいだが、もう一方ではこれからは希釈拡散が進むという両面を見ておく必要があります。
■空中への放出は収まったか
――3月(2011年)頃に比べると桁違いに減っている
原子炉の損傷箇所は依然として塞がれていないし、放出は完全に止まってはいません。しかし、原子炉は冷えてきており、野田首相はひと月ぐらい前に、1日あたりの放出量は3月頃の400万分の1ぐらいに減っていると発表しています。
3月頃は、雨が降ると空気中に漂っていた放射性物質が地表に落ちて地上の放射線量が上がったのですが、4月中旬以降は雨が降っても線量が上がらなくなっています。ということは、空気中にはほとんど漂ってないということで、桁違いに減っていると思いました。実際、4月末に福島県の二本松市で空気中の粉塵を測定していますが、放射能はなかった。ですから、今も少しは出ているのですが、生活に影響が出るレベルではないと言えます。
■セシウム137は半減に30年かかる?
――137の放出量は半減期2年の134と同じ
大地の放射能汚染の中心問題は放射性セシウム対策ですが、セシウムの放射線量は30年経たないと半分にならないと思っている人がたくさんいます。しかしそれは、セシウム137の半減期が30年であることによる単純な思い込みです。原発事故で放出されたセシウムは、137とともに半減期が2年の134があって、その2つの放射能の3、4月時点の放出量の割合は1対1です。ところが、放射能としては1対1の割合でも、人間への影響を考えるさい重要な放射線量で見ると、最初のうちは全体の4分の1をセシウム137が、4分の3をセシウム134が占めるのです。なぜかというと、セシウム134は137より約3倍も放射線を出しているため、放射線量が約3倍高いのです。134の半減期は2年ですから、線量がどんどん減っていくのです。
結局、全体の線量は、3年で半分、6年後に3分の1になって、10年経つといまの4分の1以下になってしまうのです。この点がチェルノブイリ事故との違いで、チェルノブイリではセシウム134と137の割合が1対2だったのです。今回、セシウム134の割合が多かったということは、線量がどんどん減っていくという意味では不幸中の幸いとも言えます。
■避難地域に戻れるか
――優先すべきは人が今住んでいる地域の除染
現時点で放射線量が毎時20マイクロシーベルトのところは、10年経ってもまだ5マイクロシーベルトの高さです。5マイクロシーベルトというと、年間20ミリシーベルトの累積外部被ばく線量をはるかに超えますから、いま毎時20マイクロもあるようなところは、10年経っても戻ることは難しいと思います。
除染するにしても、線量が高いから作業者の被ばく問題などをクリアするのはかなり大変です。そういうところは、線量が高くて危険ないま無理に除染しようとしないで、10年経てば放射線量はいまの4分の1以下になるのだから、線量が減ってから除染したほうがいい。政府は人がいるところは各自治体が除染し、自分たちは避難地域を中心になどと言っていますが、やはり優先順位が間違っています。私は、福島の除染については、「中通り」などいま人が住んでいるところを最優先すべきだと思っています。
避難しているところは、早く戻りたいとの思いはあるでしょうが、放射能汚染は現に起こってしまったことなのです。除染するといっても、山の多い地域の除染は世界でも経験がなく、技術的にもいろんな困難があると思います。もう戻りたくないという人には別途、土地を用意して家を建てるとか、もとの土地は買い上げるなどの補償は当然、必要になってくるでしょう。
いずれにしても、食べ物だって今年が一番濃度が強い。来年以降はセシウム134のほうはどんどん減るので、外部被ばくにしても内部被ばくにしてもこの2、3年間、いかに被ばく線量を下げる努力、工夫、行動をしっかりして生きるかが重要だと思います。
■草木は大地の浄化に役立つか
――植物の放射能吸収率は1%以下
結論から言うと、植物で土壌を浄化するというのはほとんど無理だと思ったほうがいいと思います。野菜や樹木による土中の放射能の移行率は、平均すれば1%以下にすぎません。耕していないかぎり、汚染しているのは表面1センチぐらいで、植物の根はもっと深いところに張っていますからね。セシウムは土の表面にしっかり吸着していて、雨が降っても地下にしみ出さないのです。
過去のアメリカ、イギリス、ソ連などによる大気圏内核実験で地表に降ったセシウム137が30年後にどうなったかを調べたデータがあります。それによると、30年経っても地表わずか5センチぐらいまでにセシウムの97%が、10センチぐらいまでに99%がとどまっているのです。
だから、例えば雨で流れてコンクリートに落ちたセシウムは側溝に入りますが、側溝は雨水が流れるにもかかわらずなぜ線量が高いかというと、側溝に溜まっている泥にセシウムが吸着しているからです。樋下の線量を下げようとして水を流した人がいますが、全然下がらなかった。セシウムは水に溶けやすい元素ですが、土に吸着すると水に溶け出さないのです。だから、植物にもあまりいかないし、地下水の汚染も心配するほど深刻にはならないのです。
■除染はどうすればよいか
――表土を剥がすのが確実
除染は学校の校庭で実施したように表土を剥ぐのが確実です。とにかく表面5センチぐらいを剥がす。側溝は溜まっている泥を取り除く。草むら、芝生なら剥がす。樋下の土は取る。本当は、土の上1センチぐらいを剥がせば十分だし、汚染土壌の体積が減っていいのですが、1センチ剥がすのは技術的に難しいから多めに5センチぐらいまで剥がしていますね。
汚染土をどう処理するか。とりあえず平らな所はいま剥がして、泥はすくって、個人の家なら庭の隅に穴を掘って埋めてもよいでしょう。しかし、地域社会全体となると量が多いから、埋めるというよりどこかに保管所をつくって、そこに何年か安全に保管するようなかたちになると思います。
ほんとうにいま、福島の「中通り」などは除染が第一優先課題です。校庭の表土や公園の一部も剥いだので、あとは地域社会全体の除染ですね。全部剥がす必要はなくて、線量の高いところを取り除くことが重要です。
■放射線量はどう測るか
――陸上の計測にもとづき対策を
線量は地域、地域で違ってきます。いま、文科省の「汚染マップ」がとりあえず前提データになるのですが、あれは具体的対策には使えないのです。「汚染マップ」の線量値は上空150〜300メートルで測っていて、いかに高感度放射線測定器を使っているといっても、そんなに信頼性の高い数字ではありません。しかも、観測点は2〜3キロ間隔で目も粗い。新潟県知事などは自分たちが陸上で測ったデータと大分違うと抗議しているくらいです。
ただ、山の中のデータはこれまでなかったわけだから、「汚染マップ」で大雑把であるとしても全体状況が把握できます。だから少なくとも「汚染マップ」で高い数値が出た地域については、実際はどうなのかを陸上で10メートル間隔くらいで詳しく測る必要があります。その測定にもとづいて必要な対策をとるべきだと思いますね。
福島県只見町が「汚染マップ」で山中に高い数値のところがあって心配だというので、私が先週、行ってきたのですが、街中の測定値は0・14〜0・15マイクロシーベルトでした。町の責任者の方から「除染が必要か」と聞かれたので、「その必要はありません。東京の千代田区と同レベルですよ」と言いました。やはり、被ばくが心配だからと過敏にならず、冷静に対応することが大事だと思います。
■チェルノブイリ事故との違いは?
――放射能割合が異なり、線量が早く減る
チェルノブイリ事故と福島との大きな違いとして、セシウム137と134の放射能割合が違うことは先ほどふれました。
もう一つのチェルノブイリとの違いは、福島原発は海に面していたことです。つまり、大気中に出た放射能の半分は海に落ちてしまって、陸上の汚染はその分、減っているわけです。今回出たセシウム137が、原子力保安院の発表通りにチェルノブイリ事故の量の6分の1、7分の1だとすると、高濃度汚染面積はチェルノブイリの12分の1〜14分の1ぐらいにとどまるかもしれません。いずれにしても、陸のほうは希釈拡散が期待できないので、大気中に出た放射能の半分が海に落ちたのは不幸中の幸いですし、福島はチェルノブイリのような広大な汚染面積でないとすれば、除染には有利になると思います。
また、福島ではチェルノブイリのように原子炉そのものが爆発したわけではないから、主として気体状、揮発性以外の放射性物質はあまり出ていない。やはり、揮発性でないプルトニウムやストロンチウム90などが、陸上の汚染が無視できないレベルで出てしまうと、大問題になってきますね。
■政府の姿勢をどう見るか
――小手先の対応でなく根本的な議論を
福島県について言えば、政府はとにかく「中通り」など人が居住している地域の除染を第一優先課題として責任をもって実施してもらいたい。そのうえで、次の優先課題として避難地域の除染を考えるべきです。
そして大きな視点に立てば、政府はこういう重大事故を起こしたいまの原発をこのまま続けていくのかどうか、海外への輸出を含めてこれまでの原発推進の政策を続けていくのかどうか、その問題できちんと責任をとるべきだと思います。
東電は今回の事故について、??地震の揺れに対しては大丈夫だったけれども津波が想定外だった?? と言いますが、果たしてそうなのかどうか。本来、このあたりをしっかりとチェックしないといけないのに、政府はそこをあいまいにしたまま環境省のもとに原子力安全庁を作るなどの組織いじりを進めて、小手先の対応でごまかし始めています。
「ストレス・テスト」にしても、だれがそれを実施するのかが問題だし、原子力安全庁作りなどの組織いじりの前にこれまでの原子力行政への反省が重要なのにそれがない。名称だけ変えて同じようなメンバーがやっていくのでは何にもならないですからね。政府は、いま自らに問われている責任問題は、小手先の対応などで凌げないことを、もっと深く自覚すべきだと思います。
(のぐち・くにかず 日本大学歯学部准教授・非核の政府を求める会常任世話人)
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