| ヒロシマからフクシマへ |
| 浦田 賢治・国際反核法律家協会副会長・早稲田大学名誉教授(11.7.15) |
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(1) 核時代の終焉を求めて
「フクシマ」原子炉事故はいまだ収拾の目途もたたず、スリーマイル島事故やチェルノブイリ事故よりも深刻な人類史上の惨事かもしれない。いま日本と世界の反核運動は、あらたな課題に向き合っている。核時代の全体像を描きなおすこと、これを通じて「原子力と核兵器は違う」という二分法を克服することである。また「原爆の被爆者」と「原発の被曝者」をともに援護することである。
核時代はマンハッタン計画の成功に始まり、原子力平和利用計画の推進とともに進んだ。1945年8月、アメリカ政府首脳たちの重大な犯罪行為によって人類は、ヒロシマ・ナガサキという未曾有の惨禍を経験した。しかし米ソ両国は核軍備拡大競争をすすめ、「核の傘」で守るNATOとワルシャワ条約機構を作った。53年12月8日、米大統領アイゼンハワーは、核戦略上の配慮からして「原子力の平和利用計画」(Atom
for Peace)と題する国連総会演説を行った。
以来、原発は世界にひろまった。こうして核時代の人類は、ダモクレスの剣の下にある。生き残りの希望を持続するため、核時代の終焉を求めて反核運動を再構築することが、人類の将来展望を切り開く一歩である。
精神分析学者のロバート・リフトンは、書いている。「フクシマ」は「ヒロシマ」とはもちろん異なる。人類を最も危険にさらしているのは核兵器である。しかし原子力推進派は、「原子力と核兵器は違う」という二分法を人々の心に植え付けることで、ようやく主流派になれた。私たちは、この二分法を乗り越えるべきだ。発生源がどちらであっても放射能の影響は同じだ。また、核の連鎖による「爆弾」と「炉」の密接なつながりは、払拭できるものではない、と。
私は、核兵器と原発を区別する論理に対して、両者の関連の論理を対置しなければならないと思う。核エネルギー技術は核兵器技術と共通するもので、核兵器拡散につながる。私は日本国憲法の立場にたって、無責任で非人間的な原発の擁護論に反論する。原発の技術は持続的にコントロールできず、環境への脅威であり続け、気候変動を防ぐものでない。しかもそれは、全経費を参入すると極めて高くつき、廃棄物処理の目途さえつかない、将来世代へのお荷物である。
憲法でいう民主主義社会は人間の尊厳という価値観を共有する。原爆の被爆者も原発の被曝者も、放射線が身体、遺伝、心理、および社会に及ぼす影響において共通である。こうして人間の尊厳をおかされ、生活の質を貶められる。原爆被爆者が、原発被曝者を支援する活動はすでに始まっている。こうした人々を、反核運動が援護することは緊急の要請である。
(2)人道にたいする犯罪
チェルノブイリ事件は「レベル7」の重大事態である。最近になってようやく、この例で死者は百万人に及んだといわれるようになった。これまでのWHOやIAEAの見解と異なり、ヤブロコフ博士ら専門家が一昨年秋発表したものだ。とりわけ重大なのは、原発の副産物プルトニウム239の半減期が2万4千100年にわたり、半永久的に環境を汚染する。これが微量でも体内に沈着すれば癌や遺伝的影響を引き起こし、将来世代に深刻な影響が持続する。「フクシマ」も、「レベル7」の重大事態である。
ウィーラマントリー判事によれば、市民はみな、一人ひとりが環境の受託者だ。各国の政府の担当者は、この点で特別の責任を負っている。原発の恐るべき帰結は将来世代へ破局的な損害をあたえるだけではない。太陽光その他の再生可能エネルギー源は、世界が必要とするあらゆるエネルギーを供給できるのに、それらを無視することになっている。原子炉の存在がテロリストの標的になっている。原子炉からでる廃棄物の総量は計測不能であるが、これを安全に処理する方法はない。これらのことを知りながら、原発を存続し拡散するのは、信託されたことに違反し続け、子や孫への責任を放棄することになる。道徳と法のいかなる基準に照らしても、正当化できない。現存する国際法、環境法、及び持続的発展に関する国際法の、あらゆる原則に違反する。政府当局者が新しい原発の建設を止めるため直ちに行動しなければ、危険を自覚しつつ将来世代に対する犯罪をおかすことになる。
そればかりか私は、原発の存続と拡散は、現存世代に対しても人道に対する犯罪になると考える。日本政府と東京電力によって、一般市民である地域住民の人間の尊厳に対する深刻な攻撃がなされ、生活の質を極端におとされるなど、非人道的行為がなされている。そういう意図はないと弁明するかもしれない。しかし意図に関する要件は問題にならない。
人間の尊厳が攻撃されている点で、原発の生存被曝者がうける苦しみの質はヒロシマ・ナガサキの被爆者のそれと共通するものがある。しかも、この原発被曝者の数は桁違いに多く、いまなお定かでないほどだ。フクシマで、内部被曝を含む低線量被曝が、現場労働者や子どもたち、地域住民の生命、健康と安全に現実的に脅威を及ぼしている。しかも排出放射性物質の悪影響は大気と海洋をふくむ地球環境に及び、生態系の破壊と繋がり人類の生存に関わる。この認識を人類社会は共有し、脅威を減らす方策を日本政府と東京電力は実施しなければならない。
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