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 ●シリーズ・被爆の実相
 
シリーズ「広島・長崎被爆の実相」
 第5回 核エネルギーとはC
中嶋篤之助

 中性子が発見されてまもなく、ドイツのハイゼンベルグは原子核が陽子と中性子から構成されていると結論しました。こうしてヘリウム4の核は陽子2個と中性子2個によって構成されていることになり、同様にして酸素16は陽子8個と中性子8個から構成されます。
 陽子・中性子核模型によって、質量数と原子番号の点については完璧な説明ができます。もし原子核がx個の陽子とy個の中性子によって構成されているなら、質量数はx+yとなります。
 陽子・中性子模型は同位体についても完璧な説明ができます。酸素16、17、18という三種の同位体は、最初のものが陽子8個と中性子8個、第二のものが陽子8個と中性子9個、最後のものが陽子8個と中性子10個から構成されているのです。原子番号はすべてに共通して8であり、質量数が16、17、18と分かれているのです。同様にしてウラン238は陽子92個と中性子146個から、ウラン235は陽子92個と中性子143個から構成されています。
 この陽子・中性子模型の唯一の欠点は、核から電子が排除されてしまったために、原子核の内部には、正電荷の陽子と電荷のない中性子だけとなったことです。ビスマス209を例にとれば、93荷の陽電荷が押し込められながら、分解しないでいるということになります。
 中性子の発見までは、粒子に働く「力」、より一般的には「作用」としては、万有引力と電磁作用だけを考えればよかったのです。ごく短い距離に接近して存在する陽電子どうしを結びつける新しい作用を考えねばなりません。その作用は電磁作用よりははるかに強く、しかし距離によって減衰してしまう性質をもっていなければなりません。
 1932年、ハイゼンベルグはこの力、「核力」がどうして生まれるのかを解明しようとしました。彼は引力にせよ反発力にせよ、これは引きあったり、反発しあっている物体間で、ある種の粒子が交換されているせいであるという仮説を発表しました。電磁作用の場合は、交換粒子の役割をしているのが光子(フォトン)であり、波動(電磁放射)はすべてこれで構成されています。重力の場合は重力子(グラビトン)の交換によるとされています。光子も重力子も質量はゼロで、電磁作用も重力も距離によってはその働きは大きく変化しない「遠隔力」である点が共通しています。一方、核力は距離が遠のくと急激に作用が弱まる至近力であり、その交換粒子は質量を持つでしょう。
 1935年、湯川秀樹博士は核力に介在する交換粒子の特性を決定する詳細な理論の研究を完成しました。この交換粒子の質量は電子の約250倍で、陽子の七分の一ぐらいであるはずでした。これが現在「中間子」(メソン)と呼ばれるものです。この湯川の研究は物理学を原子核や原子の構造の研究から、素粒子の研究へと転換させる糸口となりました。

質量欠損
 さて、z個の陽子とn個の中性子からなっている原子核の質量を測定すると、それは陽子質量のz倍と中性子質量のn倍の和よりも軽くなっています。この軽くなった分の質量を質量欠損と言います。1927年にアストンは精密な質量分析器を開発し、この質量欠損を質量数で割った量が、質量数に対して滑らかな曲線を描くことを示しました(図参照)。
 質量欠損の大きさは原子核の全質量の1%弱です。質量欠損の原因は核子を結びつけている強い力(核力)にあります。すなわち、原子核をばらばらの核子に引き離すために必要なエネルギー(結合エネルギー)と質量欠損とは等価です。大きい質量欠損は強い結合を意味します。一核子当たりの質量欠損が最も大きいのは、鉄の原子核です。  原子核が二つに壊れる核分裂は、親原子核の質量欠損より娘原子核の質量欠損の和のほうが大きい場合に起きます。核融合はその逆です。核分裂あるいは核融合の前後における質量の差、すなわち解放された結合エネルギーは運動エネルギーとなります。これが核エネルギーの源です。


 (なかじま・とくのすけ=常任世話人・核化学者)