| シリーズ「広島・長崎被爆の実相」 |
| 第26回 核融合爆弾とは |
| 中嶋篤之助 |
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熱核爆弾あるいは水素爆弾とも呼ばれる核融合爆弾は、核分裂とは逆の過程、すなわち軽い原子核から思い原子核を作るという反応によってエネルギーを得ています。この目的のためにこれまで用いられた唯一の元素は水素です。水素の重いほうの同位体である重水素(2D)と3重水素(3T)についての4種類の核融合反応が重要であり、それを別表に掲げておきます。
これらの反応のうち3つは中性子の放出を伴っています。また核分裂で放出されるエネルギーより、少なくとも1桁小さいのですが、反応に関係している核種の質量を考えると、単位質量あたりでは核融合反応のほうが核分裂反応よりも平均3倍は効率的であることがわかります。
1個の中性子があれば連鎖反応を始めることのできる核分裂とは異なって、持続性の核融合反応は、反応に関する原子核がそれらの間に作用する反発力(原子力の正電荷によって生じる力)に打ち勝つことができるだけの高いエネルギーを持っていなければ始まりません。必要なエネルギーは色々な方法で供給できますが、爆弾で用いられている方法は、物質の温度を上げて粒子のエネルギーを高める方法です。そのためこの反応は熱核反応と呼ばれています。もっとも達成しやすい重水素と3重水素の反応(D─T)の場合でも、持続させるには約1億K(ケルビン)の温度が必要です。
こういう高温を作り出す唯一の方法は、爆発の瞬間にこうした高温を生じることのできる原子爆弾だけです。したがって、水素爆弾はすべて2つの段階からなっています。すなわち、引き金として働く核分裂爆弾と、それによって作り出された熱で点火される核融合混合物とです。
かなり半減期の短い(12、13年)放射性気体である3重水素を直接使うのは面倒なことですが(米国が1952年、エニウエトク島で最初に行った実験では、このトリチウムを冷却するために巨大な装置を使った)、この問題は固体化合物であるLiD(重水素化リチウム)を使うことによって解決できます。この場合、リチウムは主として同位体6Lidで構成されているものを用います。それは核分裂で生まれた中性子が、次のような反応でリチウムをヘリウムと3重水素に変えるからです。
6Li+1n=4He+3T
こうして作られた3重水素が重水素として反応して(表の3の反応)核融合のエネルギーを放出します。したがって、原子爆弾の引き金は高温度を作り出すだけでなく、熱核反応のための材料(3重水素)を作るのにも役立つわけです。
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| 核融合反応による水爆には爆発力の上限はない |
核融合反応には臨界量はないので、原理的には、水素爆弾の放出する総エネルギー量、すなわち爆発力には上限がありません。しかし、実際には、核融合材料(重水素と3重水素または重水素化リチウム)が核分裂の引き金の周囲にあっただけでは、多量の核融合物質を利用することはできません。その理由は、引き金によって作り出された非常な高温と高圧が、ほんの一部の核融合物質に点火しただけで、全システムを吹き飛ばしてしまうからです。原子爆弾の場合のように重い金属のタンパーを使えればよいのですが、それには限界があります。問題は、大量の核融合物質に十分なエネルギーを加えて、爆発が起こるよりも短い時間のうちに熱核反応を開始させることです。このためには、ほぼ光の速度に近い速さでエネルギーを加えなければならないのです。
この問題は、次のような事実を使えば解決できます。すなわち、核分裂の引き金による非常な高温のもとでは、エネルギーの大部分はエックス線の形で放出されます。中心部から放射され光速度で進むエックス線は、タンパーに達するとこれに吸収、直ちに少し波長の長いエックス線の形で再び放出されます。引き金と核融合材料を適当な形に配置すれば、エックス線がほとんど瞬間的に核融合材料に達するようにすることができます。核融合物質がいくつかの部分に分かれており、それぞれが重い金属でできた薄い吸収体で囲まれていれば、爆発で集合体全体が分散してしまう前に、熱核反応をはじめさせるに必要なエネルギーを、大量の核融合物質が同時に受けることになります。
注 ここで述べた引き金の役割をする核分裂爆弾と核融合材料の実際の配置は軍事機密≠ナあって、公表されたことはありません。
しかし、いずれにせよ、こうした技術を使えば、非常に巨大な爆発力を達成することができます。意実、旧ソ連は1961年の爆発実験で約60メガトンの水素爆弾を爆発させています。これは長崎原爆の約3000倍も強力です。しかし、これが限界というわけではありません。
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| 核分裂・核融合・核分裂爆弾──3F爆弾 |
水素爆弾の高性能タンパーをウランで作ると、さらに効果が大きくなります。熱核反応で放出された中性子は、ウランに核分裂を起こさせて、さらにエネルギーを放出し、総破壊力を非常に大きくします。ウラン同位体の大部分を占めるウラン238は遅い中性子では核分裂を起こしません。しかし、熱核反応で放出される中性子は非常に速いので、ウラン238の原子核分裂を引き起こすことができます。天然ウランまたは劣化ウランをタンパーとして使うと、水素爆弾の効率をより向上させることができます。
このようにウランのタンパーをつけた爆弾は、3段階にわたってエネルギーを放出します。第1段階は引き金となる核分裂(Fisson)、第2段階は核融合(Fusion),第3段階はタンパーでの核分裂(Fisson)です。このために第3段階では、第1段階と同じように大量の放射性物質が作られますが、その規模ははるかに大きいのです。なぜなら第2段階で生じる中性子は第1段階よりもずっと多いからです。この型の爆弾では、総爆発威力のうち核分裂の占める割合が大きくなりますが、その比率は爆弾の構造によって異なります。兵器の装荷重量(ペイロード)が同じならば、第3段階を利用したほうが爆発威力は遙かに大きくなるので、現実にはこの3段階爆弾が一般に用いられていると考えるのが妥当でしょう。
しかし、この種の爆弾は非常に「きたない」と考えられています。というのは、生成される放射能の量が、核分裂爆弾の何千倍にもなるからです。ウランに捕獲された中性子の一部は、核分裂を起こさずにウランをプルトニウムに変換するので、爆発の結果として大量のプルトニウムも作られます。
日本国民にとって忘れることのできない1954年3月1日のビキニ環礁でのブラボー爆弾の実験は、この3F爆弾によるものでした。その威力は15メガトンであったと推定されています。
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(なかじま・とくのすけ=常任世話人・核化学者)
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