| シリーズ「広島・長崎被爆の実相」 |
| 第15回 ウラン濃縮 |
| 中嶋篤之助 |
|
ウランに二つの同位体、U-238とU-235が存在することは、質量分析器による測定によってつとに知られており、また核分裂の発見直後にボーアとホイーラーの発表した予測により、熱中性子で核分裂を生じるのはU-235だけであることも知られていました。ウランの濃縮度と核爆発に必要な臨界質量との関係は、今日では図1のようになることがわかっています。すなわち濃縮度30%以下では、実際上核爆弾材料にはできないことがわかります。平和利用を目的にした濃縮ウランの輸出に対して、核不拡散を目的として濃縮度が通常20%以下に制限されるのは、この理由によります。
第二次世界大戦中のマンハッタン計画(原爆製造計画)でアメリカは、当時知られていたあらゆる同位体の分離法を試みました。それは核分裂性核種であるU-235を分離濃縮できさえすれば、容易に高性能の爆弾を作れる見通しがあったからです。
さて、現在では濃縮ウランの製造方法としてもっとも重要なものはガス拡散法で、特殊な隔膜を通して気体を拡散させると、気体分子の質量の比の平方根に比例して同位体の分離が行われることを利用します。六フッ化ウランは常圧で気体となる化合物ですが、圧縮のため昇温するので、操業温度は60℃前後と推定されています。
アメリカは核兵器生産のために、この方法にもとづく三つの巨大な濃縮工場を23億ドルの巨費を投じて建設しました(戦後の軍備大増強計画を含む)。その能力合計は1万7200トンSWU(分離作業単位)に達し、資本主義圏全生産量の95%を占めていました。このことが軽水炉が世界の原子力市場を制覇するのに利用されたのです。
|
| センシティブな技術 |
しかし、現在では、遠心分離法が発達しつつあり、図2に示すような縦型円筒を高速で回転させると、遠心力の作用で、質量数の大きいU-238は外側に、U-235は内側に集まりやすいことを利用します。ガス拡散法より分離係数はずっと大きく、かつ電力消費量も10分の1程度になると推定されています。周速の大きい長胴型の高性能遠心機が安価に量産できるなら、この方法は比較的小規模な工場で高濃縮ウランをつくることができるので、その意味で核拡散に直結した「センシティブな技術」なのです。
さて、マンハッタン計画では、「戦争が終わるまでに、できるだけ多数の原爆を作りたい」という軍部の意向が優先したために、通常の新しい工業生産方法のステップを無視した開発が強行されました。そのために研究段階ではミクログラム量のサンプルしか扱えなかった電磁分離法が採用されることとなりました。すなわちカリフォルニア大学のローレンスがサイクロトロンのために建設中であった巨大な電磁石が転用され、カルトロンと呼ばれる巨大な質量分析機の「お化け」ともいうべき装置がいくつも作られたのです。
広島に投下されたウラン爆弾には約60sの高濃縮ウランが使われましたが、その3分の2は電磁分離法によるものであり、ガス拡散法は熱拡散法とともに電磁分離法の原料供給法としてしか、その役割を果たせなかったのです。遠心分離法はかなりの実績があったにもかかわらず、無視され、採用されなかったのです。
|
|
(なかじま・とくのすけ=常任世話人・核化学者)
|
| |
|