| シリーズ「広島・長崎被爆の実相」 |
| 第12回 核分裂の連鎖反応 |
| 中嶋篤之助 |
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前回のアインシュタインの手紙の中でも指摘されているように、「フランスのジョリオ、アメリカのフェルミとシラードの研究によって次のようなことが明らかとなりました。大量のウランを使えば原子核連鎖反応が起こり、これによって莫大なエネルギーとラジウムに似た大量の新しい元素を作り出しうる」のです。
核爆弾の原理は単純かつ明快であるにもかかわらず、実際的には多くの困難が存在しました。第一の問題はウランだけが核分裂を起こすのですから、使用されるウランはできるだけ純粋な状態のものでなければならないということです。中性子がウラン以外の原子核に衝突すると、吸収されてしまって損失したことになり、連鎖反応の可能性が減ってしまうからです。当時ウランはほとんど用途がなくてあまり市場に供給されておらず、その精製や純化の方法についても十分知られているとは言えない状態でした。
第二にウランを大量に必要とする理由は、中性子が最初に出会ったウラン原子の中へ入っていくとは限らないからです。中性子は正面衝突して原子核に突入するまでにも、軽く衝突してはある距離だけ動き回るでしょう。
核分裂の連鎖反応が始まったとき、ウランの量を多くすると、中性子はますます多くなってゆき、核分裂はより緩やかに継続するようになります。最終的にはウランの塊が、ある大きさ(臨界寸法)になると、連鎖反応は絶えることなく、自己維持されるようになります。この時、十分な中性子数が存在すれば、核反応が常に一定の割合で起こっていることがわかります。そしてこの寸法より少しでも大きくなると反応の数は増加し、爆発への可能性が増加するでしょう。
この過程をスタートさせるためには必ずしも中性子を送り込まなくともよいのです。旧ソ連の物理学者G・N・フリョウロフは1941年、ウランが中性子の衝突なしでも、ときどき核分裂を起こすことを発見しました。原子核の気まぐれな振動が核力では復元できない形にまで核を歪ませてしまい、核が割れてしまうのです。この現象を自発核分裂と呼びますが、普通のウラン一グラム当たり、このような自発核分裂は平均して2分間に一回起こります。したがって、臨界寸法を超すだけのウランを集めただけで数秒以内に爆発が起こりますが、それは自発核分裂をした最初の核が連鎖反応の引き金役をしたからです。
核分裂の発見直後にボーアは同位体のウラン235(全体の0.7%)が核分裂を起こしていると考えられる理論的根拠があると指摘していました。そして実験結果が彼の正しさを確証したのです。ウラン238は核分裂をしないで低速中性子を吸収し、ベータ粒子を放出してネプツニウムとプルトニウムに変わるのです。つまりこの段階ではウラン238は連鎖反応を妨げていたのです。もしウラン235の比率を引き上げ、ウラン238のそれを引き下げれば連鎖反応の維持はより容易となり、臨界寸法も小さくできるでしょう。
そこでこの二つの同位体の分離に莫大な努力が費やされ、いわゆる「濃縮ウラン」が作り出されたのです。しかしフェルミたちが連鎖反応の確認のための実験に取り組んだころには、もちろん濃縮ウランはありませんでした。核分裂で出てくる中性子はかなり高いエネルギーを持っています。そのままではすぐにもあまりに遠くへ飛びすぎ、ウランの塊の外へ容易に出てしまいます。フェルミやシラードは減速材の存在が必要だと考えました。最初に水素がテストされましたが、吸収が大きすぎて不適当であることがわかりました。
次に選ばれたのは黒鉛でした。この選択はシラードの勘≠ノよるところが大きかったようです。
まず黒鉛の柱を使って、底部に中性子源を置き、その高さ方向に中性子検出器を置いて、その減衰を計るのです。検出器というのはロジウムの箔のことで、中性子で誘起された放射能を測定するのです。
こういう予備実験のあと、1942年の末に、いよいよ大量の黒鉛のブロックの内部に金属ウランや酸化ウランを錫の缶等に収めたものが積み上げられ、臨界寸法に近づけようとされたのです。黒鉛ブロックをたくさん積み上げたことから、この構築物はアトミック・パイル(原子堆)と呼ばれました。現在では、この核反応の自己維持装置は、日本語では原子炉と呼ばれるようになっています。制御装置としては、カドミウムの棒があちこちに挿入されていました。1942年12月2日午後3時34分、ウランの核分裂は自己維持されたことが確認されました。
「1942年12月2日、人類はここで最初の連鎖反応を成し遂げた。これによって最初の制御された核エネルギーの解放が始まったのである」
この文章はシカゴ大学のエンリコ・フェルミ研究所の向かいに立つ巨大な彫刻の下に掲げてある文字盤に刻まれたものです。
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(なかじま・とくのすけ=常任世話人・核化学者)
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